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第77話 失敗
(まさかまさか。)
レンは焦ったまま探し続けた。
(ウソだろ。本人がまだ生きてたか。)
聞き込みをしていると、最近変な奴らが活動を始めている事、そして、レンが変装していた稔がシマに入っていたことを知る。
(最悪。あのお嬢様との件で、消えたと思ったのに…しぶといな。)
情報操作のため、処理はしていたつもりだった。
(寝返ったか、金を積まれたか。そして、その処理の担当は死亡。)
レンが個別で雇っているメンバーも細かく探すとその事実が判明した。
(殺すよりも、口座を空にすべきだったな)
「アサヒさん、この間の銀行のビルです。稔という男が復讐のためかと。」
『お前しくじってたのか』
「はい!ごめんなさい!」
『…まぁいい。生きてたら給料減額で許してやる』
ブチンと切られた電話にホッとして力が抜けた。
「レン…」
「サトルー。俺がヘマしたぁ〜」
「だから処分は俺が、と言ったろ。個人で雇うな。管理できなくなるぞ」
「たしかに…。ウイとユイ以外は全員切ろうかな」
「そうしろ。たいした情報も持ってこない奴はレンの邪魔だ。」
サトルに甘えるレンの目付きは、冷たい目をしていた。
ひと通り甘えた後、サトルは任務に向かった。レンは部屋でミナトの指示を聞きながら、ぼんやりする。
(あぁ…俺のせいで可愛い2人が)
嫌だな、嫌だな。
俺のせいだ。
あの時、詰めが甘かった。
シマ荒らしするようなバカな奴だとは思えない。苦し紛れの策なのだろう。
嫌だな、嫌だな。
(俺さえいなければ。俺のせいだ。)
ザクッ
手の甲に突き刺したナイフを見て、どんどん気持ちが萎える。
(もう…疲れたな…)
インカムを外して、滲んでいく色を見つめる。
あまりミスをしないレンは、1つのミスに耐えられなかった。
片手で全員解雇と連絡を入れて、刺さったままのナイフを見る。
(抜いた方が、もっと染まる?)
コンコン
ガチャ
「レン、稔のことだけど…」
「っ!」
「な…に、してるの、レン…?」
ミナトの真っ青な顔に、しまった、と思った。この人が動揺してはいけない。動揺させてはいけない。アイリみたいに繊細で、誰よりも頭がキレるけど、とても脆いメンタル。
自分を頼ってくれてるのが分かる。きっと自分には心を開いてくれているのが分かる。だからこそ、この人に見られてはいけなかった。誰よりも今すぐに消えたいと思っている、この人に。
(あぁ、俺がインカムを外してたからか)
「レン!ねぇ!?何してるの!!」
(どうしよう、どうしよう)
パニックになるミナトを見つめることしかできない。だって抜いてしまったら余計に広がるのが分かってるから。
「サトル!すぐに戻って!!」
ミナトが泣き出してしまった。あぁ、アサヒさんに怒られる、なんてぼんやり考えていた。
ミナトは泣崩れて指示をしなくなった。ミナトが不安定の時には、代わりがいつもレンだったのに、今は代わることもできない。
(あぁ…俺は冷静でいなきゃいけないのに)
押し潰されそうな感情に、力が抜ける。目の前のこの人や、ここのボスなんかより背負っているものもないのに、耐えられない。
(俺は、なんてダメなやつなんだ)
自嘲しながら、インカムを取る。
「サトル、そのままリョウタ達を探して」
『おい!レン!ミナトはっ』
「アサヒさん…皆殺しでお願いします。尻拭い、すみません。ミナトさんも…すみません」
『…お前、後で躾部屋に来い。逃げんなよ。…サトル、ユウヒと動いてくれ。俺は1人でいい。サキ、そこで待機。』
アサヒが代わりに指示を飛ばしてくれた。
安心してインカムを置いて、ミナトに頭を下げた。
「ミナトさん…俺、」
「嫌だよ、レンッ!お願い、そんなこと、しないで」
「ごめんなさい」
「レン、ごめんね、ごめんね、」
レンのために泣き喚くこの人の方が消えそうだと思った。
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