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第56話 狙い
(なに…これ…?)
ミナトは郵便物を整理していると、くしゃくしゃの写真に気付いた。
小さな男の子が3人と、女の子が2人。
(昔の…僕たち。…何でこれが?)
左から、アイラ、アサヒの妹のマヒル、アサヒに肩を組まれたミナト、そして少し離れた所に真顔のシンヤ。
ミナトとシンヤ以外楽しそうに笑っている。そして、シンヤとミナト側に濡れて乾いた跡。
(何これ…)
分からなくて、裏面を見ると、手書きで書かれたメッセージ。
『ミナト、元気?大人になった君に会いたい』
「っ!!」
ヒューヒューと呼吸が乱れる。
(狙いは…僕?…なんでシンヤが?)
ミナトがアジトから出ないことも分かってのメッセージだろう。アサヒに連絡しようと、震える手でケータイを取ると、たくさんのモニターから、一つのモニターの異常に気付く。
「っ!!」
桜井シンヤのドアップに、ミナトは腰が抜けた。街の至る所にある監視カメラ。早く場所を特定しないと、と思うのに恐怖で見つめることしかできない。目があっているような感覚に短く呼吸をする。
(怖い、怖い、怖い)
シンヤの形の良い薄い唇が動く。
『ミ・ナ・ト・見・て・る?』
バタン!!
「はっ!はっ!」
「おわ!?どうしたミナトさん!」
廊下でぶつかったハルにしがみついて、涙がポタポタと流れる。
「ミナトさん!?どうしたんですか!?」
ガチャ
「ハルさん?どうかしたの?」
「リョウタ、ミナトさんの様子がおかしいんだ。いったいどうしたんだ…」
「ミナトさん!大丈夫ですか!?」
大きなハルに包まれて、必死でしがみついて目を閉じた。
「リョウタ、アサヒさんに連絡できるか?」
「えっ!?やったことないです。」
「頼んでいいか?サキに聞いてくれ。」
「了解です!」
リョウタがサキを大声で呼んでバタバタとリビングへ走っていく。
(ちゃんと、伝えないと)
そう思うのに、パクパクと口は動くのに声が出ない。焦って焦って、もどかしくて感情が追いつかない。
「はーい。ミナトさん、大丈夫だよー。ゆっくり息を吐こう。そう、上手だよ。」
優しい声と、温かい手が背中を摩る。呼吸に合わせるように手が移動する。声に集中してゆっくりと呼吸すると、少しずつ落ち着いてきた。
「うん。正常だね。」
カズキが正面に回ってきてニコリと笑った。安心感に強張っていた力が抜ける。カズキがハルに温かい飲み物をと指示するとハルは走ってキッチンに行った。
「脈も落ち着いたけど…顔色が悪いね。」
「…そうかな」
「うん。少し点滴してみようか?」
「ううん。勿体ないよ。みんなが大変な時に使って」
「そのみんなにミナトさんが入ってるの!立てるかな?…よいっしょ」
カズキに掴まってゆっくり歩く。医務室に運ばれてホッとした。今あのモニターを見る勇気はないが、カメラの位置がバレてることが気掛かりだった。
(レン…動けるかな…)
「カズキ、レンはいる?」
「…あー…いるんですけどね…ははは」
「お楽しみ中?」
「さっきまで。呼んだら来ると思いますけど…どうします?」
「…ちょっと急ぎかな」
ミナトはお願いしていい?と苦笑いすると、カズキは慌てて呼びに行ってくれた。
(あれ、いつの間に点滴…。相変わらず仕事が早いな)
ミナトは左腕を見て微笑んだ。
「ふぁ〜〜…。なーにー?ミナトさんー」
「眠そう、ごめんね」
「いいよー。サトルで充電したしー。んで?」
レンは一気に仕事の顔になった。
ここがレンの頼れる所だ。
「…モニターに桜井シンヤが映ってた」
「あぁ…。街を徘徊してるのか?暇人め!」
「違う。ドアップだよ。カメラに気付いてる」
「…え?」
「僕に見てる?って合図してきた。…昔の頃の写真もポストに入ってた。…シンヤの狙いは、僕だ。」
レンは絶句して見つめるだけだった。
「あ、アサヒ、さんに、連絡を…」
「リョウタにしてもらってる。大丈夫だよ。」
「何の目的で…」
「それを調べて欲しい。シンヤは常人とはまるで違う感覚だ。本当の目的を知って動かないと、仲間を無駄に失う可能性がある。気まぐれなら飽きてくれるのを待つだけだし、目的があるなら、それを潰さないと。」
レンは少し考えた後、いくつかミナトに確認を始めた。
「ミナトさん、シンヤと昔関わりが?」
「ほぼ無いよ。話そうとしてもアサヒが先に答えてたから。アサヒはいつもシンヤを仲間に入れなかったから覚えてない。」
「…綺麗な人が好きだって俺に言ってた。そのときは?」
「…さぁ?手当たり次第で誰でも良さそうだったよ。」
「シンヤ以外の仲間って今はどこに?」
「全員、桜井テンカに殺された」
レンは気不味そうに目を逸らして焦っているのが分かる。いいよ、と手を撫でると、ごめんなさい、と謝ってきた。
「アサヒに、なんでシンヤを仲間外れにするのか聞いたけど、あいつは危険だとしか聞いていない。」
「まぁ…たしかに。友達作るためにナイフ持ってる奴は危険だ。」
レンは目的として、仮説をいくつか出した。
「まず、ミナトさんと話してみたい、という好奇心。二つ、アサヒさんの仲間に入れなかったから嫌がらせ。三つ、アサヒさんに自分を見てもらうために、アサヒさんの大事なものを壊す」
「……3かな。」
「…正直俺もっす。」
2人で唸って、作戦を立てる。思い通りにされるつもりはない。これはあくまで仮説で、真意は桜井シンヤしか分からない。
「アサヒ、総会でシンヤに会ったらしいから、何を言ったか聞いてみる。」
「はい。…俺は3の線で動いておきます。…部屋に入っても?」
「お願いしていいかな?…アサヒが来るまではあの部屋に入りたく無い。でも位置は特定したい。」
「はぁい。サトル入れてもいい?」
「いいよ。」
レンに頼むと、安心したのかゆっくりと眠りの世界に落ちた。
(カズキってば…寝てないの分かってたのかな…。睡眠薬まで…。)
ミナトの思考はここまでだった。
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