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第125話 守る人
「水無月シズク…。ユウヒの同級生か。」
「はい。幾度となくユウヒの誘拐や暗殺の危機を救っている。子どもながらに勘がいい。でも…」
「出過ぎた…か。」
ミナトとレンは深妙な顔で黙った。
レンは弘樹に休みを出して、ユウヒの護衛に行くように仕向けた。しかし、ユウヒにはこのシズクがピッタリとユウヒを守っていた。
「関係のない一般人を巻き込むわけにはいかない。レンの情報だと明日の放課後だけど、登校時も危ういね。ユウヒを使おう。」
「そうっすね。弘樹も動かします。」
レンはミナトの部屋を出て、ハルが畳んでいたユウヒが借りたシズクの体育着を持ってユウヒの部屋に行った。
「レンちゃんどうしたの?」
「ユウヒは?」
ユウヒは今にも眠りそうだったが、朝一で返せと説教をし、朝、シズクを迎えに行くように指示した。
「厄介だな…」
その呟きはアイリに聞こえたようだったが笑って誤魔化した。
ーーーー
『任務開始します。』
「ヒロ、お願いね」
ユウヒは問題なくシズクの家に着いた。驚いたようなシズクだったが嬉しそうにユウヒの頭を撫で、キョロキョロと周りを警戒した。
(分かってんのか、ユウヒが狙われてること)
レンとミナトは驚いて顔を見合わせた。ユウヒは何も気にすることなく大欠伸をしてリラックスしている。
(俺が奇襲をかけるなら、今)
「ヒロ!」
『はい!』
複数の男達が何処からともなく現れて、シズクとユウヒの前に弘樹が出た。
『ヒロ!?』
『ユウヒ、任務だ。絶対にシズクさんを守れ』
シズクは一瞬青ざめた顔をしたが、意味を理解したのかフワリと笑った。
『ゆーひ、僕は大丈夫だから先に行きな』
『シズク!何言ってんだ!』
『僕を狙うのは、本丸はゆーひだから。僕が最悪怪我してもゆーひが助かればそれでいい』
ゆっくりとカバンを下ろすシズク。肝が据わっている。
「へー?ユウヒの友だち?」
アサヒが割り込んできてモニターを見た。
『僕は、絶対にゆーひを守る』
何も知らない一般人が、何かを察してユウヒを気遣い、そばにいて、危険を冒してでも守ると、そうハッキリ言い切った。
『なら!自分で無傷で耐えてみて!』
弘樹は敵に飛び掛かりながらそう言った。その動きにシズクは目を見開いた。3人ほど倒した後で、弘樹はシズクとユウヒを見た。
『しゃがんで!!』
ユウヒがシズクの腕を引っ張ると、スレスレのところで銃弾が通った。
「ガキ潰しに銃かよ。武器まで使うなら俺が行く。」
「待って。」
「あ?」
「大丈夫。」
ミナトはモニターを見たまま笑う。立ち尽くす弘樹。そして、バタバタと敵を倒すのはユウヒだった。
塀の上に軽く登ったかと思うと狙撃した敵を蹴り上げ突き落とす。そして銃を構えた。
『ゆーひ!!』
ビクッとユウヒが固まった。
地面に落ちた敵は泡を吹いていた。
「おお!ユウヒやるな」
アサヒはニヤニヤしてモニターを見た。
シズクはユウヒから銃を取って、それを弘樹に渡した。
『守っていただき、ありがとうございます』
『え、あ、いや…』
『任務ですよね。それでも助けられたのは事実です。あなたがいて良かった。ゆーひに傷一つない。ありがとうございます。』
お礼はユウヒの無傷のことだった。
(あ、ヤバい。これはアサヒさんが…)
「……いいな。こいつ。」
「アサヒ、一般人の子どもを巻き込まない」
「忠誠心、礼儀、冷静さ、今から育てたらレンやサトルみたいになれる。」
「アサヒ、一般人だってば!家族もいる。」
アサヒは今まで行き場のない子どもに居場所として雇っていた。しかしシズクはごく普通の家庭の長男。未来ある子なのだ。
「それは、この…シズク?が決めることだ」
「アサヒ!」
「本気で命をかけてるから、ユウヒもそれに応えたんだ。ユウヒにはシズクが必要だ」
アサヒはスカウトするかぁ〜と伸びをした後、ネクタイを整えると会社へ行ってしまった。
「ど、どうしようミナトさん!」
「アサヒが諦めるか、飽きるのを待つしかないよ。欲しいものを手に入れるためには相当頑張るからね。サキも、ハルも大変だったんだから。」
ミナトは呆れてため息を吐いた。
「あの子は…レンとサトルに似てる。いつか家族を巻き込むかもしれない。」
「……でも、俺みたいなパターンかもしれませんよ」
「……レンは例外中の例外でしょ」
「そーっすか?入れてもらうために結構頑張りましたよ?アサヒさんの目にどう映るかってさ。」
「ビックリしたよ、結構な家柄捨てるなんて。」
ミナトがレンに向けて笑った。
「でも、レンがいてくれて良かった」
「嬉しいっす!!あざっす!」
「あの子がユウヒのために命をかけてるのは、誰が見ても分かる。アサヒが気にいるはずだよ。正直言えば、僕も欲しい。」
その言葉にレンがニコリと笑って、楽しみですねと笑った。
ーーー
2人を学校に送り届けて、弘樹は門の前で座り込んだ。
(シズクさんに勝てないかもしれない…)
どこまでもユウヒ優先。それが当然のように。
(取られたくないっ!絶対に!)
弘樹は頬を強く打って気合いを入れた。
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