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第97話 格下
夜になると涼しくなってきた。
2人でホテルを出て、ゆっくりと歩く。リョウタはあくびを噛み殺した。
「リョウタ、大丈夫?」
「え…?あはは、大丈夫だよ」
あの後、休憩時間ギリギリまで激しく抱かれて、リョウタは足に力を入れないと腰が抜けそうだった。
サキは心配そうにリョウタの頭を撫でては、また切なそうな顔をした。
「サキ…お腹すいた」
「うーん。開いてる店あるかな」
「お腹すいたし、座りたい」
サキは立ち止まってリョウタを見て眉を下げた。
「おんぶしよっか?」
「嫌だよ。目立つじゃん。」
「じゃー…お姫様だっこ?」
「話聞いてた?」
リョウタは呆れてクスクス笑った。
(サキといると、やっぱり落ち着く)
サキは愛おしそうにこちらを見てくるし、きっと自分もそんな顔してるんだろうな、と思うと恥ずかしくなった。
「手、繋いでほしいな」
「うん」
手が包まれた時、ギュッと痛いほど握られて顔を顰めた。文句を言おうと見上げると、目を見開いて固まるサキ。
その視線の先には、見覚えのあるあの人。
「へぇ〜…新しい特攻とラブラブじゃん」
「リツ…さん。」
路地で座り込んでいたその人はゆっくり立ち上がって歩道に来た。街灯に照らされたリツにリョウタは息を飲んだ。
(血塗れ…っ、返り血?…いや、ちがう)
「リツさん…なんで…そんな、」
「あ?これ?…まぁほっとけば止まるよ。誰かさんが撃った腕が使い物にならなくなったから…。」
ははは、と笑ってぐらりと傾くリツを、サキはリョウタの手を離して抱きとめた。
「リツさん!しっかりして!リツさん!」
「サキ…」
「リョウタ、カズキさん呼んで!」
「え、あ…うん」
電話をかけようとしたとき、リツはゆっくりとリョウタに向けて手を伸ばした。
「いい。やめて。」
「でも!リツさん…っ!リョウタ、電話!」
「こんな姿…こんな…情けない姿、アサヒさんに見られたくない。」
「っ!」
あからさまにショックを受けたサキの顔。リョウタはその顔を見た瞬間、身体が冷えていく気がした。
(あぁ…そっか。俺はリツさんより下だ)
早くしろと叫ぶサキと、やめてと言うリツの言葉。どうしたらいいか分からないまま、リョウタは立ち尽くした。
「おーい…バカサキ」
パニックになるサキに、リツは笑いながらサキのオデコを弾いた。
「痛!何すんだよ!俺はリツさんを心配して!」
「今の彼氏を泣かせんな。」
「え…」
サキが勢いよくこちらを見た。
リョウタも驚いて頬を触る。
(あれ、俺…なんで…)
「相変わらずガキだな、変わってない。まっすぐで一つのことしか見えない。」
「俺は…」
「嘘。かっこよくなった。勿体ないこと、したかな…?」
リツはふわりと笑うと意識を失った。
そこからは、全く覚えていない。
サキは自分でレンに連絡して闇医者にリツを預けたそうだ。リツに遭遇したことは、レンとサキとリョウタだけの秘密にしろとレンに言われた気がする。
帰宅しても、リョウタは何も考えられなくて、あの人の聡いところや大人っぽいところにはとてもじゃないけど勝てないと思った。
必死に機嫌を取ってくるサキにも泣きそうになって、得意な笑顔も出せなくて、ただひたすらに日々を耐えた。もともと発散の仕方が分からない。だから、耐えるしかなかった。
内側のモヤモヤが治まるのをひたすら待った。
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