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第140話 対峙

ドクン ドクン  やけに静かに感じる。  後頭部にある感触。いつも触っているから分かる。引き金を引く音が聞こえた。  (あぁ、それから何秒だっけ)  『サキ兄!!!』  ユウヒの声が、聞こえた気がした。静かだった時が動き出して、たくさんの情報が一気に頭を駆け巡る。  (近距離用じゃない。これなら)  パァン!!  「お?動けるんだ?意外〜」  「動けるわけじゃないですよ」  距離を取って、近距離用の銃を構えて息を止めた。ヘラヘラしている標的と照準をあわせる。 (いける!) パンパァン!  「うっはー!ギリギリッ!おぉ、怖い」  「ちッ!」  「前は兄さんに邪魔されたもんねぇ?今後悔してる?あの時殺しておけばってね?それはね、きっと兄さんが痛いほど思ってるよ」  「…よく喋るな」  ぴょんぴょん動くシンヤを目だけで追う。  (まだだ、まだ。引きつけてから)  「んー!やっぱりつまんない!お前は面白くないよ!チビちゃんはドコ?」  ブチン!!  焦点を無理矢理合わせて引き金を引いた。シンヤの頬を掠めて、シンヤは頬を触ってニヤついた。血をペロリと舐めたあとこちらを見た。 「…りっちゃんの次はあの特攻か。熱烈な告白だったよねぇ?」  「…」  頭がクリアだった。挑発にも乗るつもりはない。でも、身体がシンヤを殺したくて疼く。  『リョウタ、流れ弾注意』  『了解です!』 この声を聞いて、ハッと顔を上げると、リョウタがシンヤに飛びかかる。シンヤの長い髪を捕まえて思いっきり殴った。  「リョウタ…ッ」  「サキ!お前はアサヒさんのとこ!!早く!」  「リョウタは」  「ここはいいから!アサヒさんは先に行かなきゃ行けないから!!」  リョウタの大声に頷いて走った。 『サキ、アサヒのところまで300m…リツのこと大丈夫?』  「はい、大丈夫です」  『アサヒが覚醒する前に代わって。冷静じゃないから。』  「はい」 サキは弾を込めて走った。  リツがいる場所に、アサヒがいる。  目的の場所に着き、壁に隠れて様子を見る。  「っ!!」  倒れ込んだリツと、それを見るアサヒ。  「やっとお前を殺せる。お前も本望だろ」  「ア…サヒ…さん」  「左腕が使えない状態のくせによく現場に出てるな」  「…っ、…っ、」  リツの左腕は、サキがあの日に撃ったものだった。  (後遺症になっていたのか…)  「利き腕残すのは甘いな。あいつは」  パァン!!  「っ!!」  「なぁリツ?俺はさ、お前を許してやれねーんだわ。どのツラ下げて俺の前にいるの?」  「俺…は、…っ、」  涙を流すリツに、身体が動きそうになる。頭を振って歯を食いしばる。  「アサヒさん…が、好き…っ、でした」  (過去形…?)  サキは目を見開いた。 リツはニッと笑って、腹筋だけで立ち上がり、アサヒを見た。  「俺も、進む。俺はもう1人じゃない」  「は?ここで終わんだよ」  「終わらない!!あんたを超えていく!」  リツは緩慢な左腕を無理矢理上げて、銃を取った。 『サキ、アサヒと代わって』 ミナトの声にハッとしてアサヒの前に出た。瞳が真っ赤でゾクっとする。  「どけ。こいつは俺が殺す」  『アサヒ。やるべきことを忘れないで。アイリ優先』  「…サキ、必ず始末しろ」  アサヒはギロリと睨み、先へ向かった。  「はっ…はっ…」  リツはもう気力だけで立っているようだ。目が虚でふらついている。  「さよなら、リツさん。」  「うん。バイバイ」  ふわりと笑うリツに、サキも笑った。 

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