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第58話 実力差

桜井シンヤと対峙した日から、サキは今までのぐーたらが嘘のように、昼には行動し、射撃場に通っていた。リョウタといても、銃の手入れをしたり、ネットでさまざまな銃の情報を探していた。 「サキ…あの、」  「うん、ちょっと待って」  話の途中で出て行ってしまった。  (サキ…。全然構ってくれないや) リョウタは不貞腐れてベッドに寝転んだ。  自惚れではなく、最近はリョウタ中心、リョウタ優先だったサキ。リョウタが訓練に行くのも理由をつけてギリギリまで一緒にいたがっていたのに。  モヤモヤして、部屋を出たサキを追おうとすると、サキは廊下でミナトと話していた。  「アサヒの銃?…さすがに知らないよ。何の武器持ってるか分からないんだ」  「…ミナトさん、教えてください。」  食い下がるサキにミナトは視線を逸らしてため息を吐く。  「サキ。焦りすぎ」  「俺は本気になっただけです。アサヒさんの手持ちを教えてください。」  「知らないって言ったよね」  「そんなはずありません。補充はミナトさんがしているはずです。」  ミナトはまたため息を吐いて腕を組んで壁にもたれた。  「いつまで続けるの、このやりとり。」  「ミナトさんが教えてくれたら終わります」  「知らない。じゃあね。」  「ミナトさん!」  サキがミナトの手首を掴もうとした時、アサヒが部屋から出てきてサキの顔を殴った。  「サキ!!」  思わずサキに駆け寄ると、アサヒはミナトを部屋に戻し、サキを睨みつける。  「サキ、何のつもりだ。ミナトに乱暴するつもりか。」  「…違います。」  「じゃあ何だ」  「アサヒさんの、手持ちを知りたかっただけです。…何で俺のは報告しなきゃいけないのに、アサヒさんのは共有されないんですか」  サキは口の端から出た血を拭って、鋭い眼孔でアサヒを見つめた。  「共有して何になる。今のお前の実力じゃ何使っても同じだろ」  「っ!!」  フォローしていた前回と大違いの態度にリョウタは目を見開いた。ミナトに手を出したことでアサヒは厳しく接していた。  「悔しかったら俺を殺してみろよ。俺が使ってるのを知りたい?…おらよ。」  カシャンと投げ捨てられた銃に、サキが血相を変えてアサヒに掴みかかる。  「嘘つくなよ!!ガキだからって!!」  「あ?ガキ相手にはこれで十分だろ」  「ふざけんな!!」  激昂するサキを止めようと、リョウタは必死に服を引っ張るが振り払われた。  「サキ!!落ち着いてよ!!」  「バカにしやがって!!」  「バカだよ。誰に向かって口聞いてんだ」  ピタリとサキが止まって、リョウタも驚いて膝から力が抜けた。  投げ捨てられた銃とは別の物が、サキのおでこに当てられていた。  「お前と違うのは銃の種類じゃない。俺は、いつ殺されるか分からない。そんな俺が丸腰でいるわけないだろ。いいか、俺は、四六時中命を狙われてんだ。そんな奴らから、お前らも、俺自身も守んなきゃなんねーんだよ。お前とは背負ってるものも、日常生活でさえもまるで違うんだよ」  サキはガクンと膝から落ちた。  「だから、ガキだって言ってんだよ。お前が誰かを狙ってる時、自分が安全な保証はあんのか?前だけ見てたら上にいた俺に気付かない。今も、目の前の俺に食ってかかって、左手には気付かない。俺が、お前を殺さないと思ってんだろ?甘い、甘すぎる」  アサヒはまた銃を投げ捨てた。  「弾は入ってないから安心しな。ただし、二度目はないぞ。歯向かうなら死ぬ覚悟で来い。」  サキは完全に固まってしまった。アサヒはため息を吐いて、座り込んでサキの前髪を上げた。  「あぁもう…。泣くなって。焦っても仕方ないだろ。」  「ぅ…っ、ぅ、」  「それにミナトに八つ当たりは違うだろ?」  「っ、…っ」  「リョウタにも構う暇なくなって、余裕もなくなって…そんなんで何か身についたのか?」  ポタポタと落ちる水滴に、リョウタはサキの背中を撫でる。  「秘密にしてるわけじゃない。お前が報告した銃しか俺は持ってない。銃の知識はお前が1番だよ。それは認めてる。」  「っ、ぅ、っ、ひっく、っ」  「それに、ミナトは本当に知らないんだ。言われた物だけを発注してるから、あいつは何のことか分からないままだ。」  泣き止まないサキに、困ったように笑う。  「サーキ…。元気出せって。ミナトが危なかったからちょっと…俺も大人気なかったな、悪かった」  ぺこりと頭を下げるアサヒはやっぱり大人だった。それが余計悔しいのだろう、嗚咽を漏らしてぐずぐずになった。  「ははっ!お前が泣くと、あの時思い出すよな」  「あの時?」  「あぁ。サキが入った時。」  そう言ってアサヒは優しい顔でサキの頭を撫でた。

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