61 / 191
第61話 ブレーン
バタバタ…
(なんでっ!どうして!!)
レンは血相を変えてミナトの部屋に向かって、必死でノックした。この時間は寝ているミナトだったが、起きるのを待っている時間はない。
「…レン、どうしたの?」
「ミナト、さん!助けて、助けて、どうしよ!どうしよう!」
「落ち着いて。…入って。」
ミナトは一気に目が覚め、レンを部屋に入れた。歯がなるほど緊張したレンの手を握ると、手もカタカタと震えた。
「俺のせいだ、俺が…」
「レン?」
「桜井テンカに…サトルの素性がバレました。今日の22時に、サトルのお父さんの病院に訪問する予定です。」
「何で…」
ミナトも絶句した。桜井テンカが動くことは、病院の存続も危うい。大きな人質だった。
「シンヤが…俺を狙ってきた時、サトルが守ってくれたでしょ?サトル、名前言っちゃって…。俺も何度も呼んじゃったから…」
どうしよう、と頭を抱えるレンには申し訳ないがさすがにすぐに作戦が浮かばない。
「テンカが直接?」
「はい…。盗聴で…確実です。ねぇ!どうにかならないかな?!」
何でもします、と頭を下げるレンに困って、仕事中のアサヒに連絡を入れた。
『俺が行く』
それだけ返ってきたメッセージ。レンはダメです、と首を振る。
「アサヒさんを連れ戻すためなんです!それに…関係ない人たちが死ぬ可能性もある!」
「…テンカが出るなら、アサヒも一緒じゃないと、こちらから誰も出せないよ。」
「そう…ですけど!でも、俺に何かできませんか!」
懇願するレンにミナトは首を振った。
「悪いけど、サトル関連でレンを使うことはあり得ない。」
「…へ?」
「レンは情報だけを流して。」
「そん…な。俺のせいなのに!」
「レンのせいじゃないよ。」
「でも…」
まだ食い下がるレンをミナトはギロリと睨みつけた。
「ハッキリ言わなきゃ分かんないくらい動揺してるね。…レン、こんな状態で使えないから今回はお留守番してて。」
「っ!」
「使えないどころか足手纏いもいいとこだよ。レンの弱点はサトルなの。まぁ、お互いにね。今回はこちらに任せて。」
ミナトはモニターの前に座り、レンがいるのを無視してカタカタとキーボードを打ち始めた。レンは唖然とそれを眺めた。ミナトはケータイを取り出した。
「カズキ、ごめん動ける?潜入してほしい。」
「サキ、リョウタ、ヒロ、リビングに集合」
城之内総合病院の図面をすぐに調べ、アサヒにも何やら連絡をとっているようだ。そして、ミナトは連絡を取り始めた。
「城之内昴さんをお願いします。」
あまりの早さにレンは瞬きをするだけだった。
(この人…頭ん中どうなってんの)
電話をしながらもカタカタと止まらない手と目の動き。カズキにも追加で指示をして、電話で話し始めた。
「こちら弁護士事務所兼、ボディーガードを担っております。……はい、その情報が入りまして対応にお困りではないかと。…はい、やはり。ではこちらの指示で動いていただけますか?…すぐに詳細をお送りいたします。…はい、情報も一切漏らしません、セキュリティも万全です。パスワードは口頭で、」
あっという間に契約書を作成して、一度しか聞いていないメールアドレスに送信して、話しながら説明している。
電話を切ると、レンに笑った。
「サトルのお父様、ひどく動揺しているみたい。サトルの情報揉み消しと、職員、院長、患者の命を守る。カズキの知り合いの病院に昼までに患者を移す。」
「そんなことが…」
「できる、というかやるしかない。」
ミナトは資料を作成して、もう一度読み込む。その時間、2秒ほど。その後に返信を見て、パソコンの電源を落とす。
「報酬は多額の資金になる。そして、最新の医療機器と薬品とデータ。契約は締結。さぁ動くよ」
おいで、と動くミナトの後をついていく。
(…カッコイイ!)
リビングにはすでにカズキ、リョウタ、サキ、弘樹が集まっていた。
「ミナトさん!任務?」
リョウタはやる気満々で話しかけてきた。
「うん。あ、サトルはいる?」
「サトルさんは…」
リョウタが振り向いたところからハルとサトルが重い荷物を運んでいた。
「サトル、ボディーガード頼んでいいかな」
サトルは不思議そうにミナトを見た後、レンを見た。レンは頷くと、サトルは大人しくリビングに集まった。
「今回の依頼者は、城之内昴さん。」
「え?」
サトルが驚いて声を上げ、リョウタや弘樹が振り向いた。
「城之内総合病院の院長。…桜井テンカが22時に訪問すると連絡があったそう。」
「っ!」
サトルは顔面蒼白になって見るからに動揺していた。ミナトは、不思議そうなリョウタと弘樹、カズキ、サキに話した。
「サトルのお父さんの病院。そして院長はサトルのお父さん」
「「「え!?」」」
「サトルのお父さんの命と、病院を守る。失敗は許されない。…そして、今回はアサヒも現場に出るから、くれぐれも無茶しないで。」
「了解です!」
「がんばりまーす!」
「はい!」
それぞれが返事する中、目を見開いたまま固まるサトルに、ミナトは目線を合わせた。
「サトルにしかできないお仕事。命懸けでお願い。」
「…御意」
やっと目線があったサトルはいつものように冷静だった。
ともだちにシェアしよう!