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第65話 弱すぎる

城之内総合病院の事件は大きく報道されることなく、日常へと戻った。しかし、アサヒ、リョウタが重傷を負った。  アサヒはアジトで処置を受けた後にすぐに起きて、泣き疲れたミナトに寄り添った。 アサヒが倒れたのが初めてで、ミナトが1番動揺し、取り乱したのをレンが支え、最後の指示はレンが行った。  コンコン… ガチャ  「よぉ、リョウタはどうだ?」  「アサヒさん…。リョウタはまだ眠っているみたいです。」  サキはリョウタの包帯で巻かれた手をすりすりと撫でて笑った。  「なーに笑ってんの」  「俺、少し成長しましたか?」  「あぁ。あのジジイに2発命中はすげぇよ」  「…でも1発目で倒れなくて…ちょっと、焦った」  アサヒはニコニコ笑って、ゆっくりとサキの頭を撫でた。  「お前がいたからみんな生きてる。ありがとうな」  アサヒに褒められると、サキは花が咲いたように笑った。  「可愛いー顔してんのに、もっと笑え」  「…今更だよ。どうしたらいいか分からないから…」  「まぁ、好きなやつの前では笑ってやれよ。」  その言葉にサキは頷き、アサヒは医務室を後にして、サトルとレンの部屋に向かった。 アサヒを見た2人は、なんだか気不味そうに部屋に入れてくれた。  「アサヒさん、今回は俺のせいで…」 「サトル、レン。俺の親父がすまなかった」  「そんな!!アサヒさん!」  「頭を上げてください!」  2人は慌ててアサヒに駆け寄った。  「2人の情報が漏れた。…レン、これからはやりにくくなるかもしれない。」  「余裕です!何の問題ありませんよ!」  眉を下げるレンにアサヒは笑って、2人を見た。 「2人に頼みがある」  アサヒは神妙な面持ちで2人に話をした。  話の内容に一気に不安になる2人に笑って、よろしくな、と話した。  次はキッチンに向かう。  「ハルー。」  「あ!アサヒさん!まだ起きちゃダメでしょうが!全く!」  「腹減った…」  そう言うと、笑って簡単なものを作ってくれた。 「ハル…。俺が死んだら、ユウヒが大きくなるまで頼んでいいか」  「はっ!?」  ガチャンと食器を落としたハルに苦笑いする。先ほどの2人の絶望した顔が浮かぶ。  「もしも、の話だよ。今回、繋いどかないとなぁーって思ってさ。」  「バカなこと言わないでくださいよ。嫌ですよそんな悪質な冗談」  ハルはギロリとアサヒを睨みつけるも、笑って躱した。  「いやぁ…さすがに、俺も凹むのよ。まだこんな差があんのかよ、ってさ。」  「アサヒさん…」  「あいつらを道連れにするつもりがないから。だから…まぁそん時は来させねぇけど、覚えておいて。」  「それでアサヒさんは安心するんですか?」  「あぁ。安心するよ。」  「諦めたりしませんか?」  「ははっ!俺が?そんなわけねーだろ。地の果てまであいつを殺しにいくよ」  アサヒの笑顔を見て、ハルは苦笑いした。  (本当に凹んでる。現場で倒れたこと、ミナトさんや仲間を不安にさせたこと、大怪我をしたこと。アサヒさんは背負いすぎだ)  「わかりました。でも、ユウヒが成人してたら、この話は無効で。」  「ふは!分かったよ!それまで生きろって?」  「当たり前でしょ!」  食器の破片を拾って、立ち上がると、やっぱりまだ不調なのだろう。真っ青な顔で、脇腹を押さえて汗をかき、机に伏せていた。急いでカズキに報告して、アサヒはハルに運ばれて医務室でリョウタの隣で寝かされた。  「あ…アサヒさん、おかえりなさい」  「うるせー。」  サキに八つ当たりして、アサヒは情けなさに押し潰されそうになっていた。  (弱すぎだろ、俺…)  悔しくてギリッと歯を食いしばった。 

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