もう一度、と何度も弘樹に飛ばされるリョウタをケタケタ笑って見ていた時、レンはサトルに突き飛ばされた。　 「痛ぁああ！おい！サトル！何す…ん…」　 尻餅をついたレンを隠すようにサトルが立ちはだかる。サトルが対峙するのは　 （桜井…シンヤ。アサヒさんの…弟！）　 「あぁ、やめて、君。乱暴しないでよ。そこの綺麗なお兄さんとお話がしたいの」　 「話がしたいならその刃物はなんだ？」　 シンヤの手に光るナイフを見て、レンは血の気が引いた。 「これは護身用。嫌われちゃったら悲しいから念のため。知ってる？これがあると、誰でも僕とお話してくれるんだよ」　 アサヒと同じような顔をして、恐ろしいことを言っている。サトルは動揺することなく、レンを見て下がれと言った。固まるレンにサトルは優しい口調になった。 「先に帰れ。リョウタ達も下がらせろ。」　 「でも。」 「大丈夫だ。話をするだけだ。」　 レンはコクンと頷いて、こちらに気付かず夢中になるリョウタ達に向かって走った。　 （ユウヒは守らないと…） そう思っていた所で耳元でシンヤの声がした。 「待ってよ。ねぇお兄さん、話そうよ。僕、綺麗な人が大好きなんだ」　 「っ！」　 手首を掴まれて息が止まりそうになる。すぐにサトルがシンヤを押さえ、手首が離れた。やっとこちらに気付いた3人が向かってくる。　 「待って！リョウタ！シンヤ兄ちゃんだ！」　 ユウヒは驚いたようにシンヤに近づく。　 「ユウヒ、大きくなったね」　 「シンヤ兄ちゃん、どうしたの？」　 ユウヒに触ろうとしたシンヤの手をまたサトルが握りつぶそうとするほどの力で握る。　 「…へぇ。君は完璧なボディーガードだね。…さすがに、ムカつく。」　 戦闘時のアサヒのように目が紅くなったのを見たリョウタは、弘樹に合図してユウヒとレンを抱えて離れた。　 「兄さんの駒にこんな優秀なヤツがいるとか。許せない。この綺麗なお兄さんとも話させてくれないし、可愛い甥っ子とも話をさせてくれない。」　 ぶつぶつ文句を言うシンヤに、サトルは汗を流してシンヤから目を逸らさないように集中した。　 「でも、綺麗なお兄さんとユウヒを僕がとったら君はクビだよね？それどころか、兄さんに殺されちゃう？」　 シンヤがニヤリと笑った瞬間、リョウタや弘樹には全く見えないスピードでサトルが吹き飛んだ。砂埃が巻き上がってサトルの姿が見えない。　 「サトル！！」　 「ダメです！危ないから！」　 レンは目を見開いて叫ぶ。駆け寄ろうとしたところをリョウタに抑えられる。 「あれ〜？図体がデカイから重いと思ったのに。」　 軽かった、とクスクス笑って、シンヤはゆっくりとレンとユウヒに近づく。　 「殺すぞ」　 サトルが後ろからシンヤの頭を片手で掴み、ギリギリと圧を加える。頭から血を流すサトルに、レンが目を見開いて取り乱すのを、もう一度リョウタが無理矢理抑えた。　 ギリギリとシンヤの頭を握力だけで潰そうとする。　 「頭は鍛えられないからな。バカと話すのは時間の無駄だ。」　 「あ…ぁあっ…」　 「お前如きに…俺がやられるわけだろ。」　 「痛いっ！痛いよぉ！やめて！」　 シンヤはサトルを振り払って、涙目になりながら睨みつける。　 「今日は僕…頭痛いんだからやめてよ！どうしてこんな意地悪するの？」　 「バカと話はしない」　 「ひどい！コミュニケーションは大事でしょ？僕はお友達がほしいだけなのに！」　 短気な人きらーい、と場違いな発言をしている。サトルは冷静のままシンヤに言う。　 「そうか。友達が欲しかったのか。お前の友達の作り方は…こうだったな？」　 ザクっ　 「っつーーっ！」　 「今日からはお友達だな？」　 サトルがニヤリと笑い、シンヤの脇腹からシンヤのナイフを引き抜いた。シンヤはパタパタ垂れる血を見て、ニコォッと笑った。　 「うん！お友達！」　 刺されたのに、ワァイ！と喜んで、ユウヒに友達が出来たよ、と報告している。ユウヒはかなりドン引きしていた。　 ピリリリ　ピリリリ　 「あーん、もう時間だぁ。君、名前は？」　 「サトル」　 「サトルまた今度遊ぼうね！バイバイ！」　 「……」　 「次はミナトも連れてきてよ。兄さんに内緒で」　 「っ！？」　 綺麗なお兄さんもバイバイ、と去っていくシンヤを呆然と見送った。レンはサトルに駆け寄ってパニックになっていた。 「誰だ…あの人？シンヤ…？甥っ子って？」　 「父さんの弟。でも、変な人だよ。」　 「「うん。それはよく分かる」」　 リョウタと弘樹がハモって、カズキの迎えを待った。その間レンはサトルにしがみついて泣きじゃくっていた。