134 / 191

第134話 師匠の仕事

リョウタの久しぶりの任務は、レンの情報収集後に回収すること。高級ホテルの一室で、見事にターゲットを落としたレンは仕上げに入っていた。 『ンッ、ンッ!ーーッ!』  『イきそう?いいよ、可愛い顔見せて』  『ンッ…ッ!…ッぁ、ッ!』  『ほら、逃げないの。ココ、でしょ?』  『あっ!?あ、っ!ァア!!ーーッア!!』  ガクガクと跳ねて、脱力するレンが、ターゲットに優しく抱き止められる。リョウタは顔を真っ赤にしてモニターを見るが、サトルは真顔のままだ。 『大丈夫かい?』  『んぅ…。』  レンから舌を出して誘い、濃厚なキスが始まる。サトルは時計を見た。  「情報は取れた。あとはレンの回収だが…様子がおかしいな。」  「え?そうなんですか?」  「あぁ。違和感がある。ミナトさん、レンはまだ今後も潜入続きますよね」  『うん…。そうだね、もう自分から切り上げそうだけど、たしかにおかしい』  ミナトも何か考えているようだった。レンがしているインカムにミナトが呼びかけるが返答はなく、夢中になっている。  今後も続く関係なら、突入して不信感を与えることはできない。  『ヒロ、行ける?』  『はい!』  ホテルマンに扮した弘樹は、レンの部屋の隣で待機していた。ただの案内係という任務だったが、ターゲットに近付くことに切り替わり、リョウタは弘樹の護衛として、近くに移動した。弘樹はレンが用意したたくさんの小道具を見てしばらく考え、よし、と部屋を出た。 コンコン  「ルームサービスです。」  弘樹がそう言い、サトルはモニターを見る。ターゲットの男が微笑み、レンの頭を撫でて寝かせた。ターゲットと離れたのに、くたりとベッドに横たわったままのレン。  「ミナトさん」  『うん。レンに何か仕込まれたね。弘樹が上手く中に入れたらいいけど。』  ガチャ  「ルームサービスって頼んだかな?」  「はい。えーっと、柿本様のお誕生日だから用意するように、と。こちらで間違いないでしょうか?」  弘樹はもしもの時にと、レンに頼まれていた薔薇の花とメッセージカード、そしてシャンパンやケーキの乗ったカートを見せた。  「え…?」  「なんでも、大切な人へのサプライズに、と。依頼した阿部様はご一緒ですか?」  阿部とはレンのミッションネーム。  ターゲットの柿本は顔を真っ赤にして嬉しそうに目を逸らした。  「あぁ…先に酔いつぶれてしまって…。」  「お部屋でセッティングしても?阿部様よりサービス料をいただいておりますので。」  「あぁ、頼むよ」  (よっし!潜入成功!!) リョウタもサトルもミナトも弘樹の動きに驚いた。弘樹は、あくまでホテルのルームサービスというスタンスを崩さなかった。飾りつけをし、部屋を見渡した。  「プレゼントは…いかがいたしましょう?阿部様が直接お渡ししたいと仰っておりましたが…」  「…本人を呼ぼう」  ターゲットは余程嬉しかったのか、レンを呼びに行った。その間に、弘樹はインカムに情報を伝えた。  「寝室からすごい重たい香りがします。ずっといたら思考が鈍るような。とても甘い匂いです。」  『そう。部屋から出たらレンも冷静になれるかも。ヒロ引き続きよろしく。』  寝室から出てきたレンは、バスローブを着せられて、歩くのもしんどそうだった。レンは弘樹を見た瞬間、ニヤリと口角だけあげた。  「阿部様、こちらでよろしいでしょうか」  「…あのさぁ、俺、シャンパンじゃなくて誕生年のワインだって言ったんだけど?」  レンは入れられたシャンパンをグイッと飲み、弘樹を見た。  「今すぐ持ってこい」  「大変失礼いたしました。すぐにお持ちいたします。」  弘樹は深々と頭を下げて、部屋を出た。  (良かった、レンさん元に戻った)  モニターのレンは薔薇の花束を抱えて深呼吸していた。その後、笑顔でターゲットに渡し、濃厚なキスをしていた。  弘樹はこれもレンが用意していたワインのラベルを貼って、瓶を開けた。  (えっと、味が変わらない量…)  サラサラと睡眠薬を混ぜた。レンの耐性がある睡眠薬。寝ている間にレンの回収にかける。  『ヒロ、いいよ。今行こう』  「はい!」  ワインとプレゼントを持って、またノックをした。 「おせぇよ」  「申し訳ありません。」  レンはワインとプレゼントを受け取ると、弘樹に囁いた。  「吐きそうだから、10分後に来てって言って」  え?っと顔を上げると、レンはニコリと笑って、振り返った。  「柿本さんっ!誕生日おめでとうございます!」  笑顔でターゲットにワインを注ぎ、プレゼントも開けて、と甘える。  弘樹はレンの演技に目を見開いた。出て、とミナトからの指示に、お辞儀をして部屋を出た。  隣の部屋に戻り、急いで片付けを始める。リョウタも部屋に来て荷物を運んだ。  「リョウちゃん、レンさん、すごい」  「うん、すごいよな。俺にはできない」  「2回目に俺が来た時にね、吐きそうだと言ったんだよ…たぶん、あの香りでもう思考もままならないはずなのに…そのままの演技で」  リョウタは弘樹を見た。  弘樹は、レンさんみたいになりたい!と笑った。 10分後にサトルとリョウタが部屋に入ると、2人は倒れたように眠っていた。弘樹が用意したメモをリョウタがテーブルに置いて、レンの回収に成功した。  目を覚ましたレンは何度も嘔吐をして、サトルに泣きながらしがみついた。リョウタは眉を下げてレンの背中を撫でることしかできなかった。  「ヒロ、ありがとう。お前がいて助かった」  「いえ!全部レンさんから事前に聞いていたとおりに動いただけです!」  「聞いていてもその通りにやるのは難しい。よくやった。」  サトルが弘樹にお礼を言うと、弘樹はハイ!と笑った。リョウタは弘樹が一気に伸びそうな気がして、負けねぇと気合いを入れた。 

ともだちにシェアしよう!