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第39話 桜井シンヤ
アサヒは銃撃戦を抜けて、頬についた返り血を拭う。死角に隠れて、複数の足音に聞き耳を立てながら必死に呼吸をしていた。
(はぁ…はぁ…、数多過ぎ…)
「兄〜さん♪」
「っ!!」
気配なく現れた薄ら笑いの男。長い黒髪を縛った細い身体、自分そっくりの顔。
「シンヤ…」
「まぁたド派手だね。すごいね、親父を怒らす天才だ。」
「殺されたくなかったらどっか行け」
それでもそばにいるアサヒの弟、桜井シンヤ。桜井テンカの組でNo.2をしている。
「ふふっ、親父にソックリ」
バキッ
アサヒのパンチを難なく避けて、キャーと騒ぐ。
「もーっ!当たったら死んでたよ!危ないなぁ!」
「二度と言うな。死にたくないならな。」
「…。どうしてそんなに親父を憎むの?」
アサヒはその問いにギロリとシンヤを睨む。シンヤはきょとんと首を傾げるだけだ。
「母さんとマヒルとアイラを殺した。何の罪のない人をだ。」
「え?それだけ?親父可哀想」
「あァ!?それだけだと!!?」
髪を引きちぎる勢いで引っ張って顔面を壁に叩きつけた。
「シンヤ…お前が弱い理由だ。大事なもんがあって初めて強くなる。」
「ククッ…っあっはははは!馬鹿みたい!いない人のことをいつまでも根に持ってさ!執念深くて気持ち悪い!大事なものとかの精神論もダサすぎて無理」
血だらけで笑う顔が、自分と似ていてギリっと歯を食いしばる。
「兄さんが言うこと聞かないから殺されたんじゃん。自分のせいなのになんで親父を責めるの?」
「お前のものさしで喋んな」
「兄さんはねー、愛されすぎてそれが当たり前なんだよ。大事なものとかいってるから、その人達が狙われるんでしょ?」
見えない、と目を擦る仕草は子どもみたいなのに正論みたいに話してくるのが勘に触る。
「何。お前を大事にしなかったから拗ねてんの」
そう言うとシンヤの動きがピタリと止まり、物凄い殺気に包まれた。
「そうだよ。勝手にグループ作って、僕だけ入れなかったよね?最低最悪の兄だよ。」
「何で入れなかった理由…教えてやろうか?」
うん、と頷くシンヤ。顔の血はもう止まっている。
「お前に、人の心がないからだよ。そんな奴、気持ち悪いだろ。」
ブチン!!
シンヤが目を見開いて、アサヒを狙う。ヒョイっと躱しながらシンヤを見る。あまりにも動揺しているのか、初めての怒りなのか、かなりの大振りだ。
パシン
右腕を取って、ニコリと笑う。
「おお。スピード速くなったな。」
褒めると、先程の怒りはスッと消え、そうかな、と嬉しそうに笑った。
(そういうところだよ。お前は、誰にでも真意を出さない。俺にも、親父にも)
ご機嫌になったシンヤは、またたくさんの嫌味を言っていた。本人は無意識だから、ただ聞き流した。
「あの義晴って男ね、義美から今日の総会後殺してってお願いされてたのにー。先に200万もらったんだけど…返した方がいいかな?」
「知るか」
「ふふっ!ねぇ聞いてよ!義晴ってね、義美が誘ってもシてくんなかったんだってー!可哀想な義美。義晴の子どもが欲しかったのに残念」
シンヤはクスクス笑った後、アサヒに言った。
「でもね、可哀想だから抱いてあげたら…ふふっ!もう義晴はいらない、僕の妻になるーって傘下の話持ち出してきたの!強かだよねー?」
「どうでもいい。お前もそろそろ結婚すれば。」
「やだよー。1人に絞れないしー。兄さんみたいに殺されたらさすがに僕でも悲しくなると思うしー。まぁ…いろんなところで赤ちゃん産まれちゃってるけど、ちゃーんとお金渡してるから偉くなーい?」
相変わらずのクソ振りにアサヒはため息を吐いた。ケータイを見ると、ミナトから無事にハルが着いたこと、リョウタ達が苦戦してるとメッセージが届いていた。
「悪い。俺、行くわ。必要なら義美殺しとくよ」
「あ、何かのついでにお願いしまーす!具合良くなかったからいいかなーって。」
シンヤは笑顔で手を振ってくる。あくまでアサヒと話したかっただけのようだ。
(相変わらず気味が悪い奴だ…)
「兄さん、また、総会で。」
「あぁ。」
「…因みに、僕を入れる気とか…逆に、うちに戻る気は?」
「一切無い」
それだけ言って背を向けた。後ろから歌うように残念と言う言葉が聞こえた。
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