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第136話 『最強』

「お父さん、最近視線を感じるの」  アイリからの相談に、アサヒとミナトは目を合わせた。  「どんな視線?いつ感じる?」  アサヒはアイリに目を合わせるように屈んだ。ミナトは何でもないように髪を乾かしながら耳を澄ませていた。  「学校行く時と、帰り…あと、運動場にいる時とか、体育館とか…。たまに、図書室も」  「外だけじゃないのか」  「うん。先生にも相談したけど、調べてみるってばかりなの。なんかね、怖い視線なの」  アイリはサキや弘樹のことで、みんながバタついていたから我慢していたと俯いた。 「ばか。そんな気遣いいらないよ。アイリになんかあってからじゃ遅いだろ?でも話してくれてありがとう」  「うん。…でもアイリ、学校嫌いだから、こんなこと言ってるんじゃないよ?」  「わーかってるよ!誰もそんなこと思ってない。明日からは父さんとか、みんなで学校行こうな」  アイリは花が咲いたように笑ってアサヒに抱きついた。そこでミナトとアサヒは目を合わせ、ミナトは頷いて部屋を出た。  (もうアイリが特定された。…レンの情報通りだな。)  アサヒはアイリが安心するまで抱きしめて、眠たいと言えばミナトを部屋に戻して、アイリの添い寝を頼んだ。  「全員集合」  アサヒが合図を出すと、アイリとミナト以外全員がリビングに集合した。  「あれ、ミナトさんは?」  「アイリ任せてる。いいかお前ら、最重要任務が始まる」  全員が息を飲んだ。アサヒがレンに目配せすると頷いて、レンは口を開いた。 「端的に言うと、アイリの命が狙われてる。」  「「え!?」」  ユウヒとリョウタは声を上げたが、サキと弘樹がそれを静めた。  「とある製薬会社の重役と繋がった。過去に桜井テンカ一派に情報を漏らした奴の末裔まで殺傷。残るは、桜井テンカ一派のみ。重役はアサヒさんの母、そして妹のマヒルさんまでで、途絶えていたらしい。けど、その後の情報が流れた」  「親父の指示でわざと情報を漏らしたんだ。俺に、アイリを守りたいなら渡せと言ってきた。」  「「っ!」」  「アイリの知識は親父に渡してはダメだ。だから、全力でアイリを守れ。たとえ、誰かの命がなくなっても、だ。」  全員が息を飲んだ。  桜井テンカは製薬会社に情報を流し、裏切られたという形をとって、同盟を組んだ。そして製薬会社は桜井テンカ一派の後ろ楯があり、何をしてくるか分からない状況だった。  「危険な任務になる。もちろん、俺がいなくなる場合もある。…万が一の場合は、もう既に指示はしてある。分かってんな?」  「「「はい」」」  レンとサトルとハルが返事をした。カズキは驚いたようにハルを見た。ハルはカズキと目を合わせないままだった。  「そこで、ユウヒの親友のシズクにも入ってもらう。今回はミナトの右腕だ。現場には出ない」  「っ!?アサヒさん、さすがに…」  レンが慌てて口を挟む。ユウヒも唖然としていた。  「あいつの覚悟は本物だ。ミナトの隣ってのは機密情報もあるし、ガキに直接判断をさせるわけじゃない。ただ、特に仲間に情がないやつの存在が必要な場合がある」  「どういう…」  「仲間が足を引っ張った時に、冷静に切る必要がある。アイリとその他を天秤にかけた時、迷わずアイリを取れる奴が必要だ。」  アサヒの強い眼差しにレンも黙った。  「シズクには、ユウヒとアイリが助かる方法だけを考えろと言っている。」  「なんっで!何で俺だけまた守られるんだよ!俺だって…」  「お前に、繋いで欲しいからだ。」  「っ!」  「お前には、簡単に捨てていい命はない。お前が生きることはみんなを守ることに繋がる。みんなを助けたいなら、黙ってろ。」  ユウヒは泣きそうな顔で俯いて、歯をギリギリと鳴らした。  「明日からアイリの登校には俺が、日中の監視はサキ、下校はヒロとリョウタの2人体制。レンとサトルは引き続き情報収集、何かあればすぐにミナトに伝えろ。ユウヒはシズクと行動。ハルとカズキはここを頼む。」  全員が返事をして、異様な空気のまま解散になった。 まだ座ったままのユウヒの隣に腰掛け、アサヒは強く握られた拳を包んだ。  「泣くなよ。不安にさせたな」  「死ぬみたいな、言い方しないでよ」  「ごめん」  「怖いよ、いなくなっちゃヤダよ」  「…大丈夫だ。」  「父さんは最強なんでしょ!?俺もアイリも、父さんが守ってよ!」  約束できなくてユウヒを抱きしめた。アサヒにはこの間、テンカに及ばなかった記憶が残っていた。  「俺が守るよ」  「父さんが生きて戻らないと、守ったって認めないから!守るって約束!絶対だよ!」  「あぁ、分かった」  「俺も、父さんもアイリも守るから!」  ユウヒは涙を乱暴に拭って、アサヒに宣言した。  「だから!最初から負けそうみたいな顔すんなよ!ここのボスは最強なんだから!最強の顔しろよ!!」  大声で怒鳴られて、アサヒはキョトンとした。大声に驚いたのか、ドアを開けて、部屋に戻ったメンバーがこちらを見ていた。  「うちのボスは桜井アサヒだ!!誰にも負けない!!最強なんだ!!」  ユウヒが泣きながら叫ぶと、リョウタがそーだそーだ!!と笑顔で拳を突き上げた。  「なーに不安になってんすか?アサヒさん」  「珍しいですね。ぶっ潰すとか言いそうでしたが。」  「アサヒさんが強いの分かってるからあの条件飲んだんだ。俺は美味しいの作って待ってますよ」  「まぁ…多少の怪我は任せてください。輸血とかは準備しときます。」  「アサヒさんが弱気…。明日は大雪かな」  「アサヒさんに認められるように、俺だって頑張りますから見てて下さい!!」  「特攻の俺が、大ダメージ喰らわしてやりますよ!!」  メンバーがニコニコで声をかけてくれた。だいぶビビッてたようで恥ずかしくなったと同時に頼もしくもあった。  「お前らいつからそんな頼れる存在になったの?」  苦笑いして言うと、全員が弱気なアサヒをいじってきた。ユウヒは安心したのかいつの間にか笑顔になっていた。  (お前ら、ありがとうな。)  パシン!!  アサヒは両頬を叩いて、全員を見た。  「だせぇとこ見せて悪かった。ボスの働き見せてやるよ」  アサヒはニッと笑うと全員が笑顔で頷いた。  「よっしゃ!!気合い入れてかかれ!」  「うりゃぁあああ!」  「リョウタうるさい!アイリが起きる!」  「あ、すみません。」  レンに叱られたリョウタはしゅん、と落ち込んだ。みんながクスクス笑って、明日に備えた。  「父さん、寝よ」  「あぁ」  「父さん、大好きだよ」  「…俺もだよ」  やっぱり不安そうなユウヒに心の中で謝って、改めて気合いを入れ直した。 

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