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第95話 定番
「定番のコースだな」
「定番もいいでしょー?」
ゆっくりと空へ向かう空間。
広い景色が広がる。
外を見つめるサキの横顔が夕日で照らされる。
(綺麗…)
サキの整った顔が、よく分かる。瞳がこちらに動くと息が止まりそうなほどうっとりする。
(やだな…2人きりになったから意識しちゃう)
「き…綺麗じゃない!?あ、サキ高いところ大丈夫?」
「アホか。任務ではほとんどビルの上とか際どいとこで何時間も待機してんだよ」
「そっ…か。そうだよね」
「ただ…こうしてゆっくり景色を見ることはないから…新鮮だよ。」
サキは外を見ながら興味深そうだった。あそこに海が見えるとか、着ぐるみのスタッフが休んでるとか、見つけてはふわりと笑った。
「普段は一点しか見てないから…面白いな」
観覧車はゆっくりと上に上がる。サキの興味はいつまでも外の世界だった。
(サキ、こっち見て)
リョウタはサキの手を引いた。
少し、観覧車が揺れる。
「リョウ…ッ」
サキの唇は薄くて気持ちいい。舌を絡めると驚いたように両肩を掴まれる。
「ンッ…っ、リョウタっ、」
「サキ…っ、サキ」
強く離された後、しばらく無言で見つめ合う。
「リョウタ…」
サキは目を見開いた後、強く抱きしめてきた。
「お前…なんつー顔してんだよ。こんなところで…そんな顔するなよ」
「顔…?」
自分の顔を触ってみてもよくわからない。
「リョウタ、この後は?」
「ご飯食べに…」
「ごめん。ご飯は後でいい?」
「え?お腹すいてない?」
「煽っといてとぼけんなよ。」
サキは腰を擦り付けてきた。固い熱にリョウタはもっと強く抱きついた。
「ん。俺もサキが欲しい」
「降りたらすぐ行くぞ」
「うん。」
その後は2人して無言で日が沈んだ景色を眺めた。繋いだ手が熱いままで、早く地上に着かないかとそわそわした。
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