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第101話 説得
「ここからは他の組のシマだ。死にたいのか」
「っ!?…ハルさん…」
ハルは一番遠い所にヤマをはってシマの境界線で待っていた。
しばらくして、見慣れた姿が見えた。
いつも笑顔のリョウタが、涙を流して歩き、突然立ち止まった。
(お前…何をそんなに我慢してんだよ!どうして俺に相談しないんだ!)
一歩踏み出そうとした時、涙を拭って歩き出した足取りが先ほどと違っていた。ズンズン歩き、境界を跨ごうとしたところで、引き戻した。
ボカン!!
「痛ぁ!!」
思いっきり頭を叩く。ギロリと睨んでくる目は、泣き腫らしていて痛々しかった。
強く抱きしめて、消えないように、逃げないように腕の中に閉じ込めた。
「なんで俺に相談しないんだ!」
「だっ…て」
「いつも話してくれてただろ!?信用なくなることしたのか?それなら言ってくれよ!」
「ちがうよ、ちがう」
「俺には助けてって言えよ!話だって聞くし!大人だからアドバイスもできる!どうして一人で抱え込むんだ!」
怒鳴ると、リョウタの声が震えて、嗚咽が聞こえた。
「おれ…っ、もう、っ、ぐちゃぐちゃで」
「うん」
「おれは、っ、さきの、いちばんに、なれない、でも、おれは、さきがすき、で、でも、さきは、っ、さきは、りつさん、じゃないと、だめだから、おれ、もう、っ、たえられなくて、っ、くるしくて、まいにち、そばに、いなくて、おれ、」
(リツ?今更なんであいつの名前が…?)
「やさしくて、おとなで、さきのこと、なんでもしってて、つよい、りつさんには、かてないっ、おれじゃ、だめだから、だから」
もう抜けたい、離れたい、リツのような特攻になれない、サキはリツが好きなんだと泣きじゃくっていた。ここまで泣きじゃくるリョウタは初めてで背中を撫でた。
「あのさ、サキのことばっかり言ってるけど、俺にはリョウタが必要だから、そばにいてくれない?」
「…っ、っ、へ?」
「特攻、やめればいいよ。俺と一緒に食事係になれ。正直大変なんだぞ。特攻とちがって毎日だし、昼の活動になるけど、買い出しも料理も片付けもやってもらう。」
「へ?へ?」
「特攻は弘樹がいるだろ。だから、リョウタは俺の側近。これなら安心だろ。」
「あ…うん?…そっ…か…な??」
リョウタは意味が分かってないようだったが構わず話を進めた。理由なんて適当でいい、連れ戻すのが目的だ。とにかくリョウタが嫌だと言うものを徹底的に話で潰した。
「でも、さきに、あいたくない」
「じゃあそうしてもらう。だからさ、リョウタ。俺たちのために、戻ってくれないか?お前への話は全部俺を通してからにするから。」
「ハルさん、迷惑じゃない?」
「は?大好きなお前がいてくれるなら、なんだってするわ」
頭を撫でて、ニッと笑うとリョウタの涙腺が決壊した。
アサヒに連絡してもいいかと聞くと、リョウタは小さくコクンと頷いた。逃げないように抱きしめたまま電話をかけた。
『ハル、どうした?』
「今日からリョウタは食事係で俺の部下にしますんで。そのつもりで。」
『ははっ!あまりこき使いすぎんなよ』
「いやぁー働いてもらいますよ。働かざる者食うべからずです。」
胸の中のリョウタは少し笑ってくれた。それに頭を撫でて応えた。
『またカズキが嫉妬するな?』
「させときます。」
『ハル、よくやった。ありがとう。詳しくは戻ってから話す。カズキは先に戻すから、お前はゆっくり散歩してから戻れ』
「わかりました」
電話を切ると、不安そうに見つめるリョウタ。
「食事係でいいってさ。まずは、お前の手の止血からやるか」
ハルはリョウタの手を取ると、リョウタは驚いたようだった。辛さや悲しみしかなかったのか、止まっていない血に唖然としていた。
「リョータぁああ!」
「うわぁ!」
後ろからユウヒが突進してきてリョウタはそのままベシャリと地面に落ちた。
「コォラ!ユウヒ!」
「おい!バーカ!心配したんだぞ!!!」
「ご、ごめん」
「マラソン大会くらい走ったんだぞ!!」
「おー?じゃ、3キロくらいか。」
ハルが少ないと指摘すると慌てていた。リョウタはそんなやりとりを見てごめんと笑った。
「お…まえ!」
「え、わ、ユウヒ、泣かないでよっ!」
「いなくなると、思ったじゃねーかっ!バカ!リョウタのバカ!バカ!ばかぁ…っ!」
リョウタはユウヒの涙に慌てて駆け寄って抱きしめた。わんわん泣くユウヒにあたふたしているリョウタは、自分の傷が癒えていないのに、やっぱり人の心配をしていた。
(全く…こんな奴を泣かせやがって)
ハルは先ほどアサヒが言った、カズキを先に戻す、の意味が分かっていた。恐らくサキはボコボコにされたのだろう。ただでさえ、リツが絡むとアサヒの機嫌が悪くなる。
(何があったか知らねーが、毎度全員を巻き込むんだよな、こいつら)
苦笑いをした後に、サトルと弘樹にもメールを送った。そして弘樹には、リョウタと部屋を変わるように伝えた。サトルからは、レンが絡んでいた、申し訳ないとの返信と、ありがとうございますと続けられた。
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