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第104話 食事係
食事係の日常は忙しい。
誰よりも早く起きて下拵えをして、慌ただしく送り出す。その後に片付けをして、必要なものや足りないものを確認する。ハルはその間に洗濯物を干したり畳んだり仕分けたり、手際が良すぎてリョウタは訓練よりもヘロヘロになっていた。
「おい、休んでる暇はねーよ。陽が出てるうちに布団を干すぞ。俺、アサヒさんたちの部屋いくから、下よろしくな」
「ふぁーい」
ゆっくりと部屋に向かう。ハルとカズキの布団や、今リョウタが使っているもの、そして
ガチャ
(あれ…二段目にも布団がある)
リョウタがいた時はサキの銃置き場だったが、布団とホワイトタイガーがいた。
ガチャ
突然ドアが開いてサキが声を出した。
「あ」
「え、っ!わぁ!」
「危ない!」
驚いた拍子に梯子から足を踏み外して、重い布団を支えられなくなった。ぎゅっと目を瞑ると、ポスンとした衝撃があった。
「えっ…」
「大丈夫か?」
「っ!!」
久しぶりのサキの顔が近くて、サキの腕で暴れてしまい、結局床に落ちた。
「痛たたた…」
「お前な…」
サキの呆れた声が懐かしい。
(あぁ…好きだなぁ…)
無意識に思ってしまって首を振る。ギロリと睨んで無言で布団を担いだ。
「リョウタ」
ビクッ!!
無視したいのに体が反応する。固まったリョウタの背中にサキが話しかけてくる。
「あのさ、俺…」
「あ!えっと!俺は話すことないからっ!」
サキの話を遮って布団を廊下に投げて、サキの布団も引きずってドアを閉めた。
(…あぁ…ダメだな。やっぱり好きだ)
1番にはなれないのに、こうしてまだ好きな自分が嫌で布団に倒れ込む。ふわりと香るサキの匂いにドキドキしてしまう。
(嫌い。嫌いなんだって!サキのことなんか!)
「ぅおーーい!何サボってんだ!」
「ひぃ!?すみません!すぐ行きます!」
ーーーー
「つ…疲れた…」
リョウタは太陽の匂いのする布団に飛び込んだ。夕食の片付けも終えて、誰よりも後に就寝。これがハルの1日。同じ24時間なのに、全く違うスケジュールに白旗をあげたくなった。
後半は忙しすぎてサキのことを考えずにすんだ。今日は眠れるだろうと目を閉じた。
ーーーー
「眠れねーの?」
「ハルさん…。…はい。」
「弘樹のいびきうるさい?」
「いや全然。してるのかも、分かんないです」
サキはリョウタが恋人じゃないということをじわじわ理解して、実感していた。
「リョウタに大嫌いと言われました」
「まぁそりゃそうだろうな」
「何で俺…っ、あの手を放したんだろう」
サキは後悔で押し潰されそうになっていた。寝ても覚めても頭の中はリョウタでいっぱいだった。
「何で俺は、リツさんばかり追うんだろ。」
「さぁな。それは、リョウタやみんなが聞きたいことだ。」
ハルはエプロンをはずして、キッチンを去ろうと背を向けた。
「悪いな、サキ。今回ばかりはお前が自分で解決しなきゃなんねぇことだ。…あと、リツを選ぶなら、俺のところに来い」
「??」
「俺がお前を殺すから。」
「っ!」
それだけ言われてキッチンには1人になった。
「リョウタを選んでるのに…なんで、っ、俺、どうしたらリツさんを忘れられるんだよ!」
サキは頭を抱えて蹲った。
誰もそばにはいない。誰も頼れない。
(俺は、リョウタが…)
サキはゆっくり立ち上がった。
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