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第107話 それぞれの一歩

1週間後。  サキはスーツを着て、サトルの運転する車に乗った。隣にはアサヒ。  「あー…気が乗らねー。なんでお前の尻拭いのために天敵のところに頭下げなきゃいけねーんだ。お前らに話しただろ?昔の話。全く。」  アサヒはタバコの量が物凄かった。ストレスを与えているのも分かって、気合いを入れた。  (俺は今日、超えてみせる)  門でサトルが銃を向けられたが、アサヒが顔を出すと通してもらえた。  「兄さんっ」  「うっす」  「戻る気になったの?」  「なるか馬鹿。わざわざ出迎えか?暇人め」  シンヤは笑いながら後ろのサトルとサキを見て目を輝かせた。  「サトル!覚えてる?僕だよ!シンヤ!」  「あぁ。忘れるわけがない。」  「えっへへ!サトルのお陰で親父に褒められたんだぁ!サトルがいてよかった!」  サトルはそれ以降は無言を貫いた。サトルに飽きたシンヤは今度はサキに絡み始めた。  「綺麗なお兄さんこんにちは!あれ、おチビちゃんは一緒じゃないの?」  「はい」  「そっかぁ…。そうだね、今回は、こっちのおチビちゃんに用があるんだっけ?…助けてくれてありがとね」  シンヤの煽りにギロリと睨むと、アサヒにため息を吐かれた。  「いちいち反応すんな。」  シンヤはそれを聞いてつまらなさそうに頬を膨らませた。  「親父が待ってる。最高に機嫌がいいよ」  「あぁ。悪いってことね」  大きな広間の襖を開けると、ものすごいオーラを感じた。あまりの圧力にサキは汗と震えが止まらずに、帰りたくなった。  「俺に取引とは調子に乗ってるんじゃないか?」  「そっちの部下を助けたのは俺んとこの奴だ。恩は返すもんだろ。なんなら勝手にシマに入って無事なだけ感謝されても恨まれる義理はねぇ」  「クソガキが。慎一郎、リツを連れて来い。」 テンカがイラついた様子で言うと、アサヒは立ち上がった。  「あれ、兄さん。会わないの?」  「用があるのはこいつだ。俺は裏切り者に興味はない。殺してもいいなら居ておくけど」  アサヒは襖を開けて出て行った。サトルはアサヒの指示通り、サキの隣に待機した。  ススッ  「失礼致します」  「この子どもがお前と話したいそうだ。」  「ッ!?サキ…?お前どうして…」  リツはまだ不完全なのか、松葉杖と、頭に包帯をしていた。着流しを緩く着たリツは顔色も悪く、ゆっくりと歩いて来た。 「リツさん…良かった。意識なかったから…心配だった。」  「なん…で、俺のことなんか、心配しなくてもいいだろう?そのためだけにここに来たのか?アサヒさんは…」  やっぱり、リツの中心はアサヒだった。 「無事で良かった。リツさんが生きていてくれて、良かった。」  「何言って…」  「俺、ちゃんと伝えに来たんだ。」  不思議そうな顔のリツと、静かに様子を見る、シンヤとテンカ。サキは緊張する手をぎゅっと握りしめて、リツを笑顔で見つめた。 「大好きでした。あなたのことが。とても大事でした。あなたが全てでした。」  「サキ…」  リツは目を見開いてサキを見ていた。リツの大きな目が潤んでいく。  「行かないでほしかった。そばにいてほしかった。ずっと一緒だと思ってた。寂しかった。悔しかった。苦しかった。」  リツの眉が下がって、噛み締めた唇が震えて、その大きな目から涙が溢れる。  「いつも、わがままばっかり言ってごめん。ガキだったね、ごめん。リツさんの苦しみが、やっと分かったよ。そばにいて、触れられない、代わりなんかいない。リツさんはずっとずっと苦しかったんだね」  顔を上げられなくなったリツを、不思議そうにシンヤが支えた。  「俺ね、越えたくて来たんだ。大好きだった人に、好きだったとちゃんと伝えて、次に進むために。リツさんも、踏み出したから俺も進むよ。」  「サキッ…」  「優しいリツさん。誰がなんと言おうと、俺はリツさんが、大好きでした。」 サキは号泣するリツに笑った。サトルさんを見て頷いた。  「リツさん、俺、好きな人ができたよ。今度は手を離されないように、離さないように、自分のことだけじゃなくて、相手のことも見ようと思う。リツさんが教えてくれたんだ。ありがとう。」  サキはそう言って立ち上がった。  「へー?戻すための説得じゃないんだ?」  シンヤが驚いたようにサキに問いかけた。  「リツさんの居場所はここです。俺は俺の居場所へ帰ります。待ってる人がいるので。」  「あのおチビちゃん?」  「…ご想像にお任せします。」  サキはテンカにも頭を下げた。リツに背を向けると、襖にはアサヒの影が写っていた。  「リツさん。俺、リツさんの応援はできないけど幸せを願ってるよ。だから、笑って」  もう一度リツを見るために振り返ると、リツはふわりと笑ってくれた。  (良かった。笑ってくれた。あの時と同じ) 「リツさん、バイバイ」  「うん。サキ、本当にありがとう」  手を振って部屋を出た。  最後にやっとリツはサキだけを見てサキにだけ向き合ってくれた。  サキにはそれだけで十分だった。  伝えたらスッキリして、リョウタに会いたくなった。  「サキ、ちゃんと言えたみたいだな」  「うん。アサヒさん、サトルさんありがとう」  「本当!手がかかるよ!お前は!」  「痛っ!」 「じゃあ俺からも。」  「痛ぁ!!」  サトルとアサヒのゲンコツを食らって頭を押さえると、2人は笑ってくれた。  サキの中で、リツが思い出に変わった瞬間だった。  ーーーー  「そんなにメソメソして。なに、あの子のこと好きだったの?」  「っ、ぅ、…っ、」  「りっちゃーん?…はぁ。やだなぁ、どうしたらいいんだろ?泣かせるのは得意だけど泣き止ます方法が分からないや」  シンヤはリツの部屋で椅子に座り、困ったようにリツを見た。リツはいつまでも泣いたままだ。 「兄さんに会えなかったのが辛いの?」  「ちがう、サキの言葉が…気持ちが、嬉しかったから、っ、こんな、俺のこと、おもって、くれてたんだって」  「知らなかったの?」  「アサヒさんのことで、頭がいっぱいで」  シンヤはこれを聞いた瞬間、リツを思いっきり突き飛ばして床に縫いつけた。  「ンッ…んっ!ん、っ、ふぁっ、ん!」  「ダーメ、逃がさないよ。ほら、兄さんと同じ顔だよ、嬉しいでしょ?」  「嫌だって、ばっ!俺は、アサヒっ…っあ」  (可愛い、可愛い、可愛い、可愛い)  シンヤは舌舐めずりをした。  他の組にいたリツを見つけて、アサヒで釣って組に入れることに成功した。  ここまで1人の人に夢中になったことはなかった。 組を抜ける時にリツを攻撃した奴らを、リツが意識を取り戻した日に全て殺して、元居た組を壊滅させた。 (兄さん、今なら、兄さんがミナトを渡さない理由が分かるよ)  リツを探し回って、やっと見つけた。  あの安堵を忘れない。  (僕には君が必要なんだよ、りっちゃん)  動いて開いた傷口を舐めると絶叫が聞こえる。それでも、リツを触ることがやめられない。こんなことはシンヤには初めてだった。  「痛いって…ッやめ、て」  「やーだ」  リツは毎晩抵抗する。アサヒと同じ顔に抱かれてるのに不思議だった。嬉しくないのかと聞いたこともある。聞くと泣いてしまうから、また困ってしまう。  (さっき、あの子に向けたみたいに笑ってほしいのに)  そんなことを思いながらも、興奮は止められずにリツを侵す。うつ伏せにして、形のいいお尻を広げて激しく舐める。可愛く鳴く声に興奮して、必死に中を広げる頃には、リツはもう落ちている。 「あっ…シンヤさん、ッ、シンヤッさん」  リツは理性を飛ばすと名前を呼んでくれる。この瞬間に、シンヤの興奮は最高潮になる。  グググッ 「んぁああッ!あぁ!あ!シンヤさんっ!ダメ!いきなりっ、奥、っは、はぁっ…ん!ッアーーッ!」  部屋に響く、肌がぶつかり合う音。  何も考えられないほど、2人の相性は良かった。シンヤはいろんな人と身体を重ねたが、リツを越える人はいなかった。気持ち良さそうな顔も、締め付けも、肌の気持ちよさも、甘い声も、シンヤにとっては完璧な人だ。 「りっちゃん、出すよ」  「ンッ、ンッ!ッァア!俺も、ッあッ…イくッ…ッシンヤさ…ッァアァアーーッ」  (綺麗だ、りっちゃん。どうしてこんなにドキドキするの)  まだビクビクと跳ねる身体を強く抱きしめてたくさんの痕をつける。 (りっちゃんが、好き)  「ん…シンヤさん…痛いよ、苦しい」  「りっちゃん…」  「…もぉ〜…甘えん坊さんだな…アサヒさんと全然違うじゃん」 クスクス笑ってくれて、その顔を見つめる。 (か、可愛いっ!!!) 疲れたのか、頭を預けてくる仕草にもドキドキして、今度は力を弱くして抱きしめてみた。  「ん、今ぐらいがいいな」 「分かった」 (何か、顔が熱い) 初めての感情を認識して、リツの顔中にキスをおくった。

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