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第112話 夢よりも幸せな

温かい夢だ。  ずっとこのままでいいと思ってしまうほど。  幸せな夢。  起きてもいいかな?  起きてもそばにいてくれるのかな?  起きたら、  「っ…」  リョウタはゆっくりと目を開けた。  気持ち良さそうに眠るサキが、目を閉じる前と同じ姿勢で安心した。  左手の薬指を見て、シルバーのリングがそのままで安心した。  (夢じゃない。)  「サキ…」  小さな声で呼ぶと、長いまつ毛が震えてゆっくりと持ち上がる。  色素の薄い綺麗な瞳がぼんやりと彷徨い、リョウタを捉えた。  「リョウタ」  寝起きの声で呼ばれただけで、リョウタは心臓が激しく胸を打つのを感じた。まだ眠いのか、リョウタの胸に顔を寄せて目を閉じた。  (可愛い)  クスクス笑うと、またまつ毛が上がって、今度は不機嫌に見上げてくる。 「サキ、着替えたら?」  「あ…そのままだった。」  やっとリョウタから離れて、ぼんやりしたまま服を脱ぎ始めたサキにリョウタは布団で顔を隠した。  (あれっ?あれっ?なんだろ!恥ずかしい)  「ん?リョウタ?」  「は、は、早く着替えてよ。こうしてるから」  「は?何で?今更…あ、着替え持ってきてない」  貸して、と近づいてくるのが分かって、リョウタは顔から火が出そうだった。  「リョウタ」  「そそ、そこのクローゼットから適当に」  顔を隠したまま指を刺すと、その手を取られて指にキスされた。  「リョウタ」  甘さを含んだ声に変わって、ワタワタと暴れた。無理矢理布団を剥ぎ取られると、目の前には久しぶりの恋人の、裸の姿。  「あ…あ、」  「リョウタ、こっち見て」  「いや、だ」  両手を掴まれてしまったけど、顔だけ逸らして目をつぶった。今度はサキのクスクスと笑う声が聞こえて、悔しくてサキを見ると唇がすぐ近くにあった。  「サ…んぅ…っ、ん、ん、」 (気持ちいいっ…身体が熱い)  サキの背中に手を回して、気持ちよさに身を任せた。力が抜けたところでサキがゆっくり押し倒してくる。  「リョウタッ」  余裕の無さそうなサキに、リョウタも余裕無く笑う。 「リョウタを、抱きたいっ」  強い欲情した目が、必死で、感情が伝わって、リョウタはその目を見つめたまま舌を伸ばした。  すぐに絡み合う熱が2人の理性を飛ばした。  衝動のままお互いを必死で求めて、貪りあって、お互いに痕を残す。 どんなに絶頂を迎えても足りなくて、焦っては熱を迎えて、サキの荒い呼吸も、激しく穿つ腰も、たまらなくて叫ぶ。  (まだ足りないッ!足りないよ!) 「リョウタッ、ッ、」  サキが優しく頬を撫でてくれる指に噛み付いて、離れないでと目で伝える。  「リョウタに食われそう」  サキは汗をかきながらそう言って笑う。 「…そうだよ、もう、他なんか目移りさせない」  呼吸を整えながら、サキをじっと見つめる。  (絶対、渡さないから)  目を合わせたまま、サキの長い指を取って、舌を這わせる。  「引き金、引けなくさせるから」  「ははっ!怖っ!」  カリッと噛むとサキは荒い呼吸を必死に抑えて笑う。  「リョウタの脅しに、興奮してる俺って嫌い?」  「俺が嫌いになれないって、知ってるでしょ」  「可愛いすぎ」  「もう…不安にさせないで」  「うん。ごめん」  「俺、もう許してあげられないよ。」  リョウタは内側から迫り上がる衝動が怖くて、サキに抱きついた。  「うん。一生リョウタだけだよ。」  「んぁああ!?っあ?っあぁ!」  突然突き上げられて、リョウタの目の前に星が飛ぶ。予期せぬ絶頂に、はくはくと呼吸するも間に合わない律動。 「サキッ!ッ!っぁああ!?っあ!まっ!っぁあああ!!!」  壊れたみたいに何度も噴き上がって恥ずかしいのに止め方が分からない。 「んぅーーッはぁっ!!あぁあ!!」  ぐちゃぐちゃと聞こえて、中のサキをぎゅうぎゅう締め付ければ更に良いところに当たって、涙も涎も垂れ流す。  (ぐちゃぐちゃで…もう、分からない)  急にブラックアウトしてしまった。  (サキの手…)  飛ぶ瞬間にサキの手を掴んだ気がしたけど覚えていない。  ーーーー  「リョウタ、おい、リョウタ?」  サキは急に脱力したリョウタに焦って熱を抜いた。ものすごい音を立てて外に出るとトロトロと止まらない白濁。  (しまった!ヤりすぎた!!!)  顔面蒼白になって慌ててリョウタの後処理をした。  コンコン  「ひぃ!」  後処理を終えて、リョウタにパンツを履かせたところでノックが聞こえて焦ってリョウタに布団を被せて隠した。  ガチャ  「…っ、お前。より戻したら速攻かよ」  「ハルさん!ちちち、違わないけどっ」  「…まぁ、良かったな。あまりにも激しすぎたから気になってな。リョウタは大丈夫か」  「うっ!き、聞こえてた?」  「当たり前だバカ。」  ハルは消臭剤を撒きまくって、布団をガバリと剥いだ。  「……。」  「あー…、えっと。」  無言のハルが怖くて、サキは全裸のまま正座した。  「ふふっ、良かったな、リョウタ。」  「へ?」  「幸せそうに寝てるじゃん。あんま無理させんなよ。ただでさえ心労すごかったんだからな。」  ハルはササっとクローゼットからリョウタの服を出して着替えさせ、ベッドに寝かせた。  「ぷは!お前いつまでその格好なの?!」  ハルに爆笑されて恥ずかしくて俯いた。  頭をわしゃわしゃ撫でられて、風呂行けと言われ、ハルは出ていった。  「……。」  「あ、今日から部屋戻すから。」  ひょこっと顔だけ戻したハルの顔はニカッと笑っていた。 「もう泣かすなよ」  「はいっ!」  元気よく返事すると、ハルが優しい顔で笑ってくれた。  (うぉ…かっこいい)  またみんなに迷惑をかけたことを改めて反省して、感謝の気持ちでいっぱいになった。  すやすや眠るリョウタは、ハルの言う様に幸せそうに見えて、サキも微笑んだ。 

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