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第91話 組長の代わり

「へー!これが弘樹のお部屋?」  「そうみたい…アサヒさんのお部屋をいただいて…本当にいいのかな?」  目が覚めて、薬の効果がやっと落ち着いたリョウタと弘樹は新しい弘樹の部屋を見た。  小さな空間にベッドがあるだけだったが、弘樹は少し嬉しそうにもじもじしていた。  「サキ達が片付けしたんだって〜!良かったね、弘樹」  「うん。なんか、やっと認められたのかなって…」  顔が赤くなる弘樹に肩を組んでポンポンと叩く。えへへ、と明るい笑い声が返ってきた。 弘樹はポフンとベッドに腰掛けたが、何だか落ち着かない様子だった。 「弘樹?どうした?」  「寂しくなったらどうしよう…っ。ずっと組長のそばにいたから…」  「弘樹さぁ〜…ハルさん好きすぎない?」  「えっ?ダメなの?」  なんで?とキョトンとする弘樹に苦笑いする。カズキとハルの間にいて何も感じていないのがすごいとも思った。  「ダメじゃないけど…それ以上にユウヒを大事にしないと。」  「もちろんだよ!…組長と何か関係が?」  本当に無自覚な弘樹に呆れて、隣に腰掛ける。  「ユウヒが、ミナトさんばっかりに甘えてたらどう?」  「うっ…それは」  「ミナトさんと寝たい、ミナトさんのそばにいたいって言ってたら寂しくない?」  「…寂しいかも。」  「弘樹にとっては、ハルさんはお父さんみたいな感じなのも分かるけど、甘え過ぎ」  しゅん、と落ち込んでしまった弘樹の頭を撫でる。犬だったらしっぽがしょんぼりしていただろう。  「組長がいないと、不安なんだよ。組長のそばは絶対安全だし…だから、甘えてたかも。」  「うーん。でもたしかに急に親離れは可哀想だ。…そうだ!いいこと考えた!」  リョウタは弘樹の手を引いて、爆睡していたサキを無理矢理起こして二人を引っ張った。  「おう、お前らどっか行くのか?」  「ハルさん、ゲーセン行ってくる!」  「は?お前いい年して…」  「いってきまーす!」  カランコロンという音を背中で聞いて、慌ててお財布の中身を見る弘樹と、半分寝ているサキを引きずって中学校の前に来た。  「「ゲーセン、ここじゃないよ」」  弘樹と目が覚めたサキがハモる。  リョウタは、校舎の時計を見ていた。  キーンコーンカーンコーン  「鳴った!」  「「は?」」  「まだかなっ、ユウヒ」  「「ユウヒ?」」  下校する生徒たちが、ジロジロとこちらを見る。長身で全身黒ずくめのサキと、金髪の弘樹、そしてキラキラした目で学校を見つめるリョウタは目立ちすぎだ。  「あ!ユウヒ!」  「ゲ!!何してんの!」  ユウヒに大きく手を振ると、ユウヒは嫌そうに顔を歪めた。  「校門に変な人がいるって話題になってたんだぞ!サキ兄とヒロは目立つから来んなよ」  「なんだよ、前は送ってやってたのに」  「揃うとやべぇ奴に見えんだよ!」  ユウヒは恥ずかしそうに怒鳴って、行こうぜと前を歩く。  「ユウヒ、どこ行くの?」  「あ?家に…」  「ちがうよ!これからゲーセンに行くぞ!」  「はぁー!?校則違反なんですけどぉ?!」  関係ない、と言ってユウヒを引きずる。サキと弘樹は呆れてついてきた。  ーーーー  「ゲーセンて…うるさいな…。」  「サキ兄、俺ら外で待っていようよ。」  「そうするか。」  サキはユウヒと外で待ち、弘樹とリョウタは中に入った。 「初めて来た…。わぁ!楽しそう!」  弘樹はテンションが上がって、誰よりもワクワクしていた。リョウタは嬉しそうに笑って、UFOキャッチャーの前に立った。  「弘樹、どれが好き?」  「えーっと、この、ホワイトタイガーが好き!カッコイイのに優しそう…!なんか組長みたいだ!」  大きめのぬいぐるみを見て、目を輝かせている。リョウタはニヤリと笑って、コインを入れた。  (実は俺、得意なんだよね〜これ。)  ガコンと音を立てて落ちてきたホワイトタイガーに弘樹は大騒ぎだった。  「すごい!!リョウちゃんすごい!」  「えへへ〜」  「うわぁ〜もふもふ!」  「ベッドで寂しかったらこれでも抱っこしたらいいよ」  意図が分かったのか、弘樹の目が潤む。  「リョウちゃぁあああん!大好きーっ!」 「あっははは!可愛いーっ!」  ご機嫌になった弘樹は、あれも欲しい、これも欲しいと何度も指差し、荷物だけが増えていった。  「バカかお前ら。断捨離にどれだけの時間がかかったと思ってんだ」  「「すみません」」  「で?ヒロは1ヶ月分のお小遣いをこれに変えたのかー?呆れる。」  サキとユウヒに怒られた二人はしょんぼりしながら家路に着く。たくさんのぬいぐるみだらけになった弘樹の部屋に、アサヒは爆笑していた。  「年頃の男がファンシーだな!ぶぁっははは!似合わねーっ!」  「もうアサヒさんやめてくださいよ!」  「いいなぁ、アイリも欲しい」  「本当っ?よーし、アイリちゃん、好きなの持っていって!」  わーい、と喜んで真っ先にホワイトタイガーに向かったアイリからサッとホワイトタイガーを持ち上げる。  「ヒロ君?」  「あっ…えっと、これ以外から選んでもらっていい?」  「えー!これが一番大きいのにーっ!」  アイリが騒ぐと弘樹は困った顔をしてユウヒを見た。事情を聞いていたユウヒはため息を吐いた。  「アイリ!こんなでっかいのどこに置くんだよ!これ置くならお前は床で寝ろ」  「ひどーい!」  「ほら!ウサギがあるだろ!これにしろ!統一感って言葉知らないのかよ」  「わぁっ!可愛い!!」  すぐに興味が移ったアイリに弘樹はホッとしてユウヒに投げキッスを送ると、べしっと避けられた。  リョウタはそれをクスクス笑ってみていたが、後ろから急に引き摺られた。  「わぁ!?なんなのサキ!」  部屋に連行されて、鍵をかけたと思ったらドアに押しつけられた。  「リョウタ、デートしたい」  「デ、デート!?」  「今日、制服でデートしてるカップルを見たんだ。ユウヒの先輩だって。…俺もしたい」  「な、何すんのデートって。」  「したことないのか?」  「は、はぁ?ありますしー!」  苦し紛れに反論した瞬間、サキがニヤリと笑った。  「へー?俺はしたことないから、リョウタがプラン作ってよ」  「はっ!?行きたいって言ったのはサキでしょ!?」  「あー楽しみだなぁ〜」  ご機嫌なサキが可愛くて絆されそうになる。  (デートって、何すんのさ。お金も彼女もなしの俺がデートなんかしたことあるわけないだろ!!)  分かってよ、と睨みつけるも楽しみだな、と目を合わせて言われると、顔を赤くして頷くことしか出来なかった。

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