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第98話 爆発
あれからサキは昼に出かけるようになった。何処へ、なんか分かってる。分かってるから聞けなかった。裏切ったはずの人を、仲間のように心配して、闇医者のところへ通うサキに、リョウタの心は真っ黒になっていった。
「危ない!リョウちゃん!!」
「っ!!?」
訓練中だったことを思い出してハッと顔を上げると、弘樹が咄嗟に壁を殴って、リョウタへの攻撃をズラしてくれた。弘樹のドアップは焦った様子から怒りに変わった。
パンッ!!
「痛…っ…」
「リョウちゃん!集中してよ!」
「ごめん…」
「…っ!サトルさん!今日はやめましょう」
「そうだな」
サトルもそのつもりだったのか、片付けを始めていた。
「リョウタ、今のお前なら即死だ」
「…はい」
「はい、じゃない。いいか、特攻のお前が潰れたら作戦に響く。アイリがやっと日常に戻りつつあるのに、アサヒさんを現場に出すつもりか」
「…いえ…」
弘樹も心配そうに見ているが、リョウタの中で、このモヤモヤがまだ言語化できる状態じゃなかった。この空気を耐えるために黙るしかなかった。
ーーーー
「ごちそうさまでした」
「はっ?リョウタ?どした?全然食ってねーじゃねぇか」
食卓で挨拶をすると、全員がこちらを見た。
「えっと…お腹の調子が悪くて」
「そうなの?医務室へ行こうか」
「あ!じゃなくて…えっと…ね、眠くて」
「ならラップしておくから明日…」
「え!?えっと、傷んじゃうかもしれないので、皆さんで食べてください。」
「1日で傷むわけないだろ」
「はは…そうですよね。」
笑えなくて、何言っても逃してもらえなくて、心配そうなみんなの視線も、サキの顔も全てが嫌になった。
「リョウタ、座れよ。どうした?」
「いや…俺、もう本当眠くて…」
ハルの優しい声に、なんとか明るい声で言う。
「リョウちゃん?」
心配そうなアイリには申し訳ないと思う。
「どーしたんだよリョウタ」
ぶっきらぼうだけど心配しているのが伝わるユウヒの声。
「リョウちゃん…ここの所ずっと変で…」
泣きそうな弘樹の声。
「リョウタ、どうかしたのか?」
大好きな声に、こんなに殺意がわく日が来るとは思わなかった。
ガシャン!!!
リョウタは自分のグラスをテーブルに叩きつけた。ガラスの破片を握りしめて、ギロリとサキを睨みつけた。
「お前の…顔が見たくねーんだよ!!!」
「へ…?」
「俺、特攻からおります。今までお世話になりました。」
「はっ!?おい!リョウタ!」
アサヒの声を振り払い、血を流したまま、カランコロンとドアを鳴らして外へ出た。
もうここにいたくなかった。
行き場所なんかない。でも、あそこにいたら、俺はもう耐えられないと思った。
サキと待ち合わせた駅前も、カフェも、遊園地の観覧車も、ホテルも、全てが憎たらしく感じた。あまりにも幸せだった。だから、余計に辛かった。
(俺は、あの人には敵わない。絶対に)
サキが心を許す存在。
くだけた話し方、温度感、サキの態度が、どれもリツには追いつけないと思い知らされた。
(じゃあ俺に向けたあの愛おしそうな顔は何!?温かい手は!?あんなに抱いたくせに!結局はリツさんの代わりかよ!!)
考えたくないところに辿り着いて、歩くのをやめた。立ちすくんで、リツが倒れた場所を見た。
(俺の手を放して、リツさんを抱きしめてた。これが答え。瀕死だからとか、じゃない。あれは、反射。サキは無意識にリツさんを求めてる。今は…リツさんがそばにいないから、似ている俺。でも、実際2人いたら選ぶのは…)
リョウタは、ふふっと笑った。
今までの自分が恥ずかしくなった。
(ここは、思い出がありすぎて…)
アサヒのシマを出てどこか遠くに行こうと一歩踏み出した。
(バイバイ、みんな。)
リョウタは涙を拭って前を見た。
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