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第32話 選択
リョウタ達がアジトに戻ると、アサヒが冷たい表情で出迎えた。来い、と言われ無言で頷き、ハルは躾部屋へ連行される。
「お父さん!!ハルちゃんに乱暴しないで!」
「話を聞いてからだ。」
「でも…っ」
「お前達を危険に晒したんだ。その他諸々、許すわけにはいかない。」
「危険はありませんでした。狙われていたのはハルさんだけです。敵はハルさんを勧誘していました。仇を取るメンバーを集めた、そしてハルさんを探していた、と。」
リョウタが説明するも、アサヒは冷たい目のまま、そうか、と言って手を広げた。
「ハル、どうぞ?」
「へ?」
「仇。俺だ。殺せば?」
「「お父さん!!」」
アサヒはジャケットから銃を取って、ハルに投げた。
「銃撃も、近距離戦も、頭もキレる。お前がいなきゃあの組織はあんなに長い間生きていなかった。お前はあの日、親父さんの指示を反対していたが強行しての壊滅。」
(え…ハルさん…凄い人だったんだ)
「お前がここにくる条件は、現場に出ない、だったな?もう一度、生まれ変わる。次は誰も傷つけない。そうだったな?」
銃を握った手がカタカタと震えている。
「まぁ…人は死なない限り、生まれ変わることは無い。だから、お前の覚悟がブレるのも、あるのかもしれねぇな」
ギロリと鋭い眼光がハルを射抜く。恐ろしい殺気にリョウタやユウヒ、アイリやカズキも固まった。
「覚えてんだろ?銃の撃ち方くらい。仇討つなら今やれ。ほら、今が大チャンスだ。お前を尊敬しているユウヒやアイリ、リョウタとカズキの前でお前の義理を通せ」
張り詰めた空気が流れる。
アサヒは笑って両手をあげる。
「どうぞ?」
止めようと、息を詰めたその時、カシャンと銃が落ちた。
「どうしたハル!お前ならやれるよ!諦めるな!ほら、銃を取れ」
「…出来ませんっ…」
「仲間がいねぇと出来ねぇのか?落とし前は自分で付けなくていいの?」
アサヒが煽るが、ハルは完全に戦意喪失していた。ぼんやりと前を見たまま、その目は光が無く、どこを見ているか分からない。そのまま静かに涙が溢れるだけだった。
スッ
ハルの前に、カズキが立ち、両手を広げた。
「アサヒさん。この度はハルが申し訳ございません。…今のハルは少し不安定なので、今日は勘弁してください。」
「ダメだ。躾部屋へ連れて行く」
「お願いします。今は、そっとしてあげてほしいんです。整理をさせてあげたい…時間を下さい。」
「その与えた時間で、この組織が無くなっても責任取れるのか?」
「無くしません。全部僕が、治してみせます。」
カズキとアサヒの睨み合いが、長時間のように感じた。
ガチャ
ペタン ペタン
「アサヒ。時間をあげよう。」
「ミナト…」
ミナトは資料をダイニングテーブルに置いた。
「絡んできたのは、ハルとは少し違う墨の子達だよ。下っ端かな?…とくに組長に義理はない。ただ、チームの名をあげたいことと、ハルの強さと名声で大きくしたいと考えているみたい。…ただ、1人、気になる子がいる。…義美さん?」
ミナトの話にハルはハッと顔を上げた。
「義美さんが絡んでいる」
「…?誰だそいつ」
「ハルの妹。」
ハルは目を見開いた。
「妹がハルを探してる。今回のチンピラは、妹に依頼されて、ハルが動揺して戻ってくるようにと依頼されている。相当な資金でチンピラを雇ってる」
「義美が…そんな…ことは…」
「うちの情報屋、誰だと思ってるの?」
ミナトは鋭い眼光でハルを見た。
「ハルが動揺するかもしれない、揺らがない可能性は低い。レンの言った通りだったね。ハルは優しすぎる。だから、ユウヒとアイリ、そしてリョウタを一緒に行かせるようにしたの。…ハルが間違えないように」
(そうだったんだ…。)
リョウタはぽかんと口を開けていた。
「ハルが可愛がっているメンバーが一緒じゃなきゃ、間違いなく行ってたでしょ?」
ミナトはアサヒの肩を抱いた。
「アサヒは、ハルが迷わないって信じてたみたい。だから…行こうとしたハルに、迷ってしまったハルに、がっかりして…機嫌が悪いけど、気にしないで。ハルは自分の気持ち、考えて。カズキ、止めてくれてありがとう。」
アサヒは様々な感情があるのか、顔は鉄仮面だが、握った拳から血が流れていた。カズキが手当てしようとするも、振り払い、普段は使わないアサヒの個室に、大きな音を立てて入っていった。
「あーぁ。怒っちゃった。」
ミナトがため息を吐くと、部屋からものすごい音が聞こえた。
「壊れそう…この家も、アサヒも。」
ミナトの呟きに、ハルが顔を上げた。
「妹はハルを取り戻したがってる。理由は分かる?」
「…はい。」
「そう。…なら、ハルが決めて。」
ミナトはハルをそっと抱きしめた。
「忘れないで。僕たちはハルを必要としてる。」
耳元で囁いて、アイリとユウヒの手を引いた。
「「ミナトさん?」」
「久しぶりに一緒に寝ていい?まだ…一人で眠れないんだ」
ミナトが2人にお願いすると、頷いて階段を上がっていった。
「ハルさん…」
リョウタが声をかけると、カズキがハルをハグして、リョウタを見上げて笑った。
「狡いよね、ミナトさんってば。考えて、なんて言ってあんな言葉…。行かないで、にしか聞こえないね」
「あは!本当だ!」
「さて、今日はハルのそばにいなきゃだから…ご飯は…みんな食べる気しない、かな」
リョウタもコクコクと頷いた。
「ハルさんを、宜しくお願いします」
「うん。僕の仕事だから。頑張るよ」
カズキに不安はないのか、ニコリと笑って、2人で部屋に入っていった。
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