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第99話 天秤
「リョウタ!」
出て行ったリョウタを追おうと立ち上がると、アサヒがサキを掴んだ。
「お前はここにいろ。」
「なんで!俺…」
「聞いてなかったのか?お前の顔見たくねーんだってよ。」
アサヒはレンを睨んだ。
「お前ら2人はアイリとミナトと一緒にここにいろ。あとは全員リョウタを探せ」
その声に全員が動いた。
残されたレンとサキは何故残されたのかを察して下を向いた。
「レン、話して」
ミナトはレンに尋ねた。その圧は凄まじくてサキもレンも冷や汗をかいた。アイリは心配そうにこちらを見たが、リョウちゃんいなくなっちゃうの?と泣き始めた。
「アイリ、僕にくっついてて。」
「うんっ…っ、」
アイリはミナトに抱きついたまま、2人の話を聞くようだ。
「レン」
「……」
レンがミナトの圧でも言わないのは、サキのためだった。サキはそれを察して口を開こうとするも、レンが足を叩いて止めさせた。
それを、ミナトが見逃すわけがなかった。
「じゃあ、サキに質問。リツは元気?」
「っ!」
「ハルから聞いたことがある。レンは、リツが裏切る情報を流したことで、サキとリツの仲を引き裂いたことを後悔してるって。」
「レン…さん?そうなの?」
サキはレンを見るも、レンの表情は変わらずだ。
「レンにとって、サキとリツは大事だったのも分かるよ。」
「俺はサキに幸せになってほしい。それだけです。」
レンは真っ直ぐミナトを見て答えた。するとアイリは泣きながらレンに返した。
「じゃあリョウちゃんはっ!?リョウちゃんも大切な家族だよ!?」
「アイリ、落ち着いて。」
「私は!サキ兄ちゃんが、リョウちゃんのこと好きって言ったから諦めたのに!どうしてリョウちゃんを怒らせてばっかりなの!?」
アイリは本気で怒っていた。
リョウタを想って2人を叱った。ミナトが撫でて、足の上にアイリを乗せて抱きしめた。
「ありがとう。アイリ。リョウタのために怒ってくれて。」
「リョウちゃんが戻って来なかったら、2人のこと一生許さないから」
アイリが涙目で2人を睨むと、うっ、と固まった。
「…他の組から、リツが抜けたと聞いたよ。消される寸前で半分以上の仲間を殺してうちのシマあたりに来ているはずだってね。手負いのはずなのに、見つからない。不思議だね」
「俺たちは何も」
レンがそう言った瞬間、レンの後ろで引き金を引く音が聞こえた。
「続けろ。俺たちは何も、なんだ」
アサヒの声が冷たい響きで2人はガタガタ震えた。
「俺は、家族を守る義務がある。裏切るなら今ここで殺す。お前たちがやってることは、そう言うことだ。どっちが大事か天秤にかけろ。リツが大事だと言うなら、ここで頭を飛ばす」
目の前のミナトは無表情のまま、アイリの目を手で隠していた。
「闇医者のところに、送りました。」
「サキ…」
「血塗れで、瀕死の状態でした。すぐにレンさんに連絡して、闇医者に繋いでもらいました。俺のわがままです。リツさんは…まだ意識はありません。」
サキは、静かに話し始めた。震える声にレンがサキの背中を撫でた。
「黙っていてすみません。やっぱり俺、あの人が…死ぬのは見たくなくて…それで、毎日通ってました。心配で、たまらないんです」
「そんなことはどうでもいい。ミナト、すぐ連絡しろ。」
「うん。」
「そんなっ…」
サキは慌てて立ち上がると、アサヒに殴られた。目の前が見えないまま、衝撃だけが次々に襲う。
「お父さんやめてよぉおお!!」
「アサヒッ落ち着いて!」
「アサヒさん!!」
3人の声は届かずにアサヒは止まらなかった。ミナトが慌ててアイリを気絶させて、サキの意識が無くなった後、アサヒはレンを睨みつけた。
「お前が付いていながら何やってんだ!!」
「すみません…」
「あいつは、どこに行っても裏切ってばかりだ!そんな奴をなぜ庇う!?リョウタが出て行った理由もこれだろうが!!!!」
ミナトが止めようとアサヒを抱きしめるが、瞳が紅いままだ。
「サキの幸せが、あいつしか叶えられないなら、何故あいつはここを出た!?おかしいだろ!」
「すみません」
「リョウタの気持ち考えたのかよ!お前ら2人とも!!!いつまで過去に固執してんだ!お前らを捨てたのはあいつだろ!!」
レンはまたすみません、と言って涙を流した。さっさと連れ戻せと頭を殴られて、急いで外に出た。
(リョウタ、ごめん。お前の気持ちまで、思考がいかなかった。俺の後悔ばかりが…)
レンは頭を掻きむしって走り出した。
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