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第68話 お節介

「サーキ、ねぇ、サキ」  (うーっ、まだ拗ねてる)  部屋に戻ってきたリョウタはサキに甘えたかったが、ずっと無視されている。サキの優しさを無下にしてしまったのは本当に申し訳ない。  (だけど、もう良くない?)  明らかに怒ってますよアピールをしてくる。でも、リョウタは今日、どうしても甘えたい。  (サキ、勝負だ!)  銃を磨いているサキの後ろから抱きしめて、細い首筋にチュッチュッと唇をつける。ビクッと跳ねた身体にニヤついて、そのままでいると、頭を離された。  「悪いけど、邪魔しないでくれる?」  「はあー!?あのさ!いつまで怒ってんの!?」  「怒ってないし。勘違いすんな。」 また銃に目線が移ったサキに、リョウタは久しぶりにイライラした。  「あっそ。」  そう言ってベッドから毛布を取って強くドアを閉めた。リビングのソファーで包まったがイライラは治らない。  (なんだよ!なんだよ!サキのバカ!やっと、目が覚めたのに…。なんかいつも目覚めた時つめたいよなぁ…。起きなきゃ良かったのかな)  大きなため息が出て、ソファーから立ち上がる。  (頭冷やそう。俺が大人気なかった)  反省して、明け方の街へと向かった。  (空気が澄んでる…。)  街をぶらぶらして大きく深呼吸をする。地下にいるからウジウジしてしまうのかも、と太陽を見て伸びをした。  「キャー!誰、か!助けて!」  女性の叫び声を聞いてリョウタは走った。ラブホテルの前で、お姉さんが引っ張られている。  (嫌がってる…!助けなきゃ)  「ちょっと!」  男の腕を掴んでお姉さんを抱えた。  「嫌がってるじゃないですか」  「あぁん!?クソ餓鬼!なんのようだ」  物凄い酒の匂いに鼻を抑えた。お姉さんはリョウタにしがみつき、しくしく泣いている。  「このクソ女が約束を破るからだろ?!俺はすでに金を払ってる!」  「で、でも、」  「この女は有名な詐欺師だ。男から金を巻き上げる汚ねぇやつさ」  男が大きな財布から現金を見せると、お姉さんは少し動揺した。  (…男の人の言うことが本当なのか?)  訳がわからず固まっていると、首根っこを掴まれた。  「うわぁ!」  「お邪魔しましたー」  リョウタは引き摺られて見上げると、レンがいた。  「レンさん!おはようございます!」  「おはようじゃねぇわ。商売に首突っ込むな」  「商売…」  「そんなことより、叩き起こされてお前の捜索させられた俺に謝れ」  「え!?」  「さっき寝たばっかだぞ!くそったれ」  いつも以上に口悪く罵るレンに、ごめんなさい、と素直に謝る。大きな欠伸をして怠そうにケータイを取り出した。  「回収済みー。みんな寝ていいよー。とりあえずサキだけ残しといて。…あぁ。ボコる」  サキまで巻き添えにしてしまって、血の気が引いた。ビクビクしながら階段を降りてアジトに向かう。  カランコロン… 「リョウタ…」  「おぅサキ、ツラ貸せ」  珍しくレンがサキの頬を叩いた。  「お前の態度は何か?拗ねてんのかなんなのか知らんけど、病み上がりに優しい言葉一つかけられないのか」  「あ、レンさん。サキは声かけてくれたんだけど…アサヒさんが寝たタイミングと…」  「サトルから聞いた。笑ったし、可愛いとも思ったけど、いつまで引っ張ってんの。見ててイライラすんだけど」  レンはドカッとソファーに腰掛けて足を組んだ。寝不足でイライラしているのか、本当にサキにイライラしているのか分からなかった。  「すみませんでした。」  「あ!?形だけの謝罪はいらねーよ!お前アサヒさんに甘やかされてるからって調子乗んなよ」  いつもは止めてくれるサトルやハルがいるが、今はいない。廊下から少し明かりが見える。ハルと弘樹が様子を窺っているのが分かる。  「…レンさんに、関係ないっすよね」  「こーゆーとこだよ。なんで素直になれねーの。本当はリョウタが起きて、嬉しくてたまんねーくせに、何でそんな態度とって困らせるんだよ」  サキは黙ってしまった。リョウタは、もういいです、とレンに言うと急にレンに引き寄せられて激しいキスが降ってきた。  (え!?え!?なに!なに!?)  慌ててサキを見ると、目を見開いて固まっている。リョウタは慌てて抵抗するも、ソファーに押し倒される。  「レンさ…ン!ッ、まって、」  「やりすぎです!何やってんすか!」  「あ?いらないなら俺が貰うから。お前よりうまいし。」  服に手が入って、体が強張る。ぎゅっと目を瞑ってどうしたらいいか必死に考える。  「やめてください!俺のです!」  「なら大事にしろよ!!」  レンの怒鳴り声にリョウタはビックリして目を開けた。  「俺たちは、明日、もう二度と会えなくなるかもしれねぇんだぞ!あの時、ああすれば良かったって後悔してぇのか!?1秒でもリョウタがいらないと思ったのならさっさと別れちまえ!」  「っ!」  「もし本当にリョウタがいなくなったらどうすんだ!?後悔して役立たずになるんだろうが!」  (レンさん…)  「イライラするんだよ。お前の根拠のない余裕。いつまでも当たり前にそばにいると思うな。一瞬一瞬を大事にしろよ。」  「…ごめんなさい。」  「誰に謝ってんだよ。リョウタにだろ。相変わらずバカだな」  吐き捨てるように言って、レンはリョウタに悪かった、と笑って去って行った。  「サキ…」  サキは無言のまま抱きしめてきた。久しぶりに触れて嬉しくなる。  「リョウタ…リョウタ」  「いいよ。分かってくれたなら。」  サキの頭をポンポンと叩くと、リョウタの首筋にすりすりと顔を擦り付けた。  「ごめん、リョウタ。お前に甘えてた」  「ううん。俺も大人気なかった。」  「嬉しかったけど、それを出すのが恥ずかしくて…。リョウタが機嫌とってくれるのが、俺に必死なんだって思えて安心してた」  小さな声でぽつりぽつりと白状するサキ。  「リョウタが意識戻らない時、俺、必死だったから。リョウタもそうなのかなって確かめたくなった。ごめん」  「いーよ。」  リョウタはサキの薄い唇に触れて、舌を絡めた。  「ん…、居なくなって、弘樹とハルさんに言ったら、みんな起きてきちゃって…みんなにも怒られた…」  「そっか…」  キスしながら必死に伝えてくれるサキだが、リョウタは久しぶりのサキに興奮が止まらなかった。  (好きだ、サキが好き)  自白するサキに自分の熱を擦り付けてアピールする。今にも理性が飛びそうなリョウタはサキをソファーに押し倒して、サキのスウェットに手をかける。  「リョウタ…っぅあ!」  下着ごと下ろして、まだ反応していないサキのものを、喉が渇いた獣のように吸い付いた。突然のことに理解が追いついていないサキは抵抗もできずにリョウタを見るだけだった。  「んぅ…ん、っ、ん」  「は、はぁ…まって、リョウタ、ここじゃ、ダメだ」  「ん、ふっ、ん、」  サキはやっと理解が追いついて、場所を確認して必死にリョウタを止めようと頭を掴むも、吸い上げられてガクンと腰が跳ねる。サキも、リョウタが心配で溜まっていた分我慢が出来ない。  「リョウタ…リョウタっ、ダメだって」  「出して…」  「ここ、は、共有の…スペースだから…っ、また、っ、怒られる」  「サキ、出して」  リョウタが興奮した目をサキに見せると、サキはリョウタの髪をギュッと握って前屈みになった。  「ぅ…ッァア!!」  喉に注がれたサキの熱にゾクゾクした。こくんと飲み込んで口を開けると、サキの顔が真っ赤になった。  (あれ?固いままだ。足りなかった?)  また舌を伸ばそうとすると、サキが慌てて前を隠した。  「な、っ、な、」  真っ赤なまま、口をパクパクと動かして言葉が出ないサキを首を傾げて待つ。  「サキ…嫌?」  「いいい、嫌では、ないけど、っ、その」  「?」  言葉が続かないサキが不思議で、その間に脱いでおこうと服に手をかけると、またサキが止めた。  「?なに?シないの?俺がまんできない」  「〜〜〜っ!」  「サキ?」  股間を抑えながら必死に見つめてくるサキが可愛くて、服を脱いでソファーに上がる。  「おーい!!誰がここでヤれっつった!?」  レンの怒鳴り声に2人はビクッと跳ねた。  「お前らマジいい加減にしろよ!ここはアイリやユウヒも使うんだぞ!」  「「…ごめんなさい」」  「さぁ部屋に帰った帰った!こっちは処理しとくから、さっさと行きな」  「レンさん…」  「あ?」  サキが弱々しく呼んで、レンはタオルを持って何でもないように聞き返した。  「ありがとう」  「おう」  ぶっきらぼうだったが、サキはほっとしたように笑った。  「んー!サキ可愛い!早くシよ!」  「リョ、リョウタ!」  「くっくく!あははは!リョウタに手を焼いてやんの!」  「リョウタ、やめろ、くっつくな」  「やーだー。我慢したもん」  サキに引き摺られながら部屋に戻ったバカップルを見送って、レンは除菌やら消臭などをソファーにぶっかけた。  (どっちも必死だろ。大人ぶってんじゃねーよクソ餓鬼)  サキの態度を思い出して、苦笑いした。  リツの時と同じ態度。 もうお前は違う相手なんだぞ、と意識させたかった。  リョウタはリツと同じじゃない。だから今までのサキは通用しない。  リョウタはまだリツほど大人ではないからこそ、真正面からぶつかっていかないと、分かってもらえないことを教えたかった。  (お前が見てるのはリョウタだろ。しっかりしろ。そして、今度こそ幸せになってくれ)  レンはお節介な自分に笑って、消毒を終えた。  「レン、大丈夫だったか?」  「ハルさん、あいつらここでおっ始めようとしてたんすよ!?マジありえねーっ!」  「ははっ!それにしてもレン…まだ気にしてんのか?あいつらは大丈夫だ。」  レンは苦笑いして、ハルに抱きついた。  「サキには、幸せになってもらわないと。俺が、後悔で死にたくなる。自分の為だよ」  「お節介な兄貴だな」  「うるせぇ。繊細なんだよ、俺は。」  クスクス笑う、大人なハルにムカついた。背伸びし合って足が攣って、また助けてもらう。ここはそんな場所。  (理想の大人が多すぎんだよなぁ?サキ。お前には俺の気持ちが分かるだろ?)  気持ちが落ち着くまでハルに甘えた。リョウタの部屋から気持ち良さそうな声が聞こえて安心した。  (バカのくせに頭で考えるな。衝動のままに愛し合えばいいんだよ。)  リョウタの嬌声を聞きながら、ふふっと笑った。 

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