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第71話 弱音
「アイリ寝ようか」
「ん、お父さん、眠たい」
風呂上りのアサヒが、ソファーでうとうとしていたアイリを抱き上げた。すぐに甘えて来たアイリに笑って、ハルに挨拶をして2階に上がる。
「ミナト、アイリのとこあけて」
「うん。…どう落ち着いてた?」
「いーや?今日のリョウタみたら…まぁビビるだろ。」
アサヒの服を握って眠るアイリに毛布をかけると、ミナトが布団を2人にかけた。
「?ミナト、俺はまだ…」
「たまにはゆっくりしてよ。僕も、寝ちゃおうかな」
「おう。なら、寝よっかな。ユウヒは?」
「ヒロのとこ。ハルが叱った後から帰ってこないみたい。」
「ったく。ユウヒの奴、何しやがった。弘樹って温厚だよな?なのに病み上がりのリョウタに牙向かせるとか…」
アイリを挟む様にミナトも布団に入った。
「アサヒ、任務、どうする?」
「…やるしかないだろ。収入なくなるぞ」
「しばらくはお休み作ろうか」
「とか言ってお前らは動いてんだろ?全く…人に休め休め言うけどさぁ。ブラック企業みたいになってんじゃねーか。」
アサヒは呆れて目を閉じた。アイリのお腹をポンポンと叩きながらいい案はないか考える。
「俺、会社辞めようか?そしたらアイリも不安じゃなくなるだろ」
「…大丈夫なの?」
「まぁ…なんとかなるだろ。」
「同じ場所にずっといられないタイプのくせに。無理しないで。アサヒにはアサヒのペースがあるでしょ」
しかしなぁ…とアサヒは天井を見た。正直、アサヒは少し焦っていた。
力の差が全然縮まってなくて、サキの援護がなければ殺られていたかもしれない。
(くっそ…)
「アサヒ。」
「っ!」
「アサヒ、大丈夫?」
ミナトの優しい声に笑って頷いて返した。苦笑いするミナトに大丈夫だと、手を握った。
「ミナトー…ごめんな。俺が弱いから」
「何言ってんの。テンカさんが異常なんだよ」
「あー…。あのさ…俺、自信なくしちまってんだよな。正直…。」
苦笑いしてミナトに打ち明けると、何故か目を見開いて顔を赤くしている。
「ミ…ミナト?どした?」
「アサヒが…僕に…相談してくれた…」
「は?よくしてるだろ?」
「そうかな?ふふ」
「ぅおーい!俺は真剣に…」
毒気を抜かれるミナトの笑顔に、アサヒもつられた。
「アサヒが死ぬときは、一緒だよ」
「ミナト…そこは、死なないで、じゃないの?」
「だから、僕の荷物は降ろしてよ。勝手に着いていくから。」
「ミナト…」
「僕のために、じゃなくてさ、アイリとユウヒのために…仲間のために出来ることをやれば、あとは仲間が引き継ぐよ。」
ミナトはアサヒの頭を撫でた。
「いつも、お疲れ様」
「ミナト…」
「いつも見てるよ。アサヒの頑張り。ありがとう」
「っ、っ、くっそ、っ、病み上がりだから、っ、涙腺が…っ、」
ミナトはいつまでもいつまでも頭を撫でてくれた。
「アサヒ、僕らは大丈夫だよ。荷物分けて」
「っ、っ、ふっ、ぅ、っ」
腕で目元を隠して、歯を食いしばるアサヒ。悔しさが伝わって、スッキリするまで泣いてほしいとミナトはアサヒが眠るまで声をかけ続けた。
ーーガチャッ
少しの光が入って、アサヒは目を開けた。
逆光で見えないが、ユウヒが来たと思い、ミナトを起こしてアイリとの隙間をあけた。なかなか入って来ないユウヒが不思議で、身体を起こすと、立ったまま静かに泣いていた。
「ユウヒ…どうした?こっちへおいで」
アサヒが両手を広げると、勢いよく飛び込んできた。
「父さんっ、父さん」
「どうしたー?弘樹と仲直りしたか?」
コクコクと頷いていて安心した。大きくなった体を抱いて、こっち側にしようとアイリを寄せて、アサヒ側にユウヒを寝かせた。
「ユウヒ。大丈夫か?」
「ごめんなさいっ…恥ずかしいや。なんか…この4人で寝るの、久しぶりで…」
ミナトも起きている様だが寝たふりをしている。
「はは!俺、嬉しいっ!」
ユウヒは涙を拭いて満面の笑みを見せてくれた。寂しい思いをさせていたことに気づいて、強く抱きしめた。
「痛いよ父さん!この馬鹿力!」
「まだまだ細いなー」
「成長期だもん!父さん越してやるっ」
いーっ!と威嚇するユウヒが可愛すぎて笑うと、ユウヒもニコニコしていた。
「弘樹、大丈夫か?ハルにボコられてたろ。ブチギレてたぞ。」
「ハルさんが行かなきゃ父さん殺してたでしょ?」
「そんな元気ねぇよ。躾部屋で可愛がろうとは思ったけどな。ハルが弘樹の分まで頭下げてきたから…今回はハルに免じて許してやる。あとは、リョウタに謝れって言っといて」
うん、と笑うユウヒ。ご機嫌で我が息子ながらやっぱり可愛い。
「で?温厚な弘樹が、リョウタに向かった理由は?」
「う…。」
「やっぱりお前のせいかよ。」
「リョウタにキスしたのがバレちゃった。」
「バーカ」
アサヒもクスクス笑って、キスの代償こわぁ、と思っていると、ミナトを思い出した。
(うわ、そう言えばミナトも昔…)
「ヒロ、肋骨めっちゃ折れてて可哀想」
「1番可哀想はリョウタだろ。全く…巻き込むなよな。バカップルめ。あと、二度とハル怒らせるなよ。シンヤより遥かに強いからな」
ユウヒに言うと激しく頷いて、アサヒの胸に顔をつけた。
「父さん、元気になってくれて良かった。俺、頑張るよ。父さんよりも強くなってみせるから」
ユウヒの言葉に笑って頭を撫でた。
「頑張れよ。俺を継ぐのはお前だ」
そう言うと、顔を真っ赤にしてうん!と、うなずいた。
(荷物、分けてもいいよな?)
ユウヒの寝息が聞こえて、顔だけミナトの方へ向けると、目が合った。
「おやすみ、アサヒ」
ふにゃりと笑う顔をみて、同じように返した。
(よっし!!明日からまた気合い入れますか!もう不安になんかさせねー!)
大好きな人に囲まれながら、アサヒは久しぶりに爆睡した。
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