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第93話 待ち合わせ
「はぁっ…はぁっ…」
リョウタは駅の階段を駆け上がる。設定した時間の5分前。たぶんサキは遅れてくるけど早めに着いておきたかった。
「わ、人がいっぱいだ…」
地上に着くと、駅前の木陰に人集りができていた。その中心を見てリョウタは目を見開いた。
(サキ…?だよね!?)
黒ずくめのボサボサ頭を想像していたリョウタは、爽やかな好青年への変貌に思わず見惚れていた。
(えっ、え!?かっこよすぎない?!)
通行人にぶつかって謝り、我に返る。近づいていくと、リョウタを見つけたサキが笑う。
「リョウタ」
「キャー!」
周りの歓声に、サキはビクッと跳ねた。その時初めて周りの女性達に気付いたのか、一気に挙動不審になった。美人オーラが少し弱まった瞬間に女性達に囲まれてしまった。
「お兄さん、待ち合わせですかぁ?」
「あ、えっ、と」
「私たちとお茶しませんか?」
「あの、ちょっと、すみません」
困惑したサキが、サングラスを取ると更に歓声が上がって大変なことになった。リョウタは人集りを抜けてサキの手を取った。
「ごめんね皆!」
リョウタが引っ張って走り、サキを連れ去った。
「ま、待って、リョウタっ、」
しばらく走っていると、普段走らないサキの足がもつれはじめ、止まるとしゃがみ込んでしまった。
せっかくあげた前髪が、走ったせいでいつも通りになりそうだった。
「あー…何だよあの人達。ビックリした」
サキは、だから外は嫌いだと不機嫌になりはじめた。リョウタは苦笑いしてサキのとなりにしゃがんだ。
「今日のサキ、とってもカッコイイ」
「えっ?」
「やだな。こんなカッコイイサキ…誰にも見せたくない」
正直に言って、下を向くとサキに肩を組まれる。
「リョウタ、俺、カッコイイ?」
「うん。かっこよすぎるよ、バカ」
「リョウタのタイプ?」
「うん。いつものサキも好きだし…こんなサキ初めて見たから…なんか、恥ずかしい」
サキを見上げると、幸せそうに笑ってるから心臓がうるさい。
「俺、楽しみだった。早くリョウタに会いたくて」
「朝も会ったじゃん」
「待ち合わせってドキドキするんだな」
サキが史上最高にデレていて、リョウタは恥ずかしくてたまらなかった。
「リョウタ、ありがとう。俺のわがままに付き合ってくれて。」
「や、もう、本当やめて」
「何か嫌だった?」
覗きこんでくる顔は少し不安そうだ。
「サキが素直だから…ちょっと照れただけ!ね、一緒に行きたいカフェがあるんだけど、行ってくれる?」
「っ!もちろん」
花が咲いたように笑うサキに、リョウタはいちいち心が跳ねる。
(サキってば…こんな表情豊かだったの)
サキは勢いよく立ち上がると、リョウタに手を伸ばした。
「ん」
「〜〜〜っ!」
「どうした?顔真っ赤だぞ」
「もうっ!うるさいな!ほら行くよ!」
伸ばされた手を勢いよく握って先導する。大人しくついてくるサキを不思議に思って振り返ると、優しい目とかち合う。
「なんか、楽しい」
「はっ!?…も、もう!サキのデレこわい」
「??」
リョウタはとにかく前だけを見て目的地を目指した。
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