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第114話 充電
弘樹は渡されたインカムを仕込んで、とあるバーの前に来た。
「開始します。」
『うん、宜しくね』
黒のキャップを深く被って、わざと怪しく見えるようにバーに入る。
(う!?なんだ。ここ!)
ゲイバーだとは聞いていたが、早速入口でキスに夢中になる人たちがいて固まる。
「いらっしゃい」
マスターらしき人が怪しみながらこちらを覗き込む。周りも弘樹の様子を見ているのが分かる。興味を引いたところでキャップを取る。
「甘いやつ、ください!」
ニカッと笑うと、マスターがきょとんとした後クスクス笑った。
「可愛いー。お酒は初めて?」
「はい!オススメください!」
元気よく言うと、マスターがバーテンに目配せした。
(強いの、来るかな…どうしよ)
『弘樹、お酒いける?』
ミナトの声に首を横に振って応えた。
コトン
可愛いピンク色のカクテルが届いた。ドキドキしながら口に運ぼうとすると、その手を止められた。
「出た。マスターの冷やかし処刑」
「もー。ヘンリーネタバレー。」
いつの間に隣に来たのか、写真で見たターゲットが弘樹のカクテルを奪って口に運んだ。
「君、未成年でしょ?」
耳元で囁かれた声にゾクっとして、ヘンリーを見る。その青い瞳はあまりにも綺麗で飲み込まれそうだ。
「あーあ。ヘンリーに捕まったー。楽しくなーい。もう悪戯できないじゃん」
マスターは悔しそうにその場を離れた。
「ここは危ない場所だから、もう来ない方がいいよ。」
「…お酒、飲んでみたくて。お兄さんはここの常連さん?」
「僕は仕事だよ」
「お酒のお仕事?」
「…嘘。好きな人を待っているんだ」
切なそうに言ったヘンリーに、ズキンと胸が痛んだ。
「そっか。来るといいね」
「…来ないよ。振られちゃったんだ」
「でも待つの?」
「うん。謝りたいんだ。もう一度そばにいたいから。」
泣きそうな顔のヘンリーの頬に手を伸ばした。壊れそうなこの人が、間違わないようにしなきゃと思った。レンに近づけばきっと殺されてしまう。何があったか知らないけど、ただ一途な人のように思えた。
「泣かないで」
手が涙で濡れた。マスターは遠くから驚いたようにこちらを見ていた。
「僕にはあの人が全てだから。でも、あの人の隣には…もう、他の人がいるんだ。憎たらしいよ、どけよ、って叫びたいよ。」
(分かる…気がする)
「そばにいることだけに、満足できなかったり僕が悪いんだ」
独白みたいな叫びが、苦しくて、そばにいなきゃと思った。
ふわりと抱きしめてあげると、驚いたヘンリーと目があった。
「泣かないで」
もう一度そう言うと、背中に腕が回った。
「へー。あのヘンリーを落とすなんて。若いのにやるじゃん。」
「あのヘンリーが振られる方が驚きよ。誰よ振った奴」
マスターとバーテンの声が聞こえるが、何も反応出来なかった。だって、優しい優しいキスが降ってきたから。
「ん…っ、ん、」
「ありがとう。君、名前は?」
「ヒロ。ヒロって呼んで。」
「ヒロ。僕はヘンリーだよ。」
「ヘンリーさん。」
唇が離れると、涙が止まっていて安心した。良かったと笑えば、またキスが降ってくる。マスターが急に鍵を寄越してきて首を傾げる。
『ヒロ、ストップ。今日はここまで』
突然聞こえた声にハッとして顔を上げた。
「ヘンリーさん!今何時?!」
「えっ?…23時だよ」
「やばい!帰らなきゃ!塾って嘘ついてたの!」
「塾?…ふふっ、君学生なの?」
「うん!英語が赤点だから」
「僕が教えようか?」
(やった!次が繋げる!)
「いいの!?わーいっ!」
「もう、そんな喜んで…可愛いなぁ。明日も20時からここにいるよ」
「うん!また明日!」
手を振ってまたキャップを深く被る。ヘンリーの奢りでそのまま店を出て、角を曲がったところに待機していたサトルの車に乗り込んだ。
「お前、上手いな。」
「そ、そうですか?緊張しました。」
「初めの頃のレンみたいだったぞ。驚いた」
サトルに褒められて嬉しくなった。
戻るとすぐにミナトの部屋に呼ばれてミナトからも褒められた。コソコソしているのを不審そうに見るレンの視線から逃げながら、元の部屋にこもって唇をなぞった。
(大人のキスしちゃった)
ユウヒの顔が浮かんで胸が痛む。仕事だと言い聞かせても、ユウヒに会いたくなる。でもユウヒがこちらに来ない限り、あの家族の空間に行くことはできない。
(今日は、ユウヒに抱きしめられたい)
そうじゃないと、寂しさから靡きそうな自分がいた。
コンコン
「っ!はーい!」
ミナトかと思って開けると、ユウヒが立っていた。
「ユウヒ、どうしたの?」
「…充電、させて?」
「充電?」
パタンとドアを閉めると、ユウヒからキスされた。
ゾクゾクゾク
(あれっ、力が入らない)
足がガクガクして、ゆっくりしゃがみ込むけどユウヒは唇を離してくれない。熱い舌が絡まって気持ちよくてぼんやりする。
「ヒロ…ッ、ヒロ」
欲情した声で呼ばれて、堪らなくなる。あの狂った快感以来の熱が迫り上がってきてユウヒを求めた。
グチッ
「はぁっ…!」
「痛いか?」
「はぁっ…っぁ、…ぁっ」
指がゆっくり入ってきてもう何も考えられなくなった。ユウヒの問いかけは聞こえているのに、呼吸や快感に耐えることに必死で、締め付ける。
「えっと、次は、広げる。…こうかな」
「あぁっ!!」
いい所をグリッと刺激されて星が飛ぶ。ユウヒは痛いかとまた聞いてくる。
(気持ちよすぎるんだよ!バカユウヒ!)
「すっげーきゅんきゅんしてる。ヒロ、あと一本いくからな?」
いちいち実況したり、学んだことを活かそうとしてるのも恥ずかしい。
ググッ
「あぁっ!ゆ…ひぃ…ッ!」
「よし、3本いったぞ!やった!」
ニカッと嬉しそうに笑っているが、こちらは快感で頭がおかしくなりそうだった。早くあの狂った快感がほしくて、一生懸命ほぐすユウヒに焦らされているような気さえした。
「よし、そしたらゴムしないと。」
指が抜かれ、期待するのにゴムをいそいそと着けている。
(早く、早く、早く)
うつ伏せにされて、腰が上げられる。
(早く、早く、早く)
「ヒロ、いくぞ」
コクコクと頷いて、快感を待つ。
ググッ
(キタ…ッ!ヤバいっ!!)
「ァアーーッ!!」
「ぅ…あっ…はっ、はっ…」
目の前がチカチカして、ガクンガクンと腰が勝手に跳ねる。床にパタパタと熱を吐き出してしまう。今日はユウヒも待ってくれて、呼吸を整えられた。
「ユウヒ…ッ、気持ちいいよぉっ」
「ヒロ可愛い」
「ユウヒ、動いて、いいよ」
「ふぅ…っぁ、」
ユウヒの腰が動いて、気持ち良さそうな声を聞いてまた体が熱くなる。
顔が見たくなって少し振り向くと、ユウヒの欲情した顔に驚いた。
「ん…?ヒロ…ッ、どした?」
腰を振りながらも、気にかけてくれる。そんな優しさもたまらなくて、年下のこの恋人に全てを委ねた。
「ユウヒ、大好き、大好き」
「っ!ヒロッ」
「大好きだよ、ユウヒ」
好きが止まらなくて、必死に伝えた。うなじにキスされて、弘樹の腰が反った。
「ッぁああーーーーッ!!」
「ぅあっ…ッーーッ」
ユウヒもイったのか、しばらくそのままで、少し落ち着いた頃に抱きしめてくれた。
「ヒロ?…任務、すごい嫌だけど、俺、ちゃんと待ってるから」
「え?」
「父さんから聞いた。ヒロの任務内容。仕事だから、分かってるから。」
「ユウヒ…」
「任務、頑張れ。戻ってきたら、そばにいるから」
ユウヒの優しさに涙が溢れた。ギリギリまで抱き合って、瞼が落ちる頃にユウヒは部屋へ戻っていった。弘樹の心はしっかり充電された。
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