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第116話 人事異動
ミナトの部屋。アサヒとミナトだけの空間。
「「……。」」
弘樹の初の単独任務は、どうもスッキリしない終わり方となった。ヘンリーを消すという最終の目的は達成した。
(けど…ね)
ミナトはため息を吐いた。
アサヒの機嫌が超絶悪い。感情移入してしまった瞬間に銃を取ったのをサトルが諭してなんとか治った。
『まだ子どもです。アサヒさん、ヒロは初任務ですよ。求め過ぎです。』
(サトルがいて良かった。)
ヘンリーの関心を向けるだけで良かったのに、その先まで進もうとしたり、危なっかしさが目立ってしまった。それに、弘樹は自分がヘンリーの雇った奴らから殺されそうになったことを知らない。
「レンに頼むしかないんじゃないの?」
どんなに考えてもそれしか浮かばない。でも、そうするとレンに任務の話をしなければならない。
アサヒもそれしか無いと分かっているのか頭をかいた。
「ミナトー。俺、あいつの囮任務は全く信用できないんだけど。特攻でよくねーか?」
「いや、ヒロは化けるよ。レンばかりに危険な任務をやらせるわけにはいかない。何より今は不安定。情報収集に集中させよう。」
「…ヒロは優しすぎんだよ。どんな人にもいい所はある、って心底思ってそうだよな。…その癖に裏切られたら自分が悪いって落ち込みそうだし」
(確かに)
ミナトはうーん、と目を閉じて唸った。
(でも、相手から好かれる、という点は武器。良い子ちゃんすぎるけど、冷静な部分もある。今回は主旨が分からなかったから)
「武術面はハルの指導だから間違いねーし、特攻でいく。」
アサヒがそう言って席を立つのを、ミナトは止めた。
「あぁ!?もう!しつこいな!」
「ヒロには才能がある。あの子は化ける。頭もいい。自分で自分を守れる。ビジュアルも問題ない。今足りないのは、スキルと経験だけ。」
アサヒはイライラしながらこちらを見た。
「何でそんなにヒロを庇うんだよ」
「庇うんじゃない。事実。アサヒこそ、何でそこまでヒロを使えないと思い続けてるの?」
「っ!!?」
(分かるよ、アサヒ。少し僕も思ったから)
「リツに似てるからでしょ?あの器用さ、頭の回転の速さ、素直さ。…そして、アサヒの強さを肌で感じて怯える勘の良さ。」
「ッ!」
アサヒは目を見開いて固まった。ミナトは微笑んで、座ってと言った。
「リョウタは精神的な面とか雰囲気が似てるけど、実践スタイルはヒロの方が似てるよね。…忠犬だと思ってた人が寝返るのは、予想できなかったもんね。そりゃ警戒するよ」
「あぁ!そうだよ!だから、見ててイラつくんだよ!」
ドカッと腰掛けて、アサヒは下を向いた。
「見た目じゃ分かんねーよ。自信がねぇ。少しでも裏切る要素があるなら、重要なポジションに入れたくねぇんだよ。これ以上ガタつくのはごめんだ。」
アサヒの本音を聞いて、ミナトはアサヒの隣に座って抱きしめた。
「今回は、違うよ。僕らにはハルがいる。ヒロがハルを裏切るわけない。」
「…そうだな」
「ヒロの力は必要だよ。今回はヒロへの指示が抽象的すぎた。僕の責任だよ。不安にさせてごめん。」
ミナトはアサヒの唇にそっとキスをした。驚いているアサヒに笑って、僕もまだまだだね、と言うと強く抱きしめられた。
「ヒロの教育係、サトルからレンに代える」
「うん」
「ヒロには期待したい」
「うん」
「ハル…頼むぞ…」
「うん、そうだね」
眉を下げて、我慢しながらそう言う顔はあまり見たことなくて、ミナトも強く抱きしめた。
(きっとアサヒは、リツにはサキがいたのに、って思ってるんだろうな)
甘えてきたアサヒのしたいようにさせて、ミナトはこれから先のことを必死に考えた。
ーーーー
「サトル」
「なんだ?」
ここ最近、サトルの様子がおかしい。サトルから話してくれるのを待っていたが、しびれを切らした。
「最近何してんの?」
「ヒロの訓練。」
「ヒロって、弘樹のこと?いつの間にそんな仲良くなったの?」
「別に仲良くはない」
珍しいと口を開けたままサトルを見ていると、その顔を見られてクスクス笑われた。
(あ…笑った)
「んー!なんだよ!心配したのに!機嫌いいじゃねーかっ!」
「あ?お前でも人の心配するのか」
「はぁーっ!?超心配するしぃー!?」
「ふふっ、そうだな」
今日のサトルは、よく笑う。笑うけど、分かってるよ。
(俺関連のこと、か。なんだ?弘樹まで動かして?)
サトルは絶対に言わないだろう。誰にでも口が固いから。
(さぁーて。弘樹か、ミナトさんか。どちらに聞こうかねー?)
レンは気付いていないフリをしてサトルに甘えた。
(はぁー。この腕に包まれてると、全部どーでもいいわぁー。)
口が緩んできて、ニヤニヤしていると、顎を取られてキスをした。
「レン、好きだ」
「っ!」
「どこにいても、来世でも、俺の隣はお前だ」
「ーーっ!!?」
「どうした?顔、真っ赤だぞ」
レンは顔が熱くて爆発しそうだった。
「あったりまえだろ!!無自覚デレ野郎が!」
(こんなプロポーズ聞いたことねぇよ!)
サトルの顔を見れなくて、恥ずかしくて嬉しくて、ずっとサトルにしがみついていた。
(俺の男、最高すぎる)
やっぱり口元が緩んでむずむずする。
(あーもう!好き!大好きなんですけど!)
「俺の隣はお前しか許してねーの!今更なんだよ!」
「怒るなよ」
「怒ってなーい!嬉しいんだよバーカ!」
サトルの笑い声にもドキドキして、サトルの匂いを胸いっぱいに嗅いだ。
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