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第85話 心の治療
「痛たたた…っ、あれ…?」
リョウタは腰の痛みに目を覚ました。
起きたらいつものベッド。
いつものサキの腕の中。
綺麗な顔から当たる寝息。
「あ…れ、なんで…」
パタパタと頬を濡らす涙を拭いながら、疑問を口にするも止まらない。
「あ…っはは、変なの。…恥ずかしい、止まらないや」
一人で呟いていると、強く抱きしめられた。
「っ!…サキ、ごめん。起こしちゃった」
「おかえり、リョウタ」
「へ…」
「おかえり。俺のリョウタ。」
リョウタは目をまん丸くしてサキを見つめた。どうした?と優しく微笑む顔がぼやける。
「サキ…怖い夢と、幸せな夢を見たんだ…」
「うん」
「サキが…いなくて。もう…会えないかもって!俺っ!っ!俺っ…!」
感情が爆発してサキにしがみつく。サキは何も言わずに頭を撫でてくれる。
「息ができなくてっ、辛かった…っ!」
リョウタはサキの服を噛んだ。サキの匂いに落ち着いてゆっくりと呼吸をする。
「でも…幸せな夢もあって…サキが愛してるって言ってくれたんだ…」
リョウタはサキの顔が見たくなって、涙を拭いて顔を上げた。驚くほど優しい顔をしたサキがいた。
「サキ、俺も愛してるよ」
リョウタは綺麗な目を見つめて、微笑んだ拍子にまた一つ雫が落ちた。蕩けそうなサキの笑顔につられてリョウタも笑った。
「今日は…サキとずっと一緒にいたい。」
「そうしよ」
「甘やかしてくれる?」
「今日は特別」
「明日も?」
「明日は気分次第」
「ふは!意地悪」
いつも通りなサキに安心する。でも、この蕩けそうな優しい顔にはドキドキする。サキが熱を冷ましてくれた。狂ったような凶暴な熱を受け止めてくれた。
(俺を助けてくれた)
気を抜くと、嬉しくて涙腺が緩む。へへっと笑って誤魔化してサキの胸に顔を擦り付けてまた涙を拭いた。
バクバクとうるさい心臓は、まだ体に残る薬の効果を感じて、あの辛い時間を思い出す。
あの空間に、人の尊厳はなかった。奴隷みたいに従っては意識を飛ばして、目を覚ますと代わりに弘樹が抱かれていた。自分が頑張らないと弘樹が辛くなると、必死に自分に目を向けさせていたが、突然限界が来た。心が死んでしまったような気がした。
ドッ…ドッ…ドッ…
「はぁ…は、っ…」
身体が熱くなって、歯を食いしばる。
「嫌だ…もぉ!最悪…っ。いつ終わるの」
「リョウタ…大丈夫だよ。俺に任せて」
「ふっ…ぅ、っ…っ…」
痛いほど勃ち上がって、目の前がぼやけてくる。落ちる瞬間が怖い。次に目を覚ましたら奴隷の時に逆戻りするのではないか。今が夢だったら?とパニックになる。
「はっ…はぅ、ぅ、怖い、よ、っ」
「リョウタ。俺の名前、呼んで」
「さき…っ、さきぃ」
サキの長い指が熱に絡んで、上下に動かされると何も考えられなくなる。ひたらすらサキの服を握って名前を呼び続ける。あの時と違って、何度も返事が聞こえる。中が欲しくて強請っても入れてはくれないけど、声は甘くて優しくて満足する。
(あ、っ、イく!!)
「アーーーー…ッ!!」
ドクドクとサキの手に吐き出して呼吸を整える。頬にサキの唇が当たって、ハムハムと甘噛みしてくるのが可愛くて笑う。
(サキ、これ好きなのかな。頬ばっか噛んでくる)
「気持ちよかった?」
「うん…。すぐ落ち着いた…ありがと」
「中は…腫れが治まってからにしよ。本当は痛いはずだよ…結構腫れてる」
「分かんない…痛くないよ?」
「だーめ。薬の効果が鈍くさせてるかもしれないだろ。」
首筋にチュッチュッとキスが降ってくる。幸せで胸がぽかぽかして温かい。
「サキ…俺、サキと会えてさ…こうして抱きしめてもらえて…幸せだよ」
「っ!」
「助けてくれて、ありがとう」
今度は力強く抱きしめられて、サキが耳元で悔しそうに話し始めた。
「殺しても…殺したりないって…初めて思った…。俺の…リョウタに触るなって。俺だって、リョウタを繋いでおきたいよ。…でも、俺はリョウタがのびのびしているのが、好きで…みんなに優しいのも…好きで、なのに、そんなリョウタを閉じ込めて、自分勝手に苦しめて…許せない」
「サキ…」
「リョウタ、お願いだから俺の目の前にいて。見えないところに行かないで。」
「分かった。もう見えないところに行かない」
サキの気持ちを聞けて、嬉しくて、クスクス笑うと、笑うなと怒られた。
(だって、嬉しくて仕方ないよ)
サキがリョウタのために怒ってくれた、リョウタの自然体が好きだと、そして
(見えるところにいて、ってさぁ…。やっばいなぁ…)
リョウタは熱い顔をサキの胸で隠した。
(なんか…サキの愛を感じる)
気が済むまでキスして、リョウタのお腹が鳴った頃にやっと二人は離れた。
クスクスと二人で笑い合って、抱きしめられて、リョウタの心は生き返った。
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