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第43話 復習
リョウタは躾部屋を出た後、医務室を覗いた。そこではカズキがモニターでカルテを見ていた。
「リョウタ!おかえり!アサヒさんに攻撃したんだって?派手に怪我しちゃって」
「どこもかしこも痛いです。」
「そりゃそうだよ。おいで、テーピングを替えよう。」
ベッドには人工呼吸器がついた弘樹が眠っている。ユウヒの少し上くらいの年の子だ。
「弘樹さん…大丈夫ですか?」
「あぁ!峠は越えたから大丈夫。一時は危なかったけど。リョウタがすぐ見つけてくれて良かったよ。」
全身に巻かれた包帯が痛々しい。こんな若い子を殺そうとする大人たちが憎たらしかった。
「血塗れの弘樹を見た時、ハルが取り乱してさ…初めて見たよ。今は落ち着いて眠ってるけどね。」
カズキは穏やかな表情で笑った。
「絶対助けてやるってオペをしたよ。サトルとアイリと3人で。ハルはミナトさんとレンに任せた。3人がかりでやっと今。」
テーピングを巻き終えた後、カズキはリョウタに頭を下げた。
「ありがとう。ハルの大事なもの、守ってくれて。リョウタがいて良かった。」
「そんな…俺は」
「ううん。僕の御礼、受け取ってよ。ね。」
「はい!…あ、痛たたた…」
「こらこら。肋骨4本折れてるからゆっくり呼吸しなきゃ!」
(4本も…)
「気絶しても向かってきたらしいよ?怖すぎだよ。アサヒさんじゃなきゃ死んでたかも!」
無茶しないの!と怒られて謝り、部屋に戻る。サキは部屋にいなかった。
「痛たた…ぅっ……ふぅーーッ」
痛みに耐えて横になる。目を閉じると、あの時の映像が鮮明に蘇る。
(え?え?なにこれ)
アサヒに向かって行く自分。なんなく躱されて苛立ち、目で追えないことに大振りになっていく。力の加減が出来ずに全てに全力で力を入れたことで、遅れがあった。見抜かれている動き、アサヒの紅い目が、元に戻る。
(あ…手加減されてたんだ…)
軽く、踊ってるみたいなアサヒの動き。力の抜き方と入れ方の切り替えが上手い。
(サトルさんに聞いてみよ)
まだ流れ続ける映像。ふと、もう一度アサヒの目が紅くなった。
『時間だ…また今度な』
そこで途切れた映像。
どのくらい目を閉じていたのか分からないが、リョウタはゆっくり起き上がって、アサヒの部屋をノックした。
コンコン
「リョウタです。」
ガチャ
「どうしたリョウタ」
「またっていつですか?」
「ん?」
「俺が止まる瞬間、また今度なって」
アサヒは少し考えたあと、ああ!とひらめたようで、ニヤリと笑った。
「なに。またやりたいの?」
「修行付けてください」
「やだー。俺忙しいの」
「…他のみんなは、自転車乗る時、お父さんと一緒に練習したって言ってました!」
「どういう意味?」
「親父と一緒に何かしたい!修行付けてくれなきゃ嫌だ!」
部屋の奥からミナトの笑い声が聞こえた。
「リョウタ、お前なぁ…」
「俺は何度だってお願いしにいきますよ!OKもらえるまで!」
鼻息荒く言うリョウタに、アサヒはガリガリと頭をかいた後、大声で言った。
「月一回だ!成長してなかったら3ヶ月で終わりだ!いいな!」
「やったぁああああ!…痛たたた…」
もう寝ろとお尻を蹴られて、ドアを強く閉められた。リョウタはニヤニヤしながらベッドに入り、スッと眠った。
ーーー
「あっはははは!新しい人種!アサヒに修行を申し込むなんて!」
「ミナト…お前、リョウタの時はよく笑うな」
「だって、リョウタって想像を超えてくるでしょ?…嬉しかったんだと思うよ。リョウタにとっては初めての家族でしょ。」
「そうだな」
「可愛がってよ。今までどおり。」
「あぁ。そうする。」
楽しそうなミナトに笑って、ミナトの頭を撫でた。少し恥ずかしそうに笑ったのが可愛くて唇を合わせた。
「アサヒといたら…幸せなことが多いかも」
「泣かせることも多いけどな…」
「いい…。人らしく居られる場所だから。」
(俺が…お前らを守るから安心しろ)
アサヒはまた一段と気合いをいれた。
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