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第30話 重み

「あれ、レン、サトル、どうした?」  ハルがユウヒを寝かしつけ、気を張って疲れて寝たカズキにも布団をかけた後、食事の用意をしようとキッチンに行くと、レンとサトルが今にも眠りそうな顔でリビングに座っていた。いつもサトルにベタベタのレンは、大きなあくびをした。  「ハルさん…眠い」  「おう。寝てこいよ。お疲れ様。」  「隣でアンアンされたら眠れねー…シたくなってもサトルが今日はシないってゆーから…ここで耐えてんの」  隣と聞いて驚いた。部屋割りは、リビング側からハルとカズキ、レンとサトル、サキとリョウタ、そこから長い廊下の先にミナトの部屋がある。カズキは爆睡しているから、サキとリョウタのことだろう。  「いいなぁ〜。任務の後はさぁ?激しくイかされたいもんでしょ?」  「さぁな。俺たちは現場には出ないから」  「気を張ってるから、いろいろ治らないんだよねぇ…はぁ、生殺し…」  ハルは苦笑いしながらレンの話に適当に相槌をうった。反応しないサトルが不思議だったが、レンが何も言わないのでほっといたが、サトルはついに目を閉じ、珍しくレンの膝に頭を預けた。  「わぁ!見て!激レアじゃない?!」  「レン、せっかく寝たのに起こすな」  「写真撮っとこ〜!ん〜嬉しいーっ!」  キャーと盛り上がるレンはサトルの髪を撫でたり、鼻筋を触ったりと弄っている。  「こーら。寝かしといてやれ」  「今日かっこよかったんだぁ…。特攻みたいだった。」  「リョウタいなかったからな…。いつもはレンだけ見ているけど、いくつも意識して大変だっただろうな。」  「ユウヒがね、サトルみた瞬間、安心して号泣。可愛いよなぁ。あれで童貞じゃないとか恐ろしいわ」  レンはサトルの唇を指でなぞった。  「そしてリョウタは童貞卒業するまえに処女卒業…!ウケる」  「ヤってんの?」  「うん。…はぁ、良かったよね。サキがやっと報われたというか…。かなり悩んでたし…。リツとも毎晩ヤってたのに裏切られたから、怖くないかな?と思ってたけど大丈夫そうだね」  レンも大欠伸をして、とろんとした目を擦る。  「大丈夫だよ。リョウタもちゃんとサキを思ってる」  「…そうかなぁ?」  「表情みたら分かるだろ?あの2人は完全に純愛カップルだよ。何せ、純粋なリョウタが相手だ。好きなように染められるだろ。」  「サキが幸せならそれでいい。…リツを暴いたのは俺だから…黙ってることだって出来たのに」  「無理だよ。リツが限界だっただろ。ミナトさんに異常に嫉妬して、任務どころじゃなくなった。時間の問題だったんだよ」  レンは床をぼんやり見ていた。過去を整理しているようだった。  「もうあんな情報流したくない。…リョウタを信用していいかな?サキを応援してもいいかな?」  「レン…?どうしたんだよ。珍しいな」  いつも明るいレンが、苦しそうに顔を歪める。 「サキがリョウタにハマってるのを知ってる。応援もした…。でも、どうしてもフラッシュバックするんだよ。あの時のサキとユウヒの顔、アサヒさんのブチ切れた顔、ミナトさんの…」  言葉が止まって、レンを見ると、レンの膝枕で眠っていたはずのサトルが、レンの頬を撫でていた。  「お前は正しいことをした。何を後悔することがある。」  「……。」  「迷うな。真実だけを伝える、これはお前にしか出来ないことだ。壊滅を免れたのも…お前のお陰だ。お前の情報で救われた命もある。」  「だって…、重たい…んだもんっ…」  うわぁんと泣き出したレンに、ハルはクスクス笑った。レンは泣きたかったようだ。  (サトルは流石だな。)  ハルは床に布団を敷いてやった。サトルと、泣き止んだレンが首を傾げた。  「2人とも、お疲れ様。少し寝な?」  一組の布団と、ハルの言葉を聞いてレンは子どもみたいに喜び、サトルを引っ張って布団に入れると、サトルの胸に顔をつけ、無理矢理腕枕をしてもらって、スヤスヤと眠りについた。  「すまない。俺もこいつも…疲れていたようだ。」  「今回はユウヒを守らなきゃだったみたいだからね。サトルもレンもありがとう。」  「人身売買の組織に潜入してから…レンの様子がおかしかった。表には出さないが、レンの行き場のない怒りだ。怒りを抑えながら潜入してた。情報を収集する役割だから何人か売られたのを見てる。何も出来なかった、と責めては過去にまで戻る」  泣き腫らした目が痛々しい。本当に疲れていたようで、寝息も小さい。  「こんな時にヤろうもんなら、自虐的になるから…。俺も…今日は疲れてるから…加減してやれない。」  「そうだったんだな」  「レンは…未だに言うよ。俺がみんなを壊したんだって。知らなくてもいい真実はあると思うってさ」  レンの髪を撫でて、そっと抱きしめると、先程まで話していたのにサトルは眠りに落ちた。  (みんな、お疲れさま) ハルは全員の好物をリストアップして、冷蔵庫を見てニヤリと笑った。  (よっし!喜ばせてやりますか!)  それから3時間後。  いい匂いで起きたレンはテンションが上がり、サトルを起こして激怒されていた。  賑やかな食卓。笑顔溢れるキッチンだったが、サキとリョウタの好物はラップをされて冷蔵庫で保管されていた。 

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