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第28話 内緒話

コンコンッ  「っ!?」  リョウタはノックの音に飛び起きた。トレーニングの予定時刻から2時間も過ぎていた。  「ぅわぁあああああ!!」 隣にサキもいない。起こしてくれよと内心裏切られた気持ちになってドアを開けると、ハルが立っていた。  「やっぱりいた!今日リョウタはオフか?みんな任務行ったぞ」  「えぇ!?…分かんないです…」  「そうか。…たぶんお前はここにいた方がいいんだろうな。」  「どういう…?」  疑問符が飛び交う頭の中で、ハルは取り敢えず朝飯、とリビングに誘った。  静まりかえったリビングに、ハルとリョウタだけ。カズキもいないようだ。  「どこ行っちゃったんだろ?アイリとユウヒは?」  「学校。珍しく、ミナトさんがカズキに送迎するよう指示があったんだ。…それに、待機命令。学校で待機してる。」  (何だ?)  何も思いつかなくて、ミナトの部屋のドアを見ていると、ドアが開いてリョウタの肩が跳ねた。  「あ、おはようリョウタ」  「おはようございます!」  「…不思議そうだね。実は任務が動いてるんだ。あの男色の組織の子会社がオークションをやっている。」  「オークション?」  「そ。小さな男の子から23歳までの男性を人身売買。ユウヒとヤった女を追ってたら、その女が子会社に入った。」  「へ?」  「ユウヒを狙ってるから、今日はその女からユウヒを守る。」  ミナトは情報を聞きながら、ゆっくり椅子に腰掛けた。  「リョウタは狙われるからお留守番。売りに出されたら取り戻すのにお金がかかるでしょ。」  「そんな!大丈夫ですよ!捕まりません!」  「護衛はユウヒで精一杯。今はレンがその組織に潜入してる。サキもずっと待機。誰もリョウタを守ることはできない。理解して。」  ミナトは微笑んだあと、何か聞こえたのか、表情が変わった。リョウタとハルは息を呑んだ。 「カズキ、そのまま。レン、撤収。サキ、集中してね。1発で決めて。」  事態が動いた様子に、手に汗が滲む。  (サキ…こんなプレッシャーのかかるポジションなんだ…)  「サトル、ユウヒの友だちも守れる?」  (友だちも狙われてるのか!くそ!何もできないなんて!)  目の前のハルは祈るように目を閉じている。深呼吸して震える手を握っている。  「サキ」  ミナトが名前を呼んだ瞬間、ミナトのインカムからたくさんの悲鳴が聞こえた。  「サトル、カズキの車に4人を保護。急いで。レンは撤収出来てる。……そう。良かった。サキ、良くやったね。戻っておいで」  ミナトはインカムを外してハルに笑った。  「無事だよ。向こうも意外に人数多かったから、サキとサトルがいて良かった。ユウヒと友だち達はビックリして号泣してるみたいだけど。」  怪我はないよ、とゆっくり立ち上がった、  「あ。リョウタ、自分を責めないでね?…必要な時には声をかけるから。」  「はい」  「…やっぱり今日のリョウタは任務に出さなくて良かった。サキが心配してたよ。案の定だね」  「案の定?」  「こんな顔できるんだね?エッチな子」  微笑んだ後、部屋に入って行った。  「どっちが!?ミナトさんがエッチじゃんか!!」  「しーっ!バカ!聞こえるぞ!」  「だって!今の顔!ミナトさんエロすぎ!」  「やめろお前!殺されたいのか!…ふぅ…アサヒさんいなくてよかったぁ…」 ハルに頭をポカポカ叩かれて、食いながらミナトの言葉を思い出す。  (「サキが心配してたよ」) その言葉にキュンとして顔を真っ赤にすると、ハルの手が止まって、ミナトさんの言う通りだよバカ、と怒られた。  「こんなデレると思わなかったな」  「もう、やめて下さいよ。付き合いたてだから」  「はは!可愛いやつ!」 「どんな顔してるんだろ…恥ずかしいな」  「んー?好きでたまらないーって顔かな」  揶揄われて更に顔が真っ赤になる。 「ヤったのか?」  「ヤ…っ?!そんなんじゃないよ!」  「あっはは!レンの言う通り童貞かお前!可愛い反応して…」  笑いが止まらなくなったハルに、ムスッとして睨むと、ニヤニヤしながら謝ってきた。 「ハルさんはどっちなんですか?」  「え。」  「カズキさんを抱いてるんですか?」  「…さぁなー。」  「いいもん!カズキさんに聞くから!」  「バカヤロウ!こんなことは聞くもんじゃねーんだよ。」  タバコを吸い出したハルに食い下がる。リョウタは不安なことがあるのだ。  「だって…怖いんだよ。前は薬で苦しかった。またあんな風になったら…」  下を向いて、あの時の薄い記憶を辿る。暴力的な快楽に支配されて我を忘れた。誰にでも足を開きそうなほど、理性が飛んだ。  「大丈夫だよリョウタ。怖さよりも、愛情が伝わると思うよ」  「そうかな…」  「あと、サキを気持ちよくしてあげたいだろ?」 昨日のサキの気持ち良さそうな顔を思い出して、喉がゴクンと動いた。リョウタはゆっくりと頷いた。 「なら、怖がる必要はないさ。」  「い、痛いかな?」  「初めはなぁ…後から慣れるよ」  何でもないように言って煙を吐き出すハル。  「ハルさんが抱かれてるんだ…」  「はっ?」   無意識だったのか、もの凄く驚いている。灰が落ちて火傷までしてしまった。  「ハルさん、内緒にしますね?」  「違うぞ、そのっ」  「ハルさんでよかったぁ…。だって相談しやすいもん」  そう言うとハルはバツ悪そうに、また新しいタバコに火をつけた。  「サキは若いから…あんま我慢させんなよ」 「だよねぇ…」  「がっついて凹むのが想像できる。」  「う…たしかに。」 「まぁ…リョウタ達にはペースがあるだろ。…俺も待たせすぎたから…大変なことになったけどな。」 大変なこと?と首を傾げる。  「次の日立てなくなった。この俺がだぞ?笑える」  思い出してクスクス笑っているハルからは、カズキへの想いが伝わる。  「何がいいのかね…こんな傷だらけ、墨だらけのオッサンに。」  変態だよなぁ、とのんびり話す。初めての惚気に、リョウタは緩む口を必死で引き結んだ。  (ハルさんがデレてるっ!可愛い!)  しばらく話していると、カズキ達が帰ってきた。いつも通りの顔に戻って、泣きじゃくるユウヒを抱きしめるハルは、母親にも見えてきた。ユウヒと一緒に、ユウヒの部屋に入って行ったのを見送って、任務帰りのメンバーを迎えた。  「サキ、おかえり」  「あぁ」  相変わらず低いテンション。いつも通りのサキに少し驚く。部屋に向かうサキになんとなく着いて行くと、ドアを閉めた瞬間、激しいキスをされて驚く。  「っ、ん、っふ、ん」  「は、っ、リョウタ、っ、」  獣みたいな鋭い目つきに息を呑む。  (任務帰りで昂ってる)  「は…やば…っ、止まらない」  舌を絡めて、口内を撫でられ、だんだんぼんやりとしてきた。  (気持ちいい…ふわふわする)  ガクン  「うわっ…」  「おっ…と。腰抜けたか?」  「なんか…力入んないや…はは、恥ずかしい」  いい雰囲気だったのに、と残念でサキにしがみつく。 「リョウタ…っ、」  「ん?…ぅわ、ん、んっ、ふ、」  ベッドに押し倒されて、サキが馬乗りになる。服を脱いでいくサキがエロすぎて目を逸らす。心臓がうるさくて苦しい。  「リョウタ、っ、」  名前ばかり呼んで、先が続かない言葉が、サキのギリギリの理性だと分かった。  (サキに触りたいな…)  サキに手を伸ばすと、その手を取られた後からは、野獣そのものだった。

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