122 / 191
第122話 呼ぶ声
(今日は冷えるな…)
サキが目を開けると、見覚えのある景色。
木造の部屋。日の光が窓から伸びる。
「え?」
ゆっくりベッドから起き上がって窓を見ると、懐かしい白銀の世界。
「なん…で。ここ…?」
(あぁ、走馬灯ってやつか)
部屋を歩き回ってみる。幸せの時のまま、綺麗にされている。たくさんの銃も飾られているし、何より生活感がある。
(ここに…いたんだな、俺は)
いつもの椅子に腰掛けて、サキは笑った。寒い日なのに、温かく感じてきた。ストーブも誰かがつけていてくれた。
キッチンに行くと、たくさんの食材。
まるであの日のまま。
(いっぱい、作ってくれるって言ってたからな…)
「多すぎ…そんなに食べないし」
ふふふと笑って、部屋を歩く。
飾りつけ用の風船が準備されている。
ここは、両親の寝室。ブルーの包装紙がビリビリに裂かれているのを不思議に思う。
(フライングしたんだっけ?)
千切られたリボンを見て、首をかしげた。
「…会いたいなぁ。走馬灯なら、会わせてよ」
鼻がツンと痛むのに、涙は出なかった。
あの日みたいで、あの日みたいに、
部屋の隅っこで座り込んだ。出来るだけ体を小さくして、消えたストーブを睨みながら、静かに息をした。
(あの日のプレイバック。そんなの嫌だ。パパとママに会いたい)
『サキ!』
ふと、聞いたことのある声が聞こえて立ち上がった。
声の主が探せなくて、家中を走り回る。
(どこだ?誰の声?でも、その人に会わなきゃいけない)
『サキ!』
(遠い…?いや、近い。…どこだ!?)
サキは必死になって探した。家のドアから外に出ようとしても開かない。
『俺を置いていかないで!サキ!』
(俺…?)
サキは一瞬立ち止まった。ドアノブを握ったまま、どうしたらいいか分からなかった。すると、窓の外に、人影が見えた。
「パパ!ママ!」
間違いなく両親だ。急いでドアを開けようとしても開かない。何でと焦ってドアを叩く。
両親は窓に近づいて笑った。
『誕生日、おめでとうサキ。愛してるよ』
窓の外なのに、ハッキリと聞こえて涙が溢れた。あの日、言ってもらえなかった、言ってもらうはずだった言葉。
「俺も!俺もだよ、パパママ!」
早く外に出たくてドアを蹴るがびくともしない。
『やっと伝えられたわね。』
『あぁ!良かった。大きくなったなサキ』
『それにプレゼントも、届けられた』
『もう思い残すことはないよ。サキ、幸せになりなさい』
「待ってよ!お願いだよ!」
吹雪が強くなる。姿が見えにくくなっていく。まだ、サキを呼ぶ声が聞こえる。
『サキ、あなたを大切にしてくれる人達の所に戻りなさい。』
「そんなの…いないよ」
『いるぞ。聞こえないのか?サキを呼ぶ声』
その言葉の後から、ハッキリと聞こえた。
「リョウタ!」
思いっきり振り返ったところで、目が覚めた。
「…っ。…?」
ピッ ピッ ピッ
電子音と、消毒液の匂い。
鈍い痛みと、温かい手のひら。
(あ、戻ってこれたのか。)
ぼんやりと視線を彷徨わせて、見慣れた黒髪に触れようと指先を動かした。
ピクッ
「サキッ!?」
突然飛び起きたリョウタが大きな目でこちらを見る。
(やっとリョウタに会えた。)
嬉しくて目だけで笑う。
「何…笑ってんだよ…!!どんなに心配したと…思って…!」
リョウタは言葉を詰まらせて泣いていた。リョウタの声にカズキとアイリが走ってきて、みんながサキを囲んだ。
(大切にしてくれる人達のところに、戻ったよ。パパ、ママ)
ふふっと笑って、サキはもう一度目を閉じた。安堵の空気が心地よくて少し恥ずかしい。
(パパ、ママ。もう俺は大丈夫。)
そう伝えると、頷いてくれた気がした。
ともだちにシェアしよう!

