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第134話 師匠の仕事
リョウタの久しぶりの任務は、レンの情報収集後に回収すること。高級ホテルの一室で、見事にターゲットを落としたレンは仕上げに入っていた。
『ンッ、ンッ!ーーッ!』
『イきそう?いいよ、可愛い顔見せて』
『ンッ…ッ!…ッぁ、ッ!』
『ほら、逃げないの。ココ、でしょ?』
『あっ!?あ、っ!ァア!!ーーッア!!』
ガクガクと跳ねて、脱力するレンが、ターゲットに優しく抱き止められる。リョウタは顔を真っ赤にしてモニターを見るが、サトルは真顔のままだ。
『大丈夫かい?』
『んぅ…。』
レンから舌を出して誘い、濃厚なキスが始まる。サトルは時計を見た。
「情報は取れた。あとはレンの回収だが…様子がおかしいな。」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。違和感がある。ミナトさん、レンはまだ今後も潜入続きますよね」
『うん…。そうだね、もう自分から切り上げそうだけど、たしかにおかしい』
ミナトも何か考えているようだった。レンがしているインカムにミナトが呼びかけるが返答はなく、夢中になっている。
今後も続く関係なら、突入して不信感を与えることはできない。
『ヒロ、行ける?』
『はい!』
ホテルマンに扮した弘樹は、レンの部屋の隣で待機していた。ただの案内係という任務だったが、ターゲットに近付くことに切り替わり、リョウタは弘樹の護衛として、近くに移動した。弘樹はレンが用意したたくさんの小道具を見てしばらく考え、よし、と部屋を出た。
コンコン
「ルームサービスです。」
弘樹がそう言い、サトルはモニターを見る。ターゲットの男が微笑み、レンの頭を撫でて寝かせた。ターゲットと離れたのに、くたりとベッドに横たわったままのレン。
「ミナトさん」
『うん。レンに何か仕込まれたね。弘樹が上手く中に入れたらいいけど。』
ガチャ
「ルームサービスって頼んだかな?」
「はい。えーっと、柿本様のお誕生日だから用意するように、と。こちらで間違いないでしょうか?」
弘樹はもしもの時にと、レンに頼まれていた薔薇の花とメッセージカード、そしてシャンパンやケーキの乗ったカートを見せた。
「え…?」
「なんでも、大切な人へのサプライズに、と。依頼した阿部様はご一緒ですか?」
阿部とはレンのミッションネーム。
ターゲットの柿本は顔を真っ赤にして嬉しそうに目を逸らした。
「あぁ…先に酔いつぶれてしまって…。」
「お部屋でセッティングしても?阿部様よりサービス料をいただいておりますので。」
「あぁ、頼むよ」
(よっし!潜入成功!!)
リョウタもサトルもミナトも弘樹の動きに驚いた。弘樹は、あくまでホテルのルームサービスというスタンスを崩さなかった。飾りつけをし、部屋を見渡した。
「プレゼントは…いかがいたしましょう?阿部様が直接お渡ししたいと仰っておりましたが…」
「…本人を呼ぼう」
ターゲットは余程嬉しかったのか、レンを呼びに行った。その間に、弘樹はインカムに情報を伝えた。
「寝室からすごい重たい香りがします。ずっといたら思考が鈍るような。とても甘い匂いです。」
『そう。部屋から出たらレンも冷静になれるかも。ヒロ引き続きよろしく。』
寝室から出てきたレンは、バスローブを着せられて、歩くのもしんどそうだった。レンは弘樹を見た瞬間、ニヤリと口角だけあげた。
「阿部様、こちらでよろしいでしょうか」
「…あのさぁ、俺、シャンパンじゃなくて誕生年のワインだって言ったんだけど?」
レンは入れられたシャンパンをグイッと飲み、弘樹を見た。
「今すぐ持ってこい」
「大変失礼いたしました。すぐにお持ちいたします。」
弘樹は深々と頭を下げて、部屋を出た。
(良かった、レンさん元に戻った)
モニターのレンは薔薇の花束を抱えて深呼吸していた。その後、笑顔でターゲットに渡し、濃厚なキスをしていた。
弘樹はこれもレンが用意していたワインのラベルを貼って、瓶を開けた。
(えっと、味が変わらない量…)
サラサラと睡眠薬を混ぜた。レンの耐性がある睡眠薬。寝ている間にレンの回収にかける。
『ヒロ、いいよ。今行こう』
「はい!」
ワインとプレゼントを持って、またノックをした。
「おせぇよ」
「申し訳ありません。」
レンはワインとプレゼントを受け取ると、弘樹に囁いた。
「吐きそうだから、10分後に来てって言って」
え?っと顔を上げると、レンはニコリと笑って、振り返った。
「柿本さんっ!誕生日おめでとうございます!」
笑顔でターゲットにワインを注ぎ、プレゼントも開けて、と甘える。
弘樹はレンの演技に目を見開いた。出て、とミナトからの指示に、お辞儀をして部屋を出た。
隣の部屋に戻り、急いで片付けを始める。リョウタも部屋に来て荷物を運んだ。
「リョウちゃん、レンさん、すごい」
「うん、すごいよな。俺にはできない」
「2回目に俺が来た時にね、吐きそうだと言ったんだよ…たぶん、あの香りでもう思考もままならないはずなのに…そのままの演技で」
リョウタは弘樹を見た。
弘樹は、レンさんみたいになりたい!と笑った。
10分後にサトルとリョウタが部屋に入ると、2人は倒れたように眠っていた。弘樹が用意したメモをリョウタがテーブルに置いて、レンの回収に成功した。
目を覚ましたレンは何度も嘔吐をして、サトルに泣きながらしがみついた。リョウタは眉を下げてレンの背中を撫でることしかできなかった。
「ヒロ、ありがとう。お前がいて助かった」
「いえ!全部レンさんから事前に聞いていたとおりに動いただけです!」
「聞いていてもその通りにやるのは難しい。よくやった。」
サトルが弘樹にお礼を言うと、弘樹はハイ!と笑った。リョウタは弘樹が一気に伸びそうな気がして、負けねぇと気合いを入れた。
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