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第31話 迷い

「リョウタ!早くっ!早く!」  「わぁーかった!ユウヒ、わかったから!」  リョウタは久しぶりに昼の外へ連れ出された。ハルとアイリ、そしてユウヒと共に買い出しに付き合う。  (うっ…腰痛い…)  グンッと引っ張られて痛みに顔を歪ませたが、お構いなしのユウヒのスピードに合わせるしかなかった。気怠さがぬけなくて、ぼんやりする。気を抜くと、無意識にサキのことを考えていた。  「リョウタァー…」  寂しそうなユウヒの声に肩を跳ねさせてユウヒを見ると、拗ねた顔をしていた。  「サキ兄のことばっかり。」  「えっ!?」  「今は俺といるんだから!」  大声で怒鳴るユウヒをハルが頭を撫でて宥め、アイリは恥ずかしそうに周りをキョロキョロと見ていた。  大人しく買い物が終わって、荷物を持って店から出ると嫌な視線を感じた。お店に入ってからずっと気持ち悪い視線だ。  (殺気に近い…何だ?)  リョウタが周りを確認すると、複数の視線はハルに向かっていた。その内の1人が鋭い視線になった。  「ハルさん!伏せて!」  「っ!?」  「ユウヒ!」  「大丈夫!アイリは無事だ!」  ざわつく表通り。ゾロゾロと強面の人達が4人を囲む。買い物袋がガサッと地面に落ちた。 「ユウヒ、いけるか?」  「あったりまえだろ!実践なんて待ちくたびれたぜ!」  背中を合わせてユウヒに声をかけると、ニヤリと笑うユウヒに安心して、2人が息を合わせて男たちに向かう。ハルはアイリを抱き抱えた。  「へぇ〜。子守してるっつー噂は本当だったか」  「なんだてめぇら」  「覚えてないっすか?下っ端には興味もなかったですもんね?義晴さん?」  「っ!?」  (よしはるって…ハルさんの本名?)  リョウタはハルを気にしながら目の前の輩を倒す。  「お前ら…まさか…」  「義晴さんが生きていると聞いて…探しましたよ。仇をとろうと集まったメンバー達です。なのに、貴方ときたら親父を裏切って寝返ったな?命乞いでもしたのか?桜井アサヒのガキ共をつれて!」 男が手を挙げた瞬間、ハルはアイリの目を手のひらで覆った後、思いっきりその男を蹴った。  ドシャア!  (え…?ハル…さん?) ユウヒも固まってそれを見ていた。目つきが変わったハルは、向かってくる奴らを長い脚で蹴り飛ばした。  「お兄ちゃん!!リョウちゃん!!ハルちゃんを止めて!!」  アイリの叫びにハッとして2人はハルの加勢に入り、隙を見てハルを連れ、その場から逃げた。 「ククッ…。まだ強さは健在か…。俺たちのボスになってもらいますよ、義晴さん」  血だらけの男は去っていく4人を見て笑った。  近くの公園で4人はベンチに座り込んだ。何も話さないハルにリョウタは何度も声をかけるが、どこを見ているか分からない。 「ハルさん!!」  「っ!?」  やっと目が合って、周りを見た。不安そうなアイリとユウヒとも目が合って、ニコリと笑い、2人の頭を撫でようとして手が止まった。  「…ハルちゃん?」  「ハル兄?」  2人はきっと今不安だろう。ハルに触れて落ち着かせてもらいたいはずなのに、ハルの手は2人に触れることなく下ろした。  「ごめんな、卵…割れちゃったな。買い直してくるから、お前達は先に帰りな」  「嫌だ!一緒に行く!」  「わがままするなよ。な?ほら、リョウタ、頼んだぞ」  もうハルがこちらを見ることはなかった。それにヒヤリと血の気が引いた。  「どこ行くんですか?」  「どこって…そりゃ…」  「あいつらのとこ、行くんじゃないですよね!?」  リョウタが問いかけると、優しい笑顔で振り返った。  「……。思い出したんだ。」  「へ?」  「俺、お前達に触れちゃダメだった。」  「何…言ってんですか」  「こんな汚い手で…」  リョウタは脳内でプチンと音がしたのを理解する前に、ハルの顔を殴った。  「リョウタ!」  「リョウちゃん!!」  倒れ込むハルにリョウタは息が荒くなる。  「汚くなんかないっ!!!ハルさんは優しくて愛情深い人だ!!!あいつらのとこには行かせない!!」  「っ…」  「今のも…避けれたくせに、わざと受けたんだろ!?なぁ!ハルさん!立ってよ!何か言ってよ!」  口から血を流して、そのままのハルはいろんなことを考えているのだろうと思った。 (この間が…不安になる…)  冷や汗が止まらない。心臓がバクバクとうるさい。  「ぅっ、うっ、もしもし、っカズキ兄ちゃん、西宮公園にきて」  アイリの泣き声に振り返ると、アイリがカズキに電話していた。  「今、きて、っ、いなくなっちゃうから、うん、待ってる」  アイリはボロボロ泣きながらハルの言葉を待った。  「ハル兄…俺たちのこと、嫌いになったの?」  「…ちがうよ、そんなんじゃない…」  「アイリ…ハルちゃんとずっと一緒にいたい」  「…ありがとう」  ハルは腕で顔を隠した。歯を食いしばっているのが分かる。そして、頬を涙が濡らした。  「一生…そばにいるって、誓いすぎて…どこに居ればいいか…わかんねぇ…」  ハルの呟きに、アイリとユウヒはここにいてよ、と泣き喚く。 「俺は…お前たちに愛されていい人間じゃないんだ。」  「「どうして!?」」  「たくさん…人を殺したよ。気に入らなかったり、ムカついたりしたり…何の罪のない人達を、何人も手にかけた。…アサヒさんもミナトさんも、殺そうとした、そんな奴だよ」  呆れたように笑いながら話すハルは、もうここにいるつもりはないのか、自分の過去をアイリやユウヒに聞かせた。  (嫌われようとしてる?)  リョウタはハルの自虐的な話を止めようとするも、アイリとユウヒは真剣に聞いていた。  「大切な人を…アサヒさんに殺された。忘れてたわけじゃない。でも乗り越えたと思った。アサヒさんのために、って今の人生を生きてきたけど…こんな幸せ、俺には似合わなかった。すぐ…迎えがきた。俺は…行かなきゃいけない。」  倒れ込んだままのハルに、アイリとユウヒが同時に駆け出して、ぎゅっとハルに抱きついた。  「なら、アイリも一緒にいく!」  「俺も!」  「バカ言うな!」  しがみつく、に近い2人は絶対にハルを離さなかった。  「今までのことは、一緒に謝ってあげる!みんなにごめんなさいして、仲直りしよ?」  「そうだぞ!ハル兄が教えてくれたんだろ?」  「お父さんもミナトさんも、ハルちゃんのこと、みんなみんな大好きなんだよ」  2人の一生懸命な説得に、リョウタは目を潤ませた。 突然、公園の入り口で急ブレーキの音がしてそこを見ると、黒いバンが止まった。  バタン  「アイリ!大丈夫か!」  「カズキ兄ちゃん!ハルちゃんを止めて!」  「ハル…?」  殴られたハルを見てカズキは驚いていた。ハルはカズキの登場に、降参、と両手を挙げた。 

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