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第124話 守られる人
サキ兄が一命を取り留めて、その日の夜にリョウタが駒を皆殺しにしたと聞いた。
父さんは喜んで話してくれたけど、俺には劣等感だけが募る。
ハル兄には、「思春期はそんなもん」と気にするなと言われたけど、リョウタもヒロもどんどん先へ行ってできることが増えていく。
『一生守られて生きるのか』
ヒロの邪魔した時に、父さんに言われた言葉。分かってる。俺だって、ちゃんと役に立ちたい。アイリは医療や薬の知識が豊富、カズキ兄ちゃんはお医者さん、レン兄さんはヒロの師匠で情報屋、サトル兄ちゃんはボディーガード、サキ兄は狙撃、リョウタは特攻、ハル兄はお母さん、ミナトさんは脳、父さんはボス。
(俺は…ボスの息子ってだけだ…)
自分の出来ることも分からなくて、焦って、でも、ヒロに触りたくてイライラが止まらない。
キーンコーンカーンコーン
(あぁ…また帰らなきゃいけない)
家が憂鬱に感じたのはいつからだろう。
いるのに触れない、話したら触りたい。俺は、ヒロを覚えてしまった。
他の役割なんかどーでもいい、ダメだと言われたら、相手が嫌がっても手に入れたい。
「あー…怖っ。」
自分の衝動が恐ろしくてトボトボ歩いていると、目の前に中3の先輩達がこちらを見ていた。
「桜井、ユウヒってお前か?」
「…はい。そうですが」
「ちょっとツラかせや」
「いえ、急いでいるので」
別に用事もないけど、問題ごとは避けなきゃいけない。
体の大きな先輩たちはヘラヘラして、スイッチを押した。
「ビビッてんじゃね?かわいそー」
「パパでも呼ぶのかー?」
「お前のパパがここらのボスだって噂あるぞ?どーやってホラ吹いたんだ?お前のパパなわけないだろ」
「こんな弱そうなやつ?ウケるー」
ハル兄から問題行動はダメだって言われてた。だからゲームセンターも行かなかったし、寄り道もしなかった。でも
バキィッ!!
(これは、俺のプライドの問題だ)
「こいつ!いきなり…っ」
「わざわざ裏に行く必要ないよ。グラウンドの真ん中で見せてやるよ。」
「調子乗んなよ!クソガキ」
学ランと軽いカバンを投げ捨てて、先輩に向かっていく。
(4人は訓練より楽!)
思ったより簡単に決まることにゾクゾクと奮い立つ。
先輩たちの顔が、ナメてニヤついていたのに、恐怖に変わっていく。
ゾクゾクッ
(あ、何だろうこれ…。ストレスが…解消されていく…)
「ゆーひ」
慣れ親しんだ声にピタリと止まる。
ユウヒをいつも気にかけてくれる親友のシズクだ。身長も高くて大人っぽい。頭もいいし、みんなからは正反対と言われている。
「あらら…どーすんの。先輩のしちゃって…。教室から見えた。もうすぐ先生来ちゃうよ」
「知るか!先輩たちからケンカ売ってきたんだ!」
「買う方がバカでしょー?出停になったらよけい追いつけなくなるよ」
落ち着いた話し方は、どんなに血が上っていても頭にスッと入ってくる。
「過剰正当防衛…ってところで話してみよう。」
シズクは学ランとカバンをユウヒに渡し、校舎を見て、ユウヒの前に立った。
「コラ!お前ら何してんだ!!」
「先生、聞いてくださいよ。下級生相手に同級生達が絡んできたんです。5人がかりですよ?…ユウヒもパニックになって、やり過ぎちゃったみたいです」
ペラペラとシズクが先生に話してくれた。ユウヒが前に出ようとするも、シズクがユウヒを隠す。
「他の生徒からはユウヒがボコっていると証言がある!ユウヒ、どうなんだ!」
「俺は…」
「先生、僕が信じられないんですか?僕は初めから見ていました。僕は先輩たちが怖くてユウヒを助けられなかった…。これは僕の責任でもあります。」
(何で…そんなこと。お前が頭下げる必要ねぇよ!)
またユウヒは短く息を吸うと、頭を下げたシズクの目が鋭くて黙った。
「シズク君のことを疑うわけではないが…。まぁいい。次からはすぐに大人を呼びなさい。こいつらは出停処分にする。」
先生が去っていって、シズクはニコリと笑った。
「イェーイ。楽勝。」
「なん…で!お前が頭下げるんだよ!俺が悪いのに!!」
「悪くないでしょ。絡まれたんだし。怪我は…なさそうだね」
「あんなザコに怪我なんかしない!でも、俺は、シズクに頭下げさせたくなかった!」
ユウヒはシズクに頭を下げた。申し訳ない、と心から思った。頭を大きな手がポンポンと撫でる。
「殺さなかっただけ上出来。あと、頭下げるのなんか、何でもないよ。自分の思った通りに進むなら必要なものは何でも使うだけ。」
長めの前髪を掻き上げて、帰ろうかというシズクに頷いて、やっぱりシズクはすげぇと背の高いシズクを見つめた。
「なーに。そんな熱い視線で見つめないでよ」
「だってさー?お前に何度助けられたか!補習も、今日も!」
「そんなの当たり前でしょ。ほっとけないんだから。」
「へへ!シズクがいて良かったー!」
「本当、僕がいないと何も出来ないんだから」
嫌味に聞こえないのが不思議で、ニシシと笑った。居心地の良さは抜群。何も言わなくても理解してくれて、正反対なのに磁石みたいにいつも一緒にいた。
「じゃあ僕、塾だから。」
「おう!頑張れよ!」
「そのままお返ししまーす」
「あぁ!?」
シズクと帰った日はなんとなく気分が落ち着く。鼻歌を歌いながら歩いていると、見慣れた金髪。
「ヒロ?」
ビクッと肩が跳ねた弘樹は、やぁ偶然、なんてあからさまに動揺していた。
「どうした?今日は指導なかったのか?」
「うん。レンさん貧血気味でお休み」
「そっか。」
並んで家に向かう。
(ん?ヒロは外で何してたんだろ)
話しかけようとヒロを見ると、なんだか思い詰めたような顔をしていた。
(また怒られたのかな?)
「ヒロ」「ユウヒ」
(あ、かぶった)
先にどうぞと慌てるヒロが不思議で、とりあえず訓練の話をした。
「んで、ヒロは?」
「え?あ、っ、えっと!」
「ん?」
「ユウヒに会いたかったから、迎えにきた」
小さい声で言われて、一瞬キョトンとした。
「でも、お友だちさんがいたから…」
「あぁ!シズクっていうんだ!俺の親友!」
「あ、そか…」
「あいつさー、すげーんだよ?成績は学年1位だし、クラス委員長だし、背も高いし、顔も綺麗、運動も出来てパーフェクト!俺とは正反対なのにさ、気が合うんだよ」
「うん、かっこよかったよね」
親友を褒められて、ユウヒはテンションが上がった。今日の話をして、うんうんと聞いてくれるヒロにも喜んでいた。
「俺の隣にはシズクが必要不可欠!シズクがいてよかったー!」
「そっか」
「うん!あーあ。シズクもうちに入ってくれれば最強なのになぁー!俺の力が発揮できる気がするんだよ!」
的確なアドバイスと冷静さ。
(まるでミナトさん、的な存在?)
「ミナトさんとアサヒさんみたいな?」
「ヒロ!いい例えだな!そう…」
ドカッ
急にお腹を殴られてうずくまった。痛みに苦しんでいると、上から冷たい声が降ってきた。
「ユウヒ、振り回すのやめてよ」
「は?!」
「なんでそんなこと言うの!こんな冗談笑えない!」
「ヒロ、なんで怒ってんの」
「ユウヒのバカ!俺よりシズクさんが良いって言われてるみたいじゃんか!俺だって、俺だって…っ!」
泣き出したヒロにおろおろして抱きしめた。
「ごめんヒロ、そんなつもりじゃなくて」
「分かってる…ごめん、ユウヒが我慢してるの、分かってたから…飽きられたかと思っただけ…ごめん。俺には、ユウヒしか、いないんだよ?」
「うん、ごめんなヒロ」
すりすりと頭を預けてくれるヒロに、抑えていた欲がチリチリと復活した。
近くの公園のトイレに入って、必死でキスをした。
「ユウヒ…」
「しっ、声抑えて」
手荒れが酷いからとシズクから貰ったハンドクリームをほとんど使って、ヒロの中を解す。
「ンッ!ーーッ、ーッ」
必死に声を抑えているヒロにドアに手をつかせて後ろ向きにした。ゴムをした熱をゆっくり入れ込むと、ユウヒも声が出そうで慌てて歯を食いしばった。
(きっっつぅ…っ)
ぎゅうぎゅうに締め付けられて、深く息を吐いた。馴染んできたヒロの中をゆっくりと進むと、中がうねり、腰がぬけそうなほど気持ちよかった。同時に吐き出して、何度も何度もキスをした。
「わぁ!もうこんな時間!」
「やっべ!怒られるぞ!」
急いで身支度して、公園を出る。
「ゆーひ?」
「お!シズク!塾終わったのか?」
お疲れーとシズクにハイタッチをする。
「こんばんは。」
「こ、こんばんは」
「ゆーひの友だちのシズクです」
「えっと、ユウヒのお父さんのとこでお世話になってる弘樹です。」
なんだか不穏な空気にユウヒはパチクリと瞬きをした。
「学校では僕がいるんですけど、あとはよろしく頼みますね?」
「も、もちろんです」
ニコリと笑って去っていったシズクを、ヒロは威嚇する犬みたいに唸って睨んでいた。
(合わないみたいだ…)
ユウヒは少し残念に思いながら家路に着いた。
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