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第119話 恋人と離れた場合

カランコロン… 「ただいま…っ、はぁ、はぁ」  「よぉ、お帰りリョウタ。どーよ久しぶりのロードワーク」  「最高ーっに気持ちいいっ!」  リョウタは大きく伸びをしてハルに笑った。体が軽くて、訓練も楽しさしかない。  「お前本当に特攻向きだったんだなぁ?アサヒさんの見る目はすごいな」  「ニシシ!選んでもらえてよかった!」  「食事係がきついだろ?」  「本当きつかった!ハルさん尊敬!」  目の前に置かれた食事をモグモグ食べて、生き返るような気がした。 「あーのさ、弘樹は大丈夫?」  「大丈夫に見えるのか?毎日泣かされてるよ」  ハルは苦笑いしながら、リョウタの前に座った。  「でも、期待してもらってるみたいだから、応援するしかないよな。」  (ハルさん、弘樹のパパだ)  モグモグしながらそうそんなことを考えて、パパにしては若すぎるか?とかどうでもいいことを考えていた。  「そういやユウヒは?」  「えっ?…あー…一緒に出発したんだけど、先に行っててって。」  「さぼりかー?」  ハルはクスクス笑った後、時計を見た。リョウタが戻ってきてだいぶ時間が経っていた。 「リョウタ!迎えに行け!」  突然の大声に驚いて喉に詰まらせた。背中を叩いてもらって落ち着くと、ハルは焦ったような顔をしていた。  「あいつはすぐ狙われるから!ミナトさんにも報告してくる」  そう言ってハルがエプロンを外したところで、ミナトがペタンペタンとスリッパを鳴らした。  「大丈夫だよー。ユウヒはただのサボり」  「「へ?」」  「今からアサヒが連れ帰るから。」  ミナトは真顔のままそう言うと、ゆっくり席についた。  「ヒロと待ち合わせてたみたいよ?可愛いことするよね?2人。ただ、師匠を選んでやるべきだったね」  カランコロン  ドサッ  「痛ってーーッ!」  「当たり前だろ。蹴ったんだから。お前さ、ヒロの邪魔してぇの?なぁ?」  アサヒがめちゃくちゃ怒っていた。ユウヒは尻餅をついた姿勢のまま下を向いた。  「頑張ってる恋人応援できねーのかって聞いてんだよ!!」  「アサヒ、大声出さないで。ユウヒも分かってるよ」  ミナトはため息を吐いてそのまま見ていた。  「お前さ、レンの本気舐めてんのか?可哀想なんかじゃない。ヒロを見込んであそこまでやってんだ!」  「だって!!毎日辛そうだよ!泣いてばっかりだし!レン兄もいつもより言い方きついし!」  ユウヒが反論するも、大きな目から涙が落ちた。心配なんだ、と泣き始めて、アサヒは怠そうに大きなため息を吐いた。  「…つーか、お前さ。人の心配より自分のことを一生懸命やれよ。サボってんじゃねーよ。」  「いてぇ!」  デコピンされて怒るユウヒに、アサヒは笑った。  「ユウヒ、お前、俺の息子なのにリョウタよりもヒロよりも弱いとは恥ずかしくないの?」  「うっ!!」  「ずっと守られていきていくつもり?」  「うぅっ!!」  「可愛い可愛いユウヒちゃーん」  赤ちゃんをあやすようなアサヒの言葉遣いにユウヒがキレた。  「バカにすんじゃねー!」  「バカにするわ。テストもオール赤点。忘れ物常習犯、サボり魔。おまけに恋人の邪魔。最悪〜」  アサヒはネクタイを外しながらからかい始めた。顔を真っ赤にして無言で怒るユウヒにアサヒは笑った。  「ヒロがサキに惚れた理由、分かるわぁー」  ブチン!  (あ、ブチンって聞こえた!)  「うるさい!!テストで40点とるし!授業も寝ないし!サボったりしない!俺はやればできる子なんだ!!バーカバーカ!」  ユウヒは罵声をアサヒに向けた後、涙を拭いて部屋へ上がっていった。  「ど、どうしたんですか?」  「ユウヒがヒロに無理矢理デートの約束してたんだと。来ないと別れるーってさ。そしたらいっぱいいっぱいのヒロが泣き出してレンもお手上げだったらしい。」  (わーお。ユウヒってば俺様系?)  リョウタは苦笑いしてユウヒの部屋を見つめた。  「ユウヒが寂しいだけさ。まぁイチャつきたい時期なんだろうなーっつってもあいつは何も出来なすぎる!サボるごとにヒロに近づくの禁止令にするから。」  アサヒはジャケットを脱ぎながら残酷なことを言い、鼻歌を歌いながら去っていった。  「ヤダねー。息子で遊んでる」  ミナトはため息を吐いてユウヒのフォローへと向かった。  「サキはリョウタに寂しいとか言わない?」  「んー?聞いたことないよ。サキも自由人だから」  たしかに、とハルは笑った。 サキは5日間不在だった。どうやら単独任務らしい。 (でも、早く会いたいなぁ)  サキを想像してぼんやりすると、ハルにニヤけてるぞと注意された。  (サキ、早く帰ってきて)  ただ無事だけを祈って、リョウタは食べかけの料理に手を伸ばした。  ーーーー  パァン!パン!  「命中。…ミナトさん、終わりました」  『お疲れ様。やっと尻尾を出したね』  「さすがに…待てなくなりそうでした」  『偉いね。今サトルが迎えに来てる。』  「はい」  廃墟の一角で、何日も待機はしんどかった。安心したサキが思うのは、リョウタの顔。  (早く、会いたい)  気が緩んだ自覚があった。  緊張と緩和。  いつもなら油断しない。  でも、神経がすり減っていた。  パン!!  『サキ!どうしたの!』  「ーーっ、ーっ、」  『サトル、西の方向。急いで。敵はまだ見えない。』  『御意』  (リョウタに、会いたい)  そう思ったのを最後に意識が飛んだ。 

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