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第46話 初めての感情

「ハルちゃん!ヒロくん起きたよ!!」  「本当か!」  アイリがハルを呼び、仲間が医務室に集まった。  「弘樹!弘樹、分かるか?」  「組長…?」  「良かった…、良かった…」  ハルは弘樹の手を握って喜びを噛み締めた。弘樹は周りを見た後、アサヒを見て目を見開いた。  「く!組長!!桜井アサヒが…っ」  「もうハルは組長じゃない。お前は今日から俺の仲間だ。」  「へ…?」  弘樹は絶望した顔で、ハルを見た。  「俺がお前らの組を壊滅させた。ハルを取り戻すためにな。」  「そん…な…。」  弘樹の目からパタパタと涙が落ちる。 「組長…みんなは…?」  「全員…死んだよ」  弘樹の問いかけに、ハルが苦しそうに答えた。弘樹は点滴の針を抜いて、アサヒに向かおうとした。  「ぐぅあ!」  「やめろ。」  それをハルが一瞬で止めた。 「死んだ連中は全員…俺と弘樹を殺そうとした。それから守ってくれた恩人だ。お前だろうと、アサヒさんに手を出すことは許さない」  「ちがう!そんなはずはない!!お前たちが殺そうとしたんだ!」  「…弘樹、残念だが事実だ」  「ウソだよ…組長…、ウソですよね?」  必死にしがみつく弘樹。 殺されかけていたのに、あそこは弘樹の唯一の居場所だった。  「父さんが、守ってくれって言ってたのに…俺、約束、守れなかった!!」  「…弘樹が生きてるだけで喜ぶさ」  泣き続ける弘樹を、ハルがずっと慰めていた。  ーーーー  夕食には全員が揃った。居心地悪そうな弘樹は下を向いていたが、ハルは笑顔でみんなを紹介した。 「弘樹、医師のカズキにサトル、特攻のリョウタ、狙撃のサキ、そして…」  「あ…サキ…さん」  「ん?」  サキの名前だけ復唱した弘樹の目は、サキに集中している。驚いたサキと目が合うと、弘樹は顔を真っ赤にして、ゆっくりとサキに近づいた。  「俺を、助けてくれた人…」  「は?俺は運んだだけ…。助けたのはリョウタだ。」  そう言っても弘樹はサキを見つめて、ニコリと笑った。  「ありがとうございました!」  意識が朦朧とした中、一瞬浮上した時に見た、綺麗な顔を覚えていた。  「お!サキに懐くとか珍しいな!」  アサヒは嬉しそうに、世話係にサキを任命した。弘樹は嬉しそうにして、恥ずかしそうにハルの隣に戻った。  「ヒロ、高校生なんだ!俺の3つ上かー」  「上なのに、タメ口なの?」  「は?当たり前だろ。後から来たくせに調子のんな」  歳の近いユウヒと弘樹の2人はすぐ仲良くなった。弘樹は生意気なユウヒにも怒ることなく、自然体だった。  「サキさんか組長と同じ部屋がいいなぁ。ねぇ、ユウヒ、お部屋はどうやって決まるの?」  「知らねー。」  弘樹はクラス替えを見る学生のようにドキドキしていた。弘樹が初日で覚えたのは、アサヒとカズキとユウヒとサキだけだった。  「組長と寝ると安心するんだぁ。いろんな話聞かせてくれるし、抱きしめてくれるし。人肌ってすごくよく眠れるんだ」  「いい年して甘えん坊かよ。」  「ユウヒにもくっついちゃお」  「ギャー!来るな!気持ち悪い!!」  2人のやりとりを、ハルは嬉しそうに眺めた。隣から不穏な空気を感じるが、無視して微笑み続けた。そして、もう1人、難しそうな顔をした人。  (リョウタ…初めての嫉妬)  クスクス笑って、それを見ていたが、リョウタは目の前のプリンをそのまま眺めていた。 

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