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第102話 不安定
カランコロン
「あ…えっと、戻ってきました。…取り乱して、心配かけてすみませんでした。」
「リョウちゃん!リョウちゃん!おかえりなさいっ!アイリ嬉しいっ!!」
リョウタが気まずいまま戻ると、アイリが飛び込んできた。泣きながらリョウちゃん、リョウちゃんと泣くアイリを抱きしめて、嬉しさと申し訳なさで溢れた。
「「おかえり、リョウタ」」
アサヒとミナトが笑って迎えてくれたのも嬉しかった。どうしようもない感情に耐えられなかった弱い自分を晒してしまったことに、全員に向けて謝罪した。その場にサキがいなくてホッとして、案内された弘樹の部屋で横になった。
(眠い…)
全て夢だったらいいのに、そう思って目を閉じた。
ーーーー
「リョウタ、俺はお前も好きだけどリツさんを超えることはない。リツさんは…俺の全てなんだ」
「だって、サキ!俺のこと好きだって!愛してるって言ってくれたのに」
「あれは、お前が傷ついていたから、お前の傷は俺が治すしかないだろ。だから」
「だから…だから愛してるって言ったの?」
ーーーー
「っ!はぁ!!…はぁ、はぁ、はぁ」
バクバクバクバク…
「はぁ、はぁ、はぁ!はぁ!はぁ!」
あまりの苦しさに胸を押さえて呼吸をする。
(サキッ…サキッ)
リョウタは手のひらで顔を覆って声を殺して泣いた。
ーーーー
「待ってハル」
「なんだよ、リョウタのところ…」
リョウタの荒い呼吸と泣き声が聞こえて起きたハルは、カズキに止められた。
「リョウタが求めてるのはハルじゃない。サキだ。」
「分かってるよそんなこと!でもサキは今動けねぇだろうが!」
「それでも!!」
カズキはハルの顔を近づけて言った。
「これは、サキが動かないといけないことだ!ハルじゃない!!」
「っ!お前…また、ガキ相手に…」
「今回は、サキが、リツを越えなきゃダメなんだ!アサヒさんに半殺しにされても、目が覚めたらすぐにリツの意識がどうなかったかを聞いてきた。リョウタの行方よりも先にだ。」
「っ!?」
ハルは目を見開いた。サキの中ではまだ、リツが大きな存在だった。
「リツは今どこに?話がしたい」
「すでに闇医者のところにはいない。」
「なんだって?」
「…アサヒさんのお父さんのところへ行ったらしい。」
あまりの衝撃にハルは固まったままだった。
「サキがリツのことを整理しなければ、今後が危うい。この組織が消えるかもしれない。そういう事態なんだ。」
「そん…な」
「サキがまたリツに靡くのなら、最悪サキが裏切る可能性もある。もしくは任務に支障が出る。ただでさえリョウタが特攻をおりた今、正直バランスは崩れてる。」
「……」
「アサヒさんは、万が一の時はハルを現場に出すと言ってた。」
カズキは顔面蒼白だった。必死な理由が分かって抱きしめた。
「ハルが怪我するの、見たくないよ」
「分かってる、ごめん。知らなかった」
「アサヒさん、大事なことは言わないから」
ハルは、アサヒに「何かあったら任せたい」と言われたことをカズキに黙っていた。心の中で謝って、心配して眠れない様子のカズキにキスを送った。隣のすすり泣きを聞きながら、ハルはカズキを抱きしめていた。
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