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第57話 プライド
リョウタとサキは2人でレンの指示したカメラの場所に来ていた。
「完全に壊されてるな…。なんだこれ?ベトベト…」
サキは気持ち悪いと、手袋をして回収した。リョウタは配線を弄りながら、壁の傷に目が入った。
(数字?)
『23』
「リョウタ、どうした?」
「見て。数字。ナイフで削られた感じ」
「レンさんに言っとくか。」
サキが写真を撮り、他のところに向かう。どこのカメラも壊されていたが、数字が減っていく。
「サキ…もしかしてこれ…」
「あぁ。俺も数は知らないけど…全部やられてないか」
「あと、俺たちのアジトに近付いていくほど数字が小さいよ」
気持ち悪くてサキの服を握る。サキも緊張しているのか何も言わなくなった。
「あれ?ここ、まだ数字がない!」
良かったぁ…とリョウタがふにゃりと笑った瞬間、サキはリョウタに銃を向けた。
「動くな!!」
リョウタはビクッと肩を揺らしたがピタリと止まり、銃弾が髪を掠めた。緊張していると、後ろから肩を組まれた。
(え…?)
「おーこっわ!挨拶もなしに撃ってくるなんて!」
長い黒髪がリョウタの肩にかかる。
「僕は桜井シンヤ。君、名前は?」
「……。」
サキは無視してまだ銃を構えている。
「君も綺麗な目をしているね。ハーフなのかな?色素が薄いから、黒い服がよく似合うよ」
隣でサキを褒める言葉ばかり話しているが、リョウタは汗が止まらない。首にはナイフが当てられているからだ。
(全然気付かなかった…油断した)
「あーん。無視は嫌だよ?ねぇ、見えてる?この子の首、斬り飛ばしてもいいんだよ?」
サキは動揺することなく、また無言を貫く。よく喋るシンヤと寡黙なサキは相性が悪い。緊張状態が長く続く。
(俺が…隙をついて…)
まだペラペラ話しているシンヤを見て、短く息を吸った時
「動くなって言ってんだろ!!」
サキに怒鳴られてまた固まった。シンヤは少し考えた後、リョウタに話しかけ始めた。
「あの子は君に関することなら話してくれるみたい。」
「っ!」
首にナイフを当てられたまま、シンヤの顔が近づく。
(アサヒさんに…ソックリだ!)
「何?僕の顔に驚いてる?」
「アサヒ…さんに、似てるから…」
そう言うと、シンヤは驚いたあと、パァッと明るくなった。
「そうかな?!」
嬉しそうに笑ったあと、目が紅くなった。
「じゃあ、僕と兄さん、どっちが好き?」
「へ?」
「似てるよね?似てるなら僕を選ぶ?」
ググッと首のナイフが皮膚に入る。少しずつ血が流れる。サキが目を見開いてこちらを見ていた。
(間違ったことを言っちゃった。相手を刺激した…)
「痛い?僕を選んだらやめてあげる。」
(刺激しちゃったなら、とことんしてやる!)
「アサヒさんに決まってるじゃん!」
ナイフを両手で握ってニヤリと笑う。目を見開いたシンヤに蹴りを入れた。
飛ばされた方向を計算したサキが狙った場所にシンヤが飛んできた。
(命中!!)
パンッ
カン…カラン…
軌道が変わって、銃弾が別のところに落ちた。
「何で…っ」
サキは落ちた銃弾の距離から上を見上げた。
「ここは俺のシマだ。何してるシンヤ」
上からの声にリョウタもサキも息を飲んだ。銃を持ったアサヒがいた。
「わぁ!兄さん!」
「サキ、リョウタ。簡単に手を出すな。殺してたら闘争になる。No.2を殺したら上が黙っちゃいない。数だけなら勝てない。」
アサヒは言わなくて悪かった、と頭を掻きながらジャンプして降りて、シンヤに技をかける。
「痛たたたた!兄さん!やめてよ!」
「No.2のお前がシマ荒らしか?ダサいことやってんな?あァ!?」
「ちがうよ、っ、僕はただ」
「何だ!?はっきり言え!!」
ギリギリと首を絞めるアサヒを唖然と見ているとサキが駆け寄ってきて、止血しようと必死に首や手に布を巻いてくれた。
「ミナト、元気かなって…っぃたああああ!」
「何で今更ミナトだ。殺されたいのかお前」
「話したことないから、気になっただけ。きっと綺麗になってるんだろうなって…っあ、っあ…」
ボキッと聞こえて2人はぎゅっと目を瞑った。恐る恐るアサヒを見ると、目があの色だった。
「ずっと前から言ってるはずだ。ミナトに近づくな。」
「一回、ヤらしてよ。そしたら何もしないから…ぁああ!!」
アサヒが折ったシンヤの左腕をさらに逆方向に曲げている。リョウタはドン引きしてサキにしがみついた。
「お前、死にたいみたいだな。そうだ、ちょうど親父も殺したいしな。お前を殺してそのまま向かうかな。」
「殺すなら一回だけミナトの顔見せてよ!気になって毎晩抜いてるんだよ?抱きたくて仕方な…ぐぅあああ!!」
今度は何度も何度も踏みつけているが、シンヤは苦しみながら笑っていた。
(笑ってる…なんで!?)
怖すぎて、リョウタは歯がカチカチと鳴った。サキはしっかりリョウタを抱きしめてひたすら黙っていた。
「あは…あははは!兄さんがやっと僕を見てくれた!ミナトを狙って大正解!憎たらしいよね?最近兄さんの中に僕がいなかったでしょ?忘れられてたら寂しいじゃん?ミナト関係ならすぐ会えるかなと思ったらビンゴ!」
「そうかい、良かったな俺に会えて。」
粉々になるんじゃないかと思うほど踏みつけ続けてもシンヤは恍惚の表情になっていく。
「兄さんだけは、僕を忘れないでよ。」
「死んでくれたら忘れずに毎日思ってやるよ」
「え!本当!?」
ガチャンとアサヒがシンヤの頭に銃を向けたが、今度は違うところに撃った。
「迎え、来てんぞ。さっさと消えろ。二度とツラみせんな。」
「やだなぁ。また会おうね。」
「次ミナトの事狙ったら俺、お前のこと一瞬で忘れると思うわ」
「え!?それはヤダ!分かったよ!ミナトは忘れるから!だから僕のことは忘れないで!兄さんしか僕のこと構ってくれないのに!」
シンヤは部下たちに囲まれ、黒塗りの車に無理やり詰め込まれていた。部下たちは、アサヒにビビりながらも必死で頭を下げて、多額の現金を置いていった。バイバイと手を振るシンヤの顔は純粋そのもの。アサヒは大きなため息を吐いて、見送った後、サキの頭を撫でた。
「悪いな。あいつ殺したら俺の立場が危ういんだわ。完璧な軌道だったから、邪魔しちまった」
「いえ…知らなかったので…」
リョウタは下からサキの顔を覗き込む。初めて見る、悔しそうな顔。アサヒはそれを分かっているのか、気不味そうにしながらも、サキと目を合わそうと座り込んだ。
「サキ、悪かったって。」
「謝るのは、俺ですから。すみませんでした。」
「あぁもう。拗ねるなよ。」
「サキ?怒ってるの?」
「…言葉で間に合わなかったとは言え、軌道を変えたことが気に入らないんだろ。」
サキは唇を引き結んで無言を貫く。リョウタは困って必死にサキを見つめた。
「…あれは最新の銃です。弾のスピードは情報開示されていない。それを…一瞬で…」
「あー…まぁ、勘だよ。あ、ウソウソ!…えっとぉ、実は情報知ってて!」
サキはアサヒの腕を強く握って、首を振った。
「っ!!慰めなんかいらないです!ウソも…つかなくていいです。分かってます。アサヒさんが天才的センスがあること」
「サキ…」
「俺が、まだまだ未熟なことを知りました。今はまだ、アサヒさんを守れるレベルじゃない。…悔しいです。誰よりも、上手くなります。」
サキの悔しくて涙が浮かぶ目に、アサヒとリョウタは目を合わせて微笑んだ。サキは笑うな!と怒り、完全に拗ねてしまった。
「サキ、お前は明らかに成長してる。俺が邪魔しなければ心臓を貫いていた。完璧だった。」
「邪魔されてるようじゃダメです。銃のことは、誰にも負けたくない…アサヒさんにも。」
そういうと、アサヒは嬉しそうに笑って、可愛い奴、とサキをわしゃわしゃと撫でた。本気で嫌がるサキに笑って、アサヒはサキに頬擦りしてはご機嫌だった。
のを見て、リョウタはバタンと倒れた。
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