137 / 191

第137話 護衛

アイリの護衛を始めて1週間。  突然事態が動いた。  移動教室に、日直のアイリが1人で戸締りした時だった。  「アイリ!」  「サキ兄ちゃん!!」  一瞬だった。なんとかサキがアイリの手を掴み、引き寄せた。  「なんだ…こいつ。」  「お前こそ、部外者が何してる」  若い男だ。リョウタと同じくらいの若さ。先生風の服装で装ったそいつとサキと睨み合う。 「ケン先生…?どうして?」  「せ、先生?」  アイリの言葉にサキが驚いてそいつを見た。  「うん、大学生で…教育実習だって…」  「アイリさん、その人は部外者だよ?ほら危ないからこちらへおいで。」  「サキ兄…っ」  ぎゅっとアイリはサキの服を掴んだ。冷や汗いっぱいでガタガタ震えている。  爽やかな笑顔で笑うこのセンセイは変だ。  「俺のイメージする先生ってのは、まず生徒を守るはずだ」  「そう。僕の仕事だ。だからほら、おいで」  「生徒が危険であれば、そんな悠長なこと言わない。」  「…煽るなよ。力づくで来いってか?」  ネクタイを緩めてニヤリと笑う。  レンと近い、潜入センス。肝が据わった目。煽りにも動じない態度にサキも冷や汗を流す。  (アイリを守りながら…穏便に…)  「いいのか?ここで大事になれば、罰されるのは君の方だ。アイリさんの保護者でもない君は不審者以外何者でもない」  「そうかい。ならアイリはもう早退だ。行くぞ」  アイリの手を引くと、いつの間に隣に来たのか腕を取られた。  「先生は生徒を守るもの。実行させてもらうよ?」  「くっ!」  ギリギリと手首に圧がかかる。  (こいつ!潜入だけじゃないのか!)  「怪しい不審者から生徒を守らなきゃね?」 「くっ…っ!」  「サキ兄ちゃん!」  カツンカツン… 「何事ですか?」  聞き覚えのある声に振り返る。白衣を着たレンに目を見開く。  「ケン先生、どうしました?」  「あ、あの、部外者が。」  「不審者に1人で対応は厳禁です。生徒の安全のためにこれは基本。熱くなる前に主任を呼んできなさい。」  「でも、僕と上崎先生がいれば…」  先に潜入していたのか、レンがサキの味方だとは気付いていないようだ。レンはケンに近付き、ケンの手を取った。  「アイリに手ぇ出すな。」  「っ!?」  「いいか。潜入してんのはお前だけじゃないのは分かってる。この時期の教育実習はあり得ない。4人だな。」  「っ!!」  レンはニヤリと笑ってケンを見た。  「バレるとバラすは違うよな?さぁどうする?バレてるってことは、もう先回りされてんぞ?」  ガタガタと震えたケンに、レンはさらに意地悪な笑顔で隣にあった非常ベルを叩いた。  ジリリリー!!!!!  「サキ!アイリを連れてリョウタとヒロと合流しろ!」  指示に頷くと、レンはアイリを追おうとしたケンの服を掴んだ。  「逃がさねぇよ?ケン先生?」  非常ベルに駆けつけたのは、サトルだった。  「佐藤先生、指導教官なのに管理できてないですね。チョロチョロ自由に動いてますけど」  「子どもたちにつかまってたんだよ。全く…小学校は苦手だ…算数の何が難しいんだ」  不機嫌なサトルはケンを見て、物凄い圧でついて来いと言い、去っていった。  (2人とも…いつから?)  「アイリ、知ってたのか?」  「全然知らなかった…ビックリ…」  サキとアイリはぽかんと口を開けてしばらく固まった。 「おら、何してんだ。さっさと行け」  振り返ったレンに怒られて2人はいそいそと学校を抜け出した。 

ともだちにシェアしよう!