94 / 191
第94話 カフェ
「ここはね、弘樹とよく行くカフェなんだ!ほら、あそこの銀行あるでしょ?上は火事で燃えちゃって真っ黒だけど、あそこの銀行強盗を捕まえるために真っ白になったの!」
リョウタはサキに、オススメのシナモンロールとブラックコーヒーを渡すと、楽しそうに話し始めた。
サキは、リョウタ達が監禁されていた場所の近くで少し焦ったが本人は気づいていないようだったからそのまま微笑んで話を聞いた。
リョウタは大好きだというシナモンロールを5個頼み、サキには1つを買ってくれた。
(甘…。さすがリョウタ。)
サキは少しずつ食べてはブラックコーヒーで流し込んだ。
「あの、お兄さん。」
急に声をかけられて、リョウタが口いっぱいにシナモンロールを詰め込んで振り返ると、カフェの店員さんが笑っていた。
「前もこちらに来てくれましたよね?私が作ったんです。お味はどうですか?」
「っ!お姉さんが…!すっごく美味しいです!俺、ここのシナモンロールが大好きで!また来ちゃいました!」
「本当ですか?嬉しいです!実は新作があって…。良かったら召し上がってくれませんか?」
お姉さんは感想を聞きたいと、小さなカップケーキを渡した。
(リョウタにだけ?この人俺見えてないのかな?)
「わぁ〜!美味しそうだし可愛い!」
「うふふっ!わんちゃんをイメージしました!」
「あ!分かった!トイプードルですか?」
「正解です!良かった、分かってもらえて」
(……。つまんな。)
サキはシナモンロールを丸呑みして、ブラックコーヒーを一気飲みした。
さっきまで、サキの表情に敏感だったリョウタはもうカップケーキに夢中だ。
もともと食べ物には目がないリョウタ。
そんなところも可愛いけど、餌付けしたくなるというハルの言葉も思い出した。
(胃袋からリョウタを捕まえるつもりか!)
ギロリと睨むも、お姉さんはにこりと微笑むだけ。
「うっまぁあああ…お姉さん!これ最高!」
「うふふっ!本当に美味しそうに食べてくれますよね、嬉しいです」
「俺も新作食べれて嬉しいです!あ〜幸せ〜」
リョウタが頬を手で押さえてにこりと笑うと、お姉さんの顔が赤くなった。
「あの…、良かったらお名前きいてもいいですか?」
「俺ですか?リョウタです!」
「リョウタさん。また新作できたら食べて欲しくて、これ、私の連絡先です。リョウタさんのも教えていただけますか?」
「うん!いいよ!えっと…」
ケータイを取り出そうとしたリョウタの手を掴み、ギリギリと握る。
「痛っ…」
「すまないお姉さん。リョウタは今ケータイ壊れてて。」
「あ…そうですか。なら、直ったらご連絡ください。」
ぺこりと頭を下げて去っていったお姉さんを見送って力を緩める。
「痛いよ!何すんだよ!ケータイ壊れてないし!」
「デート中に逆ナンされたあげく、彼氏の前で女と連絡先交換か?」
「え…?逆…なん?」
「もういい。帰る。」
「は?!ちょっと!待ってよサキ!」
とぼけた顔さえムカついて、嫉妬が治らない。楽しみにしてたのに、気分がどんどん落ち込んで、張り切った自分も恥ずかしくてバカらしくなってきた。
「サキ!ごめんって!待ってよ!」
「俺は!…俺は、楽しみにしてたんだ…」
感情の当たりどころがやっぱりリョウタしかなくて、人が少ない公園で立ち止まった。
「俺だって…楽しみにしてたよ!嫌な思いさせてごめん。怒んないでよ。サキとまだ一緒にいたいよ。」
後ろからハグされると、スッと苛立ちが消えた。
「サキ、ごめん。俺はサキだけだよ?」
お腹に回った手を握って、指を絡める。
「俺もごめん。」
「ううん。まだサキと行きたいところあるから、一緒に行こ?」
「うん」
リョウタの上目遣いを見て、簡単に機嫌が良くなる自分に少し苛立った。
(ガキみたいに拗ねて…ださいな)
安心したように笑うリョウタにも申し訳なく思って、誤魔化すために頭を撫でた。
ともだちにシェアしよう!