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第113話 弘樹とアサヒ
弘樹は布団を畳みながら、ため息を吐いた。
あの2人が仲直りしたと聞いて安心した。寝ていないサキも心配だったし、空気も良くなった。
(けど…振り回されてる感は否めないよね)
ホワイトタイガーに顔を埋めて、眉を下げた。
コンコン
(あっ!早く出なきゃ!)
「はーいっ!」
元気よく返事をすると、ドアが開いてアサヒが覗き込んできてビクッと肩が跳ねる。
あまり面と向かって話す機会がない、ここのボス。
「ヒロ、少しいいか?」
「っ!…はい」
(う…ユウヒと同じ呼び方…)
「お前に単独任務をお願いしたい。」
「単独…ですか。」
「あぁ。お前が今後どんな使い方ができるかみたいんだ。」
柔らかい笑顔なのに、目は試されているように鋭く感じた。背中に冷や汗が吹き出すが、弘樹は笑ってはい、と返事をした。
(しっかりやらなきゃ…!組長に恥をかかせちゃいけない!)
弘樹はギュッとホワイトタイガーを抱きしめた。
「そうか。なら、今晩決行だ。…今から打ち合わせするからミナトの部屋に来な」
「はい!」
二段ベッドから飛び降りてアサヒの後をついていく。
(やっぱり、この人が怖い)
くるっと振り返えられるだけでビクッと固まってしまう。表情は辛うじて笑えているだろう。
「…そんなビビんなよ。ハルみたいに、とは言わねーけど少しは慣れろ」
「慣れてますよ」
「嘘つくな。こんな汗だくになって。」
頭を触られそうになって、スッと力が抜けた。
ドタンッ
「っ!」
「おいっ!大丈夫か?」
「あ、ははっ。す、すみません。おかしいな」
(あれ?…立てない)
力が入らなくて、さすがに笑えなくなる。
アサヒは目を見開いたあと、大きなため息を吐いて頭をかいた。
「…ハルー!ちょっと来い」
ミナトも物音に驚いて部屋から出てきた。不思議そうにアサヒを見るも、アサヒはダメだと言う様な雰囲気で首を振った。
(ちゃんとしないと!ちゃんとしないと!)
「アサヒさん…おい!どうした弘樹!」
ハルが駆け寄って来てくれただけで、一気にリラックスできた。抱きしめられただけで安心して泣きそうだった。
「ヒロ、俺にビビって腰まで抜かしやがった」
「はっ?」
「ハル、ヒロに単独任務させてーんだけど…打ち合わせ、お前も入ってくれ」
「…分かりました」
(あぁ…組長に迷惑かけちゃった)
落ち込んで下を向くと、綺麗な顔のアップに驚く。
「顔色悪いよ、ヒロ。大丈夫?」
「っ!」
(ミナトさんまで、ユウヒの呼び方…)
アサヒへの恐怖から、ミナトへのドキドキに変わる。顔が赤くなると、アサヒはギロリと睨んできてドカっとソファーに座り込んだ。
「ヒーロー?俺、お前になんかしたか?」
「い、いえ!」
「アサヒが怖いからでしょ」
「怖くねーだろ!ユウヒと同じ顔だろーが」
「若さかな?」
「お前おちょくるなよ」
アサヒは困った様にミナトを見たあと、頷いた。ミナトはクスクス笑いながら資料を出した。その資料には外国の男性が写っていた。
「誰ですか?」
「情報屋だよ。ヘンリー。育ちは日本だから日本語で大丈夫。」
「はい。ヘンリーさんに何を?」
「ヘンリーに近づいて、信頼を得ろ。」
信頼って、と固まる。見ず知らずの人。不安になってハルを見ると、頭を撫でられた。
「こいつは、レンを引き抜きたいんだ。」
「っ!?」
ハルも驚いて息を飲んだ。
「レンは俺たちには黙っているが、サトルからの情報だから確かだ。ヘンリーの注目をレンからヒロに変える。」
「なんで…」
俺なんですか、との言葉を飲んだ。
(俺しかいないじゃないか!!)
「リョウタはまだ不安定だ。何より、ヘンリーはレンの部下だった。こちらの情報は把握しているはずだ。でも、お前のことは知られていない。」
アサヒは真っ直ぐに弘樹を見た。真剣な目。
「お前にしかできない。やれるか?」
(アサヒさんに、頼まれた。)
恐怖だったのに、この目が。
今は、期待に応えたいとしか思わない。
ゆっくり頷くと、ニカッと笑ってくれた。
ドキッ
初めて向けられた笑顔に顔が熱くなる。するとアサヒは苦笑いに変わった。
「っ!」
「…お前、感情が忙しい奴だな」
わしゃわしゃと、大きな手が頭を撫でた。
ハルの手ではなく、アサヒの手。
(怖かったのに…)
嬉しくて、安心する大きな手だった。
ハルを見上げると、頑張れよ、と笑ってくれて、弘樹は大奮起した。
一生懸命ミナトの話を聞いて、準備するために部屋に戻った。
ーーーー
「アサヒが信用してないのバレバレだったじゃん。ヒロは敏感だね」
「信用してるし。」
「あんな殺気丸出しとか可哀想だよ。ヘンリーに気が立ってるのは分かるけど、ヒロに当たらないでよ」
「悪かったよ。バレるとは思わなかったんだよ」
アサヒは不貞腐れてタバコを吸った。
(相当怯えてたな…悪いことした)
弘樹から偽物の笑顔が消えた瞬間、死を覚悟した顔に変わった。生きることを諦めたようなそんな顔で怯えていた。
「凹むくらいなら可愛がってあげなよ」
「分かってるよ。」
「ハルに免じて、から昇格するといいけど」
「この任務次第だ。」
アサヒは資料をバサリとばら撒いた。
「ふざけやがって。レンは絶対渡さねぇ!」
紅くなる瞳にミナトは苦笑いした。
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