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第80話 解放

いつもいつも。  リョウタが危険な時にそばにいない。  いつの間にか目の前から消えて、ボロボロになった姿を見ることになる。  瀕死とかではない。心を瀕死にされている。  鬱血も、あざも、切り傷も、真っ青な唇も、見慣れてしまいそうだった。  衰弱した裸のリョウタを見て、何も考えられなかった。ただ、言われたことを実行した。 後から来るんだ。  やっと理解して、やっと怒りを認識した時には、全て終わっている。終わらせたのは自分自身のはずなのに。 (俺だって、リョウタを繋いでおきたい)  首輪に手錠。完全に拘束されたリョウタを思い出してイライラが治らない。今すぐに抱き潰して、俺だけでいいんだと、そう叫んで欲しい。  「サキ!」  「ッ!?」  ビクッと肩が跳ねて、振り向くと、苦笑いしたアサヒがいた。気がつくとリビングにはサキとアサヒしかいなかった。 「ミナトさんは?」  「寝てるよ。だから今のうちに。」  アサヒは優しい顔で見つめてきて、サキは首を傾げる。  「よしよし。」  頭を撫でられて、キョトンとアサヒを見た。  「よく耐えた。悔しいだろ、許せないだろ。…それは、1番リョウタが感じてるはずだ。だから、お前は、リョウタが起きる前までにこの感情を処理して、リョウタが安心して身を任せるまで見守ってやれ」  アサヒは、サキの目元を指で拭った。  「…リョウタ、ずっとサキの名前、呼んでたらしい。心は、お前にある。」  「ぅ…っ、う、っ、」  「守ってやれ、支えてやれ。これは、お前にしか出来ないことだ。リョウタのペースに合わせるんだ。焦るな。…何度も言うが、心はお前にあるから。」  アサヒの優しさが余計にサキの喉を詰まらせた。ドス黒い独占欲に歯を食いしばる。  あの傷だらけの体も、笑顔も、全部俺のものだと叫びたかった。 「今回は体力をかなり消費している。そばについててやれ。お前の部屋に運んだから…お前ももう寝ろ。」 頭を撫でられて、ニコリと笑い、アサヒは二階へ上がっていった。  キィッ… 部屋に戻ると、リョウタが疲れ切って静かに寝息を立てる。弘樹と遊びに行ったと聞いて嬉しかったのに、こんな事になるなんて。  リョウタの青あざが残る手を取り、自分の頬に付ける。  「リョウタ、好きだよ」  何度も何度も伝えて、痛々しい手首にキスを送った。  ーーーー  「サキ」  声をかけられた気がして、はっと目を覚ました。 「リョウタ…?」  「ね、好きって言って」  リョウタはサキに馬乗りになっていた。  「リョウタ…」  「好きって、言ってよぉ…っ、っ」 暗闇に目が慣れてくると、泣きそうなリョウタが見つめていた。腕を引いて強く抱きしめて、好きだと言い続けた。  「サキ、嫌いにならないで」  「嫌いになるわけない」  「俺は、サキだけだよ」  「俺もだよ、リョウタ」  一生懸命伝えてくるリョウタに、先程の荒んだドス黒いものが消えていく。愛しくてたまらない。  「リョウタ、愛してる」  「サキ…」  リョウタがビックリして目を合わせてきた。恥ずかしくなってまたリョウタの頭を腕で抱えると、クスクスと笑い声がした。  「サキ。だーいすき」  「っ!」  顔が見たくなって、腕を緩めると、笑いながら涙が溢れていた。  「ほらー。顔見たくなるでしょ?」  「うん。可愛い」  「はっ?…か、可愛くないし。こんな」  「可愛いから仕方ない」 涙を拭ってやると、照れたように笑うリョウタにドキドキする。 「リョウタ、そばにいるから眠っていいよ」  「ん。じゃあキスして」  ゆっくり唇を重ねていくと、リョウタが舌を絡ませてきてそれに応える。リョウタがしたいことは全力で一緒にやりたい。  「サキッ、どうしよ…ッ、熱いッ」  まだ薬が抜けていないのか、熱に浮かされたようにぼんやりとした目だ。  「リョウタ、大丈夫か?」  「ふーっ、ふーっ、っ、っ、」  明らかにおかしい状態に、カズキを呼ぼうと起き上がると、勢いよく押し倒された。  「たす…けて、熱いっ、サキ、あつい」  汗をかき、火照った顔で苦しそうに求めてくる。固くなった熱を擦り付けてはガクンと腰が跳ねる。  (俺が、解放させる!!)  「サキ…ッ…んぅ!!」  リョウタの熱い身体を強く抱き寄せた。

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