124 / 191

第124話 守られる人

サキ兄が一命を取り留めて、その日の夜にリョウタが駒を皆殺しにしたと聞いた。  父さんは喜んで話してくれたけど、俺には劣等感だけが募る。  ハル兄には、「思春期はそんなもん」と気にするなと言われたけど、リョウタもヒロもどんどん先へ行ってできることが増えていく。  『一生守られて生きるのか』  ヒロの邪魔した時に、父さんに言われた言葉。分かってる。俺だって、ちゃんと役に立ちたい。アイリは医療や薬の知識が豊富、カズキ兄ちゃんはお医者さん、レン兄さんはヒロの師匠で情報屋、サトル兄ちゃんはボディーガード、サキ兄は狙撃、リョウタは特攻、ハル兄はお母さん、ミナトさんは脳、父さんはボス。  (俺は…ボスの息子ってだけだ…)  自分の出来ることも分からなくて、焦って、でも、ヒロに触りたくてイライラが止まらない。  キーンコーンカーンコーン  (あぁ…また帰らなきゃいけない)  家が憂鬱に感じたのはいつからだろう。  いるのに触れない、話したら触りたい。俺は、ヒロを覚えてしまった。  他の役割なんかどーでもいい、ダメだと言われたら、相手が嫌がっても手に入れたい。  「あー…怖っ。」  自分の衝動が恐ろしくてトボトボ歩いていると、目の前に中3の先輩達がこちらを見ていた。  「桜井、ユウヒってお前か?」  「…はい。そうですが」  「ちょっとツラかせや」  「いえ、急いでいるので」 別に用事もないけど、問題ごとは避けなきゃいけない。  体の大きな先輩たちはヘラヘラして、スイッチを押した。 「ビビッてんじゃね?かわいそー」  「パパでも呼ぶのかー?」 「お前のパパがここらのボスだって噂あるぞ?どーやってホラ吹いたんだ?お前のパパなわけないだろ」  「こんな弱そうなやつ?ウケるー」  ハル兄から問題行動はダメだって言われてた。だからゲームセンターも行かなかったし、寄り道もしなかった。でも  バキィッ!!  (これは、俺のプライドの問題だ)  「こいつ!いきなり…っ」  「わざわざ裏に行く必要ないよ。グラウンドの真ん中で見せてやるよ。」  「調子乗んなよ!クソガキ」  学ランと軽いカバンを投げ捨てて、先輩に向かっていく。 (4人は訓練より楽!)  思ったより簡単に決まることにゾクゾクと奮い立つ。 先輩たちの顔が、ナメてニヤついていたのに、恐怖に変わっていく。 ゾクゾクッ  (あ、何だろうこれ…。ストレスが…解消されていく…)  「ゆーひ」  慣れ親しんだ声にピタリと止まる。  ユウヒをいつも気にかけてくれる親友のシズクだ。身長も高くて大人っぽい。頭もいいし、みんなからは正反対と言われている。 「あらら…どーすんの。先輩のしちゃって…。教室から見えた。もうすぐ先生来ちゃうよ」  「知るか!先輩たちからケンカ売ってきたんだ!」  「買う方がバカでしょー?出停になったらよけい追いつけなくなるよ」  落ち着いた話し方は、どんなに血が上っていても頭にスッと入ってくる。  「過剰正当防衛…ってところで話してみよう。」  シズクは学ランとカバンをユウヒに渡し、校舎を見て、ユウヒの前に立った。  「コラ!お前ら何してんだ!!」  「先生、聞いてくださいよ。下級生相手に同級生達が絡んできたんです。5人がかりですよ?…ユウヒもパニックになって、やり過ぎちゃったみたいです」  ペラペラとシズクが先生に話してくれた。ユウヒが前に出ようとするも、シズクがユウヒを隠す。  「他の生徒からはユウヒがボコっていると証言がある!ユウヒ、どうなんだ!」  「俺は…」  「先生、僕が信じられないんですか?僕は初めから見ていました。僕は先輩たちが怖くてユウヒを助けられなかった…。これは僕の責任でもあります。」  (何で…そんなこと。お前が頭下げる必要ねぇよ!)  またユウヒは短く息を吸うと、頭を下げたシズクの目が鋭くて黙った。  「シズク君のことを疑うわけではないが…。まぁいい。次からはすぐに大人を呼びなさい。こいつらは出停処分にする。」  先生が去っていって、シズクはニコリと笑った。  「イェーイ。楽勝。」  「なん…で!お前が頭下げるんだよ!俺が悪いのに!!」  「悪くないでしょ。絡まれたんだし。怪我は…なさそうだね」  「あんなザコに怪我なんかしない!でも、俺は、シズクに頭下げさせたくなかった!」  ユウヒはシズクに頭を下げた。申し訳ない、と心から思った。頭を大きな手がポンポンと撫でる。 「殺さなかっただけ上出来。あと、頭下げるのなんか、何でもないよ。自分の思った通りに進むなら必要なものは何でも使うだけ。」  長めの前髪を掻き上げて、帰ろうかというシズクに頷いて、やっぱりシズクはすげぇと背の高いシズクを見つめた。  「なーに。そんな熱い視線で見つめないでよ」  「だってさー?お前に何度助けられたか!補習も、今日も!」  「そんなの当たり前でしょ。ほっとけないんだから。」  「へへ!シズクがいて良かったー!」  「本当、僕がいないと何も出来ないんだから」  嫌味に聞こえないのが不思議で、ニシシと笑った。居心地の良さは抜群。何も言わなくても理解してくれて、正反対なのに磁石みたいにいつも一緒にいた。  「じゃあ僕、塾だから。」  「おう!頑張れよ!」  「そのままお返ししまーす」  「あぁ!?」  シズクと帰った日はなんとなく気分が落ち着く。鼻歌を歌いながら歩いていると、見慣れた金髪。  「ヒロ?」 ビクッと肩が跳ねた弘樹は、やぁ偶然、なんてあからさまに動揺していた。  「どうした?今日は指導なかったのか?」  「うん。レンさん貧血気味でお休み」  「そっか。」  並んで家に向かう。  (ん?ヒロは外で何してたんだろ)  話しかけようとヒロを見ると、なんだか思い詰めたような顔をしていた。  (また怒られたのかな?)  「ヒロ」「ユウヒ」  (あ、かぶった)  先にどうぞと慌てるヒロが不思議で、とりあえず訓練の話をした。  「んで、ヒロは?」  「え?あ、っ、えっと!」  「ん?」  「ユウヒに会いたかったから、迎えにきた」  小さい声で言われて、一瞬キョトンとした。  「でも、お友だちさんがいたから…」  「あぁ!シズクっていうんだ!俺の親友!」  「あ、そか…」  「あいつさー、すげーんだよ?成績は学年1位だし、クラス委員長だし、背も高いし、顔も綺麗、運動も出来てパーフェクト!俺とは正反対なのにさ、気が合うんだよ」  「うん、かっこよかったよね」  親友を褒められて、ユウヒはテンションが上がった。今日の話をして、うんうんと聞いてくれるヒロにも喜んでいた。  「俺の隣にはシズクが必要不可欠!シズクがいてよかったー!」  「そっか」  「うん!あーあ。シズクもうちに入ってくれれば最強なのになぁー!俺の力が発揮できる気がするんだよ!」  的確なアドバイスと冷静さ。 (まるでミナトさん、的な存在?)  「ミナトさんとアサヒさんみたいな?」  「ヒロ!いい例えだな!そう…」  ドカッ  急にお腹を殴られてうずくまった。痛みに苦しんでいると、上から冷たい声が降ってきた。  「ユウヒ、振り回すのやめてよ」  「は?!」  「なんでそんなこと言うの!こんな冗談笑えない!」  「ヒロ、なんで怒ってんの」  「ユウヒのバカ!俺よりシズクさんが良いって言われてるみたいじゃんか!俺だって、俺だって…っ!」  泣き出したヒロにおろおろして抱きしめた。  「ごめんヒロ、そんなつもりじゃなくて」  「分かってる…ごめん、ユウヒが我慢してるの、分かってたから…飽きられたかと思っただけ…ごめん。俺には、ユウヒしか、いないんだよ?」  「うん、ごめんなヒロ」  すりすりと頭を預けてくれるヒロに、抑えていた欲がチリチリと復活した。  近くの公園のトイレに入って、必死でキスをした。  「ユウヒ…」  「しっ、声抑えて」  手荒れが酷いからとシズクから貰ったハンドクリームをほとんど使って、ヒロの中を解す。  「ンッ!ーーッ、ーッ」  必死に声を抑えているヒロにドアに手をつかせて後ろ向きにした。ゴムをした熱をゆっくり入れ込むと、ユウヒも声が出そうで慌てて歯を食いしばった。  (きっっつぅ…っ)  ぎゅうぎゅうに締め付けられて、深く息を吐いた。馴染んできたヒロの中をゆっくりと進むと、中がうねり、腰がぬけそうなほど気持ちよかった。同時に吐き出して、何度も何度もキスをした。  「わぁ!もうこんな時間!」  「やっべ!怒られるぞ!」  急いで身支度して、公園を出る。  「ゆーひ?」  「お!シズク!塾終わったのか?」  お疲れーとシズクにハイタッチをする。 「こんばんは。」  「こ、こんばんは」  「ゆーひの友だちのシズクです」  「えっと、ユウヒのお父さんのとこでお世話になってる弘樹です。」  なんだか不穏な空気にユウヒはパチクリと瞬きをした。  「学校では僕がいるんですけど、あとはよろしく頼みますね?」  「も、もちろんです」  ニコリと笑って去っていったシズクを、ヒロは威嚇する犬みたいに唸って睨んでいた。  (合わないみたいだ…)  ユウヒは少し残念に思いながら家路に着いた。 

ともだちにシェアしよう!