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第111話 断捨離

倒れるように眠ったサトルを見て、レンは大きなため息を吐いた。  (また、サトルに迷惑かけた)  尻拭いはいつもサトルがしてくれて、レンは待つだけだった。緊張しただろう。以前対峙した桜井テンカのもとに行くのは。昨日眠れていなかったのも分かる。サトルを触っても全く動かない。  (俺も、しっかりしねぇと。)  レンはケータイを取り出した。  「ウイ、全員集めて。」  電話を切ってレンはそっと部屋を出た。  ーーーー  「お疲れ様です!」  「レンさん、お疲れ様です!」  レンが契約しているマンションの一室にレンが個人で雇っている情報屋を全員集める。 部屋に入ると両脇をウイとユイが固める。  どちらも綺麗な黒のロングヘア、同じ黒のロングドレス。 「レンさん、何かありましたか?」  「あ、ずるい!ウイより先に私が気付いてましたー!」  いつものやり取りに安心した。  この双子はレンのためなら何だってしてくれる。絶大な信頼がある。見た目は全く一緒に近いが、性格は気持ちいいほど真逆だ。姉のウイは落ち着いていて客観視ができる。妹のユイは直感タイプで思ったことが全て顔に出る。レンが個人で雇った初めての情報屋。ウイとユイの働きの成果を見て、雇うのを増やした。 (だけど…)  ヘラヘラとご機嫌を取ろうとする、ほかの情報屋を睨みつける。  「この1ヶ月、成果を出せてないのがこんなにもいる。」  「っ!」  「なんの情報も取れない…何してんの」 資料を壁に映し出して、ドカっと椅子に腰掛けて、成果が出ていない情報屋たちを睨む。  「お前ら、いる意味ないから。」  ウイとユイもさすがに驚いてこちらを見た。それを無視していると、周りの情報屋が騒ぎ出した。 「ちょっと待ってくださいよ、俺たちは」  「この女たちだけ贔屓ですよ」  「何かあったんですか、レンさん、話してください」  (うるせぇ…)  騒がずにニヤニヤする奴がいた。  そいつは成果は上げているが、気になることがあった。 レンが静かに立ち上がると、金髪で真っ白の肌の男の前に立った。  「よぉ。よくもやってくれたな」  「「!?」」  「お前もクビだ」 ウイとユイの次に信頼していた情報屋のヘンリー。アメリカ国籍の綺麗な顔の男だ。  「誤解ですよ?珍しく感情的ですね」  ヘンリーは立ち上がり、レンと目線を合わせてレンの頬を触る。小さな顔を近づけて耳元で囁く。 「サトルさんに何かありました?」  少し高めの柔らかい声は、笑っているように聞こえて感情が動く。 ウイとユイが同時にヘンリーに銃を向けた。  「いいの…?僕をクビにして」  「お前はいらない。」  「このゴミ達と同じ位なの?違うよね?まずは落ち着いてよ」  クスクス笑っているのがイライラを増長させる。 「ねぇ、君たちはクビだって。退職金は僕が弾むから元気出して」  ヘンリーはそう呼びかけると情報屋は文句を言いながら部屋を出た。ヘンリーはそれをニコニコと笑って見送り、ソファーに座る。いつまでも余裕で、銃を向けられても落ち着いている。  「ヘンリーさん、何かしたの?」  「こらユイ。空気読みなさいよ」  「えー?だってレンさん怒ってるじゃん。これ以上怒らせたくないしー。ヘンリーさんがヘラヘラしててあたしまでムカつくー。」  ユイはカツカツとハイヒールを鳴らしてヘンリーに近付き、股間を踏んづけた。  「っ!」 「さっさと消えろよ。お前もクビだって」  「君が…消えなよ。君はレンさんに相応しくない。下品な女」  「あ!?んだとコラ」  ギリギリと力を入れてキレ始めたユイをどんどん挑発するヘンリー。  「うるせぇ。お前ら黙れねぇのか。」  「「「……」」」  「ヘンリー、お前には信用はない。」  「嫌だよ」  「稔を唆したな?何、俺を殺したかった?」  レンが髪をかき上げると、その手を見てヘンリーは目を見開いた。 「どうしたんですかっ…その手」  「…あ?刺した」  「誰に!誰にやられたんですか!」  突然激昂したヘンリーに驚いた。ウイとユイも不思議そうだ。  ヘンリーはユイを突き飛ばしレンへ駆け寄り、膝をついてその手を取った。  「あぁ…綺麗な手が…どうしてっ…」  愛おしそうに頬ずりされて、レンはゾクッと震え、ヘンリーの手を振り払った。 「…アイツこそが能無しだ。レンさんの隣にいながらレンさんにこの傷をつけた。」  「何…だって…?」  「レンさんの隣は、僕だけでいいんだ。他は全員、消えればいい」  透き通る青い目が、吸い込まれそうで固まる。ヘンリーが何を言ってるのか理解できなかった。金色のまつ毛が影を落とし、ぶつぶつと話し始めた。 「稔には、レンさんを攫ってこいって言ったのに。あいつはバカだから…ちがうオモチャであそんでた。」  「お前っ!レンさんをっ」  「うるさいな、ヒステリックな女は嫌いだよ」 ヘンリーはナイフを見せユイの声を止めた。 「君たちは、レンさんが気に入ってるから命拾いしているだけ。忘れないで」  「ヘンリーさん、何か裏がありそうな言い方ね」  ウイは銃を下ろすと、ヘンリーが笑って、ウイはいい子だとナイフを下ろした。  「レンさん、一緒に組織を作ろうよ。僕らの情報は高値で売れる。それをさ、小さな桜井アサヒ一派だけに使うのは勿体ないと思わない?」  「俺に従えないならお前は必要ねぇから。」  「桜井アサヒはね、桜井テンカの後楯があるから他が手を出せないだけ。そんな小さな組織にレンさんがいるのが納得できないんだよ」  ヘンリーは、パソコンを取り出していくつもの情報を開示して熱心にレンを引き込もうとしていた。レンはそれを黙って見ていた。  「レンさん…」  ユイが心配そうにこちらを見た。ヘンリーは自信満々に笑う。  「どうですか?」 「あ?何が?」  レンはドカンと机に足を置いた。 「何が…って」  「相手がキョーミねぇの、気付かないとか…情報屋としてありえねぇ。気持ち良さそうに熱弁して恥ずかしくねぇの?」  「っ!」  レンはコツコツと机を指で叩いた。  「相手のことを知らないと落とせない。反応見なきゃ伝わらねぇよ?あとさ、相手にはタブーのワードがあんだよ」  バキバキッ  パソコンを足で叩き折って、顔面蒼白のヘンリーを見る。  「桜井アサヒをなめんな。」  「っ!」  「俺が唯一、ついて行きたいって思った人を侮辱したお前に、俺が頷くと思ったのか?」  「あ…っ、あ」  「なぁ?俺を否定したお前と、俺が何をするって言うんだ?殺し合いか?あぁ!!?」  ガタガタと震えるヘンリーの顔は真っ青だった。  「ごめんなさい、ごめんなさい、違うんだ」  「ユイ、こいつを外に出せ」  「はい」  「待ってくれ!レンさん!僕には君が必要なんだよ!」  「俺はいらねーよ」  細いのに力があるユイがヘンリーを引き摺っていく。  「レンさん!レンさん!僕は君が…っ」  バタンッ  「ウイ、あいつのこと、調べろ。また連絡する。今日はあがれ。」  「承知しました」 ウイも部屋を出て、レンは天を仰ぐ。  「やっべぇな…。」  (切るの、遅かった。)  『僕は君が…っ』  「はぁ〜ッ!クッソ!面倒くさくなりそう」  天井を見上げたままぼんやりしていると、ケータイが震えた。しばらく無視していたが鳴り止まない。  「はいはーい?」  『っ、どこだ?レン』  「…家」  『すぐ行く。そこで待ってろ』  寝起きで焦っているのが分かって、切れたケータイを握りしめる。  疲れているのにいつでも探してくれる。  (早くサトルに会いたいな…)  お疲れとか、ありがとうとか、言いたいことはたくさんあるのに、きっと顔を見たらこう言うはずだ。  ガチャ  「レン!!勝手にどこか行くな!俺がどれだけ…」  「サトル、愛してる」  「っぅお!」  飛びついて、何度も唇を重ねる。すぐに熱くなる自分の身体にニカッと笑う。  「何笑ってんだ」  「サトルが好きだなぁーって!」  「…良かった。元気になったな」  頭を撫でられ、ふわりと笑われるとレンはたまらなくなった。  「…サトル、ウイとユイ以外は切ったから」  「そうか」  「でも、ヘンリーがごねてる。」  「あぁ、あいつお前に心酔してるからな」  「知ってたの?」  「あからさまだろ。」  不安を打ち明けてもサトルはそのままだ。だから、安心する。何でもないことなんだと。  「サトル、俺を守ってね」  「当たり前だ。」  今度はサトルからキスをしてくれた。 

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