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第121話 九死に一生

ピッ ピッ ピッ  電子音がなる部屋で、カズキとアイリが忙しなく動く。 「カズキ兄ちゃん、輸血準備できたよ」  「ありがとう!」  レンとミナトから貰ったものでカズキが処置を施す。  (大丈夫!大丈夫!)  ベッドの隣に置かれた銃弾。こんな小さなもので人が生死を彷徨う。  (こんなもの、無くなってしまえ!)  カズキは銃弾を睨みつけながら心の中で悪態をついた。 (急所まであと少しだった…。本当に何センチの差で…。でも、まだ危険な状態)  「サキ!頑張れよ!!」 必死の治療はかなりの時間を要した。  ーーーー  カランコロン  「どうだ、サキは」  「まだ手術中」  アサヒはソファに座るミナトの頭を撫でた。細い腕に注射痕。 「ありがとな」  「当たり前。レンは貧血で寝てる」  「あいつ最近激務だったからなぁ。寝かせてやれ」  アサヒは服を脱いで風呂に向かった。  「…ん?なにこのバッグ。見たことない」  ミナトはそっとそのバッグを開けた。  (…なにこれ。サキの?)  そっと撫でながら、先程のアサヒの音声を思い出す。  (…これを見つけたのか。)  帰ってくるのが遅かったアサヒ。  きっと慎重に持って帰ってきたのだろう。  そして今、風呂に入りながら考えているはず。育ての親に近いアサヒはサキを本当に大事にしている。だからこそ、悩んでいるのだろう。 (サキは喜ぶ?両親を思い出して悲しむ?怒る?どっちかな)  そう思って、医務室を見た。  (どっちでも受け止めるから、サキ、負けないで。)  ミナトは静かに祈った。  ーーーー  「成功!やったよアイリ!」  「カズキ兄ちゃんお疲れさまー!」  数値が安定して、2人で抱き合った。 ハルの作ってくれたおにぎりを食べて笑い合う。  「美味しいね!」  「あぁ!本当に!」  モグモグしながら、サキの寝顔を見た。  顔色は悪いが呼吸も安定している。  「リョウちゃん元気になるかな?」  「なるさ。」  「早く2人が一緒にいるのが見たいね!」  「そうだね」  「アイリね、リョウちゃん大好きだから、リョウちゃんに笑っててほしいの。リョウちゃんが笑うとね、あったかくなるんだよ」  本当に嬉しそうにそう言うアイリの頭を撫でた。頬いっぱいに詰め込んだ姿がリスみたいでカズキはその頬を突きながら笑った。 ドタドタドタドタ… バァン!  「サキ!サキ!」  「「静かに!」」  目を覚ましたリョウタが勢いよく登場して、カズキとアイリがハモった。  2人はふふふ、と笑ったが、リョウタにはサキしか見えていない。  「サキ!サキ!」  「リョウタ落ち着いて。サキは大丈夫だよ」  「本当にっ?本当に?」  「あぁ」  カズキがリョウタの肩を抱くと、大きな目が潤んだ。  「カズキさんっ、アイリ、ありがとうっ」  「「どーいたしまして!」」  リョウタは2人に抱きついて、わんわん泣いた。カズキとアイリは嬉しそうに笑ってその背中を撫でた。  「リョウちゃん、みーんなで助けたんだよ」  「そうか!みーんな!ありがとう!!」  「えっへへ!!」  「ん〜!もう!可愛いなぁ!そんな笑顔」  泣き止んだリョウタはいつもの調子に戻ってアイリを可愛がった。 カズキとアイリが仮眠を取るために医務室を出ると言うと、優しい顔で見送ってくれた。  (うん。たぶん、2人きりになりたいよね)  カズキも微笑んで、リョウタにサキを預けた。  (リョウタの気持ちが落ち着くわけないか) ドアを閉めてしばらく廊下に立ってると、また泣き声が聞こえた。 (リョウタ、分かるよ。だから気が済むまでそばにいてあげて。)  カズキは廊下を後にした。  2時間ほど仮眠をとって医務室に戻ると、リョウタは泣き疲れて眠っていた。リョウタの手には、サキの手が握られていた。 

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