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第51話 合同任務
冷静になったレンは、リョウタと弘樹を引きずってミナトの部屋へ行った。
「ミナトさん!!」
「…レン、落ち着いて。今からアサヒが早退してくるって。」
ミナトは頬杖をついて、ケータイを眺めている。通話中のそれにリョウタと弘樹は首を傾げた。
「繋いどけって。過保護だよねぇ」
「いや!アサヒさんナイス!」
「…サトルが刺したんでしょ?大丈夫だよ。」
それより、と眉を下げてレンに手招きした。
「怖かったでしょ。よしよし。」
ミナトにハグされて、レンの唇が震える。
「まぁ…普通絶体絶命って思うよね。だってシンヤだし…。サトルが冷静で良かった。」
「良くねぇっ…俺の、せいで…」
「サトルも大丈夫だよ。きっと目を覚ますから」
アジトに着いた瞬間、サトルは緊張の糸が切れたのか意識を失った。
「絶対許さねー!俺にナンパなんざ100万年早いんだよ!!顔はアサヒさんでも中身はクソッタレのバカだ!」
「言い過ぎ。仮にもアサヒの弟だよ」
ミナトがクスクス笑うが、レンはギロッとリョウタと弘樹の2人を見た。
「お前ら何で加勢しなかったんだ!サトルだけだったから…」
矛先がこちらにきて、2人は正座をして背筋を伸ばした。
「何言ってんの。2人殺されてたよ。だからサトルが出たんでしょ。」
「お前らがもっと強かったら!!」
「レン…責めたい気持ちはわかるけど落ち着いて。」
レンは膝から崩れ落ちて、泣き出してしまった。慌てるリョウタと弘樹に、ミナトは苦笑いして、気にしないで、と言った。
「桜井シンヤは、アサヒの弟。だけどまるで真逆の性格だよ。一筋縄ではいかないから、2人が入ってたらサトルの足手纏いだった。」
「「…っ」」
「入らなかったのは正解。…だけど、2人にはもっと強くなってもらわなきゃいけない。敵はシンヤレベルがごろごろいるから。」
ミナトはカタカタとキーボードを打つと、レンに見せた。
「これ、させてみる?気が済まないんでしょ?」
レンは数秒資料を見た後、涙の残る目でニヤリと笑った。
「来い!お前ら!実践行って鍛えてこい!」
「「実践?」」
「双子か!いちいちハモんな!」
ギャーギャー喚くレンに追い出され、歩きながらリョウタは頭のガーゼを取り替えた。
「大丈夫?リョウちゃん。本当に血止まんないね。」
「大丈夫大丈夫!貧血状態になれてきたし。ハルさんのご飯いっぱい食べて、眠ったら大丈夫!」
心配そうな弘樹に笑って、目的地を目指す。
ーーーー
『この時間に、銀行強盗がある予定だ。本当は俺が情報操作して未遂にするつもりだったけど、お前らの実践の場にしてやる』
「何をすれば?」
『誰も殺さないこと。怪我もさせないこと。犯罪もさせないこと。』
「「むっず!!」」
ーーーー
「ねぇリョウちゃん?本当に来るのかな?強盗だなんて。」
リョウタと弘樹は銀行が真正面に見えるカフェでのんびりとお茶をしていた。1日で使えるお小遣いを全てシナモンロールに変えたリョウタは狂ったように食べ続けた。
「リョウちゃん食べすぎ!いつ来るか分かんないのに…」
弘樹は呆れて銀行に目をやった。
(あれ…?)
時計を見ると、レンが言った時間を1分すぎていた。一見何も変化はないように見えたけど、通行人が銀行を見て、一気にケータイで電話をかけ始めた。
「しまった!!リョウちゃん!行くよ!」
リョウタは最後のひと口をトレーに置いたまま引き摺られた。
ごくんっ
「来てるの?」
「うん!」
「じゃあ、あの作戦で!」
口の周りに食べかすを付けて、頭にはガーゼが付いている奴は、傍目からみて変な人だった。
(それが、いい感じに作用すれば…)
ブィン…
「金を出せっつってんだろ!!」
「キャー!助けて!」
リョウタが入ってきたことにも気付かず、叫ぶ犯人や銀行員達。
リョウタはスタスタ犯人に向かっていく。
(あれ!?リョウちゃん、人質候補になるはずじゃ…)
「俺の…」
「あぁ!?んだてめぇ!撃たれてぇのか!」
「シナモンロール返せぇええ!!」
(えぇーーー!?ごめんよリョウちゃん!それは俺だよ!!)
思いっきり顎にアッパーを喰らわし、倒れた犯人のお腹を踏みつけている。弘樹はハラハラと見ていたが、様子がおかしいことに気付いた。
(レンさんの言ってた犯人は…6人。あの中には1人?)
「サクラ!?…リョウちゃん!!」
パン!!
気付いた頃には銃声がした。弘樹は中の状況が見えるところに移動した。
(誰が犯人グループか客か分からないっ!)
困っていたが、リョウタが笑っているのが見えた。
(リョウちゃん?)
今度はリョウタが犯人の銃を取って、先ほど脅していたやつの頭に突きつけた。
(どっちが強盗犯か分かんなくなっちゃうよ)
警察が来るのも時間の問題だ。
弘樹は消化器を取り出して中に突入した。
シュパーッ!!
「なんだ!?くそ!撤収だ撤収!!」
犯人グループが逃げ出すのをまたリョウタが捕まえる。
「あと3人どこ?」
「ひい!」
「あと3人。」
「っ、あ、っ、あの、」
「死ぬ?答える?どっち?」
リョウタが犯人グループの1人の髪の毛を鷲掴みにし、笑って銃口を口に突っ込んだ。
必死に指差す方向に逃げる3人がいた。
「弘樹!」
「うん!」
弘樹がしばらく追うと、路地で逆に囲まれた。
(っ!!うわぁ、囲まれちゃった…)
「消化器の坊主、よくやってくれたな」
「ちが、あの、先輩にやれって言われて…」
「あいつが先輩か?気持ち悪いヤツと連んでるんだな、考え直せよ」
やはり、リョウタは危ない人と見られていたようだ。同情されたのがラッキーだ。
「あなた達も、考え直さないと」
「あ?」
「人のお金、取っちゃダメです」
「うるせークソガキ!!」
(怪我をさせない…かぁ。難しいなぁ)
「打撲はセーフかな!?」
鳩尾に1発ずつ入れると、倒れてくれた。
(良かった…。さて、リョウちゃん)
あの笑顔は初めて見た。あれが向けられたら足がすくむ。
(さすが桜井アサヒの特攻…恐ろしいや)
弘樹が戻ると、真っ白なリョウタがいた。
「リョウ…ちゃん?」
「あー、弘樹!大丈夫だったか?」
普通に話してくるリョウタが、先程とギャップがありすぎて、ツボに入ってお腹を抱えた。
「弘樹!どこか撃たれたのか?」
「…っ、く、っぅはははははは!白い!驚きの白さっ…うははははは!」
「お前がかけたんだろ!?笑うな!」
あまりにもツボに入りすぎて、笑い泣きしながら帰った。すれ違う人がみんな振り返り、ヒソヒソとリョウタを怪しんでいた。
「ただいま」
「おう!おかえ…っぎゃはははは!」
案の定レンにも指差して笑われ、リョウタは頬を膨らませた。
レンはサトルが目覚めたことでご機嫌だった。軽く2人をあしらい、サトルの手を握って隣から離れなかった。
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