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第53話 弘樹の恋
弘樹が気になって眠れない。サキにバレないように寝たふりをしたけど、サキはリョウタの前髪を掻き上げた。
「眠れない?」
「うん…」
「桜井シンヤのこと?」
「ううん。」
「弘樹?」
「…うん。」
そう言うと、ぎゅっと抱きしめられた。
「…期待させるわけにはいかないだろ。俺はリョウタしか選ばない。」
「うん…」
「それに、あれはユウヒの案だ。」
「え!?」
驚いた表紙に頭をぶつけ合った。
「痛…お前な!」
「ご、ごめん!…ど、どういうこと?」
ーーーー
「サキ兄?気付いてんだろ?…ヒロの気持ち」
「さぁな。何も言われてないし。」
「意地悪すんなよ。期待させるのって結構ひどいよ。応える気ないくせにさ。」
「…どうしろと?」
「サキ兄はリョウタしか見えないーっていうのをヒロに見せるんだよ!そしたら、わかるだろーし。」
ユウヒは閃きを自画自賛していた。
「俺はそれでいいけど…何でそんなに気付かせたいんだ?」
「ん?俺、ヒロがほしい。」
「……は?」
「だぁってさ?リョウタはサキ兄にメロメロだろ?あんなの無理じゃん。イライラしてたけどさ、ヒロが来てから…毎日楽しいし。あいつのさ、嘘の…笑顔?なんか見てらんねーし。陰でよく泣いてる時、一緒にいるから、俺ら」
ユウヒは少しモジモジしていた。
「…ハル兄に話したら喜んでくれたし…。ヒロを支えたいなって。」
ユウヒの優しい笑顔がアサヒに見えて一瞬驚いた。サキはユウヒの頭を撫でて応援した。
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「ひゃ……んーっ!んーっ!」
「騒ぐな。何時だと思ってんだ。」
テンションが上がった瞬間に抑えられた。しーっ!と怒るサキに頷いて喜びを噛み締めた。見守っていこうと2人で約束して目を閉じた。
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「やっぱりここにいた。眠れねーの?」
「ユウヒ…。」
アジトの上に建つビルの屋上。ここが弘樹のお気に入りの場所だった。
月を見て、今日は半分だね、なんて言って笑っている。
(まぁたこの顔…)
「ユウヒも眠れない?アイリちゃん寂しがるんじゃない?」
「アイリはウサギのでっかいぬいぐるみ抱いて寝てるよ。」
「ふは!可愛いなぁ!」
クスクスと楽しそうに笑ってくれた。これは、本当の笑顔。良かった、と安心してユウヒは錆びた柵に座った。
「あ、危ないよ!ユウヒ、降りなさい」
「嫌なこった!」
そう言うと、無理矢理降ろそうとしてくる。それにユウヒは飛び込んだ。
ドサッ
「痛ぁ…っ!もう!ユウヒ!」
「ごめん。」
「いいよ。怪我はない?」
「なーい。」
ユウヒは立ち上がって、尻餅をついた弘樹に手を伸ばした。
「ユウヒ?」
「はい、手」
「手?…ッうわぁ!?」
引っ張って弘樹を強く抱きしめた。身長は同じぐらいだった。
「今日は…サキ兄を諦めてって言いに来た」
「見せつけられたから…もう分かったよ。サキさんは…王子様みたいだった。男が何言ってんのって感じだよね?はは…っ!でも、あの暗闇から、痛みから、目を覚ましたら…必死の顔のサキさんがいたんだ。」
弘樹はユウヒの背中を握った。
「救って貰ったんだ。一緒に過ごすだけでとても特別で…っ、恥ずかしいな、舞い上がっちゃって…。リョウちゃんみたいな素敵な人…勝てっこないのに…っ、っ、でも、っ、やっぱり、優しい、2人とも、っ、優しくて、大好きなのに、っ、苦しいんだ」
ユウヒの服が涙で濡れる。黙ったまま、弘樹の言葉を聞き続けた。
「綺麗だし…優しいし、リョウちゃんのこと、俺のって言ってくれるところもかっこよくて…ダメだって、思えばま思うほど…」
「それってさ、憧れなんじゃねーの?」
「憧れ?」
サキヘの気持ちが溢れそうな弘樹に、ユウヒはストップをかけた。きょとんと涙目で見てくる弘樹の涙を拭いて、ユウヒは笑った。
「そう。憧れ。俺もあったよー。優しいお兄ちゃんがいてさ。優しくて、強くて、なんなら顔も可愛くて。あの人みたいになりたいって。」
「憧れ…か。」
弘樹はぼんやり考えたあと、ユウヒの服に顔を擦り付けた。
「分からないや…」
「サキ兄とキスしたかった?」
「キッ!!そ、ば、バカじゃないの!?」
弘樹は顔を真っ赤にしてユウヒを突き飛ばして距離をとった。
「そんなんじゃないよ!恥ずかしくて想像も…」
弘樹が顔を上げると、ユウヒの唇が触れた。
柔らかい感触、腰に回った手。長いまつ毛。ゆっくりと開く瞳が月明かりで綺麗だった。
「ユウヒ…?」
「…俺、ヒロとキスしたいって思ってた」
「へ?」
「そういう好き。」
弘樹は無意識に指で唇を撫でた。
「ヒロはもちろん、かっこいいし、身体能力やべーし、羨ましい。なのに優しいし、気さくだから話しやすい」
「う、うん。ありがとう」
「それだけなら、憧れ、だと思うんだ。でも俺は違う。我慢して笑うのも、こうして一人で空見上げて泣くところも、好きで、そばにいたい。」
やっと、意味が伝わったのか、目を見開いて顔を真っ赤にしてワタワタしている。
「俺、リョウタの事気になってた。昔の憧れの人に似ててさ。昔の憧れの人も、リョウタもみんなサキ兄に取られてさ。」
「…代わり?」
「ふは!言うと思った!」
ユウヒはクスクス笑って弘樹の頬を触った。
「ヒロが来てから、ヒロにしか目が行かなくなった。どう話そう?とか、知りたいなってずっと思ってた。…ヒロのこの場所知ってんのも俺だけだろ?めっちゃ探したんだから」
ユウヒはニカッと笑った。
初めてユウヒがここで弘樹を見つけた時、小さく座り込んで泣いていたのだった。
「俺が見つけたから、ハル兄にも言わない。俺だけが知ってる…2人の秘密」
弘樹は目を見開いた後、恥ずかしそうに目を逸らした。
「ユウヒ…探してくれたんだね。知らなかった。偶然とか言ってたから。」
「他に格好つけ方分かんねぇんだもん。…ダサくて悪かったな」
ユウヒは恥ずかしくなって月を見た。周りに少し星も見えた。
「ユウヒ」
呼ばれて弘樹を見ると、今度は弘樹からキスをしてくれた。
「…ヒロ…?」
「えへへ!おかえし!元気になったから!」
「おかえしって…。あーはいはい。どうもー。」
告白が流されたことに気付いて、再チャレンジするか、と諦めて屋上を後にしようと歩く。
「ユウヒ!」
振り返ると、また弘樹からのキスを貰えた。いよいよ意味がわからなくてユウヒは眉を顰める。
「なに?お返しは貰ったよ?そんな何度も返されたらさすがに凹むからやめて。」
「俺も!ユウヒとキスしたい、好き!」
蕩けるような笑顔で言われて舞い上がりそうになる。
「な、流されてんじゃねーよ。心配になるわ」
「えぇ!?」
ユウヒは呆れて階段を降りる。次はどうしよう、と考えていると、上から大声で名前を呼ばれた。
「ユウヒ!今日!来てくれて嬉しかった!」
「…声でかいな…」
「待ってた!来てくれるの!」
思わず振り返ると、笑顔なのに泣いていた。
「そばにいてほしいよ!これからも!2人の秘密!増やしたいよ!」
ユウヒは階段を駆け上がって強く抱きしめた。
「良かったぁ…伝わった…っ」
ユウヒの服を握って泣きながら笑う。そんな弘樹にユウヒは夢中でキスをした。
月明かりが綺麗な、雑居ビルの屋上。弘樹の涙はもう止まっていた。
ーーーー
「ったく…。心配かけやがって…」
階段には汗だくのアサヒが座り込んで天を仰ぐ。ケータイを取り出して耳に当てる。
「ミナト、ハルに2人見つけたって伝えといて。…あ?…なんつーの?逢瀬?…ははっ!恥ずかしいくらいイチャついてるよ。」
アサヒは電話を切った後、階段を降り、2人にバレないように周りを警備していた。
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