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第122話 呼ぶ声

(今日は冷えるな…) サキが目を開けると、見覚えのある景色。  木造の部屋。日の光が窓から伸びる。  「え?」 ゆっくりベッドから起き上がって窓を見ると、懐かしい白銀の世界。  「なん…で。ここ…?」  (あぁ、走馬灯ってやつか)  部屋を歩き回ってみる。幸せの時のまま、綺麗にされている。たくさんの銃も飾られているし、何より生活感がある。  (ここに…いたんだな、俺は)  いつもの椅子に腰掛けて、サキは笑った。寒い日なのに、温かく感じてきた。ストーブも誰かがつけていてくれた。 キッチンに行くと、たくさんの食材。 まるであの日のまま。  (いっぱい、作ってくれるって言ってたからな…)  「多すぎ…そんなに食べないし」  ふふふと笑って、部屋を歩く。  飾りつけ用の風船が準備されている。 ここは、両親の寝室。ブルーの包装紙がビリビリに裂かれているのを不思議に思う。  (フライングしたんだっけ?)  千切られたリボンを見て、首をかしげた。  「…会いたいなぁ。走馬灯なら、会わせてよ」  鼻がツンと痛むのに、涙は出なかった。  あの日みたいで、あの日みたいに、  部屋の隅っこで座り込んだ。出来るだけ体を小さくして、消えたストーブを睨みながら、静かに息をした。  (あの日のプレイバック。そんなの嫌だ。パパとママに会いたい)  『サキ!』  ふと、聞いたことのある声が聞こえて立ち上がった。  声の主が探せなくて、家中を走り回る。  (どこだ?誰の声?でも、その人に会わなきゃいけない)  『サキ!』  (遠い…?いや、近い。…どこだ!?)  サキは必死になって探した。家のドアから外に出ようとしても開かない。  『俺を置いていかないで!サキ!』  (俺…?)  サキは一瞬立ち止まった。ドアノブを握ったまま、どうしたらいいか分からなかった。すると、窓の外に、人影が見えた。  「パパ!ママ!」  間違いなく両親だ。急いでドアを開けようとしても開かない。何でと焦ってドアを叩く。  両親は窓に近づいて笑った。  『誕生日、おめでとうサキ。愛してるよ』  窓の外なのに、ハッキリと聞こえて涙が溢れた。あの日、言ってもらえなかった、言ってもらうはずだった言葉。  「俺も!俺もだよ、パパママ!」  早く外に出たくてドアを蹴るがびくともしない。  『やっと伝えられたわね。』  『あぁ!良かった。大きくなったなサキ』  『それにプレゼントも、届けられた』  『もう思い残すことはないよ。サキ、幸せになりなさい』  「待ってよ!お願いだよ!」  吹雪が強くなる。姿が見えにくくなっていく。まだ、サキを呼ぶ声が聞こえる。  『サキ、あなたを大切にしてくれる人達の所に戻りなさい。』  「そんなの…いないよ」  『いるぞ。聞こえないのか?サキを呼ぶ声』  その言葉の後から、ハッキリと聞こえた。  「リョウタ!」  思いっきり振り返ったところで、目が覚めた。 「…っ。…?」  ピッ ピッ ピッ  電子音と、消毒液の匂い。  鈍い痛みと、温かい手のひら。  (あ、戻ってこれたのか。)  ぼんやりと視線を彷徨わせて、見慣れた黒髪に触れようと指先を動かした。  ピクッ  「サキッ!?」  突然飛び起きたリョウタが大きな目でこちらを見る。  (やっとリョウタに会えた。)  嬉しくて目だけで笑う。  「何…笑ってんだよ…!!どんなに心配したと…思って…!」  リョウタは言葉を詰まらせて泣いていた。リョウタの声にカズキとアイリが走ってきて、みんながサキを囲んだ。  (大切にしてくれる人達のところに、戻ったよ。パパ、ママ)  ふふっと笑って、サキはもう一度目を閉じた。安堵の空気が心地よくて少し恥ずかしい。 (パパ、ママ。もう俺は大丈夫。)  そう伝えると、頷いてくれた気がした。 

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