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第37話 ボス

「何のつもりだお前ら。俺の顔に泥を塗るつもりか」  アジトに帰るとブチ切れたアサヒに全員殴られた。もちろん、ミナトの頬も腫れていた。  「俺がハルを行かせたんだ!!それなのに何してんだ!!勝手な事するな!」  アサヒはアイリも叱ったのか、アイリは階段でグスグス泣いていて、サキとユウヒはアイリを慰めながら静かに見ていた。  ミナトはギロリとアサヒを睨むが何も言わない。レンがため息を吐いた後、アサヒに説明した。  「未亡人義美は、ハルさんと結婚をして、権力と名声を得るつもりだ。アサヒさん、それがハルさんのやりたいことだと本気で思ってんの?」  「ハルが決める事だ。」  「そう。俺たちはもうハルさんにとって部外者だ。…ならさ、カズキさんは?」  憔悴したカズキは脱力して下をぼんやりと見ていた。  「俺たちの仲間の大切な人、奪われてんすよ?」  「…カズキ…」  「止めなかったのは納得したからじゃない。好きだから、その人のしたいようにさせたかった。それは、カズキさんも、俺たちも、アサヒさんも同じだろ」  レンは感情が昂るのを必死で抑える。それをサトルが応援するように背中を叩いた。  「アサヒさん、ハルさんはあの屋敷で自分を殺してる!誰かの理想になろうと必死なんだ!そんなの見てられないよ!」  ついにレンの目から涙が溢れた。目はアサヒを強く見つめている。  「……分かってるよ。」  「そう。分かってるくせに、なんで指示だしてくれないの。」  ミナトは下を向き、表情は長い前髪で隠れた。  「何回もお願いしたじゃん。拒否したのは、勝手にしろって言ったのはアサヒでしょ」  「お前らは早すぎんだよ…」  アサヒはシャツの袖を腕まくりしながらドカっと椅子に座った。  「総会。あるから…。そん時に直接本人に聞くつもりだ。助けを求めていれば手を出す、俺が、な。」  「「っ!?」」  アサヒが直接出ると聞いて、全員が顔を上げた。  「あいつの気持ちにもなってやれ…。こちらの意思だけで掻き乱すな。言ったろ。本人が決めることだ。ハルが落とし前つけて…そこからだ。」  「動くな、ってこと?」  「そうだ。桜井アサヒの部下が嗅ぎ回ってると聞けば、あいつらの部下はハルを信用しない。ハルの立場が悪くなるだけだ。」  アサヒはあくまでハルの立場だった。  「戻りたい、なんて思わせるな。どんな覚悟で向こうに行ったと思ってんだ」  「でも…っ」  「レン。男はな、引くに引けない時もあんのさ。ただ、本人がお前たちの望むように、ハルの全てを捨ててでも戻ることを懇願するなら…会話や交渉じゃ太刀打ちはできない。解決するはずはない。」  「?」  レンは首を傾げ、リョウタは息を飲んだ。 アサヒは指でコツコツと机を叩いたあと、ピタリと止まった。 「ハルを取り戻す方法は1つしかない」  「…っ。」  全員に緊張が走った。 「あの組を壊滅させて、またハル奪う。」  ニッと笑ったアサヒに、ミナトは驚いたあとフワリと笑った。  「またハルに悲しい思いさせるつもり?」  「俺たちから離れた罰だ」  アサヒは頬を膨らませてそっぽを向いた。  「いいか?…ハルに関しては指示するまでは耐えてくれ。さっきも言ったが、お前達では解決できるもんじゃない。ウイとユイももう戻せ。義美に殺されるぞ。」  「分かりました」  「あぁ。あと、サトル、リョウタ、サキ、ユウヒ」  アサヒは4人を呼び、全員を見た。  「ハルを奪う時に備えろ。俺に巻き込まれない様にな。」  「了解です!」  「御意」  「はい」  「頑張る!」  アサヒはニコリと笑うと、席を立ち、未だしゃがみ込むカズキと視線を合わせた。  「カズキ…もうちょっと待ってくれねぇか?」  パタパタと落ちる涙。眼鏡の奥の瞳は濁ったままだ。アサヒは苦笑してカズキを抱きしめた。 「全く…この夫婦は…。お互い大事にしすぎてこんなことになるなら、ワガママしたっていいんじゃねーの?…レンを見習え。」  「ぅっ、う、っ、」 「えぇー!?何その言い方!?俺もサトルのこと、大事にしてるよー?!それに!ワガママじゃない!」  「表現しろっつーことだよ。恋愛は理性的にはいかないんだよ。あと、お前たちも!こんな荒療治しやがって!!カズキが可哀想だろ!?」  おー、よしよし、と頭を撫でるアサヒにレンが吹き出した。つられてサトルが笑い、みんなに移っていった。  「アサヒさん…」  「んー?」  カズキが小さな声でアサヒを呼んだ。鼻水を啜りながら、ゆっくり話し始めた。 「…ありがとうございます。」  「いーえー。」  「ハル…取り戻してください」  「そうだな。あいつの居場所は、お前のここ、だろ?」  トントンと、カズキの胸を押すと、久しぶりにカズキは笑って、はい!と元気よく返事をした。  「俺に任せろ。誰だと思ってんだ。」 「ありがとうございます!」 カズキの目がまた輝き出した。 「うー!ズルい!アサヒさんかっこいいー!」  レンが悔しそうにバタバタと騒ぐ。ミナトはアサヒを見て目を見開いたまま固まった。アサヒは目が合うとミナトに笑った。  「何。惚れ直した?」  ニヤリと笑うと、ミナトは顔を真っ赤にして顔を逸らし、コクンと頷いた。  「っ!?やっば!マジ?マジなの?やーどうしたミナト!珍しいな!」  「話は終わった?仕事に戻る」  「ちょっと、ミナト!逃げんな!…あ、お前ら殴ったとこ冷やせよ!カズキ、頼む!」  照れて去っていくミナトを慌てて追いかけて行ったアサヒを全員がポカンと見ていた。  「もう…ふふっ。アサヒさんってば」  カズキの笑い声で、リビングが和む。リョウタは久しぶりのカズキに甘えて、1番に治療してもらった。  ーーーー  ドンッ  「ミナト…んっ!?」 「ンッ…、ん、は、ぁ、アサヒ、アサヒ」  「なーに…。どうした?」  アサヒを壁に押しつけて必死にキスをする。シャツの襟元からアサヒの匂いを吸って噛み付いた。  ヂュッ 「ンッ!」  「痛い…?」  「いや…?好きにしろ」  首筋や鎖骨に付けた痕に満足する。 髪を撫でて、優しく微笑むアサヒにまた顔が熱い。この優しい目には、弱いのかもしれない。 (こんなの…久しぶりだ…)  ミナトは欲のままアサヒを求めた。 アサヒは微笑んだまま、やりたいようにさせてくれた。アサヒの熱を必死に頬張って、喉の奥まで入れると苦しくて気持ちいい。  「本っ当に…お前、ドMだよなぁ…」  また優しく髪をかき上げられた。アサヒの指が触れるだけで腰がゾクゾクと震える。  「激しくしてほしい?」  甘い囁きに咥えたまま頷いて、見上げる。  「はっ、上出来。」  ご機嫌に笑ったアサヒは先程まで優しく撫でていた髪を鷲掴みにし、激しく腰を振り出した。  「ほら、舌、止まってんぞ」  「ーーっ!っ!っ!」  「は…っ、エロっすぎ、だろ…」  息の詰まった声を聞いて、アサヒの顔を見ると、眉を寄せて夢中になっている。  (あ…この顔…好き)  「…っ、ミナトっ…」  ドクドクと注がれるのを飲み込もうとするも顎を伝って溢れていく。  (あぁ…勿体無いな…)  髪の毛を掴む手が弱くなって、また優しく撫でてくれる。  「ミナト、欲しい?」  意地悪な言い方ではなく、本当に優しい声で微笑む。コクンと頷くと、アサヒは両手を広げた。  「おいで」  1秒も待てずに飛び込んで抱きしめてもらう。目を閉じて安心感を味わう。  (今日の僕…なんか変かも)  アサヒのシャツを握ると、グッと勢いよく回ったと思ったら壁に押しつけられた。  「アサヒっ…」  咄嗟に壁に手をつくと、性急に下が脱がされて、恥ずかしいほど汁を零す熱に、大きな手が包み、扱き始めた。  「っああ…っ!」  「いいよ、もっと、声出して」  後ろから耳元で囁かれる声に、またゾクゾクして、いつも押し殺す声が今日は止まらない。きっと今日は抱かれたかった。 この人が、改めてかっこいいと思った。一人で背負うアサヒが嫌なのに、久しぶりに殴られて悲しかったのに、みんなの気持ちを知ってて、時を見ていただけだった。勝手なことをしたのは久しぶりだったけど、ミナトに後悔は無かった。 (アサヒは、どこまでも静観していた。そして全員を叱る。)  やりたいようにさせ、間違えたらその後に叱る。 アサヒ曰く、人は、目的に向かっている時には聞く耳をもてないからだそうだ。人が1番話を聞く時は、現実に打ちのめされた時。  責任感の中で戻りたいと揺らぐハル。  初めて見たカズキの取り乱す姿。 次の指示がまるで浮かばなかった。  何がしたかったのか、と思うほど真っ白になって、レンが指示を代わってくれた。 ググッ 「ンッ!ンッぅ、ッァアア!ァアァア!」 大きな質量が中を侵す。目の前がチカチカして、口から涎がこぼれた。 (アサヒが…好きだ)  何度押し殺しても溢れ出す感情。好きすぎて、嫌になる。 (僕は、代わりにすぎないのに。)  優して美しくて、凛とした女性を思い出して、また声を殺す。 (アイラさん…僕を許してっ!!)  「っーーっ!!」  「ミナト、ッ、ミナト、中、出すぞ」  右脚を抱えられて更に奥まで入ってミナトは目を見開いた。ガクンガクンと腰が跳ねて抗えない絶頂が駆け上がってくる。 (ごめんなさい、ごめんなさい!!)  ーーーー『アサヒをよろしくね。』 「っぅ…ッァアァア!!」  ーーーー 「まーた泣いてる。…ったく。何考えてんのか」  アサヒは意識を飛ばしたミナトに優しく微笑んで涙を拭いてあげた。 (もう俺の大切な人を消させないって言ってたっけ)  アサヒはタバコに火をつけた。  (お前…必死すぎ。どれだけ自分を責め続けるんだ…)  ゆっくりと深呼吸をして、ミナトの寝顔を見る。 「ミナト、俺も、お前が好きだよ」  (どうやったら伝わるかなぁ〜?)  アサヒはタバコを消して、勢いよくミナトに抱きついた。 

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