142 / 191

第142話 裏切り

リツを撃ち抜く瞬間に、恐ろしい殺気を感じて振り返ると、シンヤがそこにいた。 そこへ向けて思わず銃を撃った。軽く躱されたのを見て、サキは短く息を吸い、距離を取ろうとしたが、異変に気付く。  (シンヤは俺を狙っていない…?)  シンヤの目はリツに向かっている。意味が分からなくて、どちらに銃を向けていいのか迷った。  「シンヤ…さん…?」  「あぁ可哀想なりっちゃん。楽にしてあげるね」  「はっ?」  思わずサキは声に出した。そして身体が動いた。  「邪魔しないでよ、元彼さん」  「何のつもりだ…こんな瀕死の仲間を」  「え?苦しそうだから楽にしなきゃって」  ニコニコ笑っているが氷のような笑顔だ。 「あぁ…そういうこと…」  リツはサキの後ろでクスクス笑って、フラフラと立ち上がった。  「理解が早いね。裏切り者のりっちゃんはもうどこにも居場所がないの。どうだった?兄さんと同じ顔!遺伝子!疑似恋愛みたいでよかったでしょう?…兄さんを超えちゃったみたいだけど。」  「…なんなんだよ…何の話を…」  サキは混乱したままニヤつくシンヤを見るだけだった。  「簡単だったよ。りっちゃんを落とすの。」  「っ!?」  「幸せだったでしょ?」  リツは床に落ちた自分の銃を取って、ゆっくりとシンヤに歩いていく。  「うん。幸せだった」  「…」  「良かった。最後が、シンヤさんで。もう、会えないかもって、思ったから。」  リツは震える手で、固まっているシンヤの手を取って、銃を握らせた。  「俺、もう、生きるの、疲れちゃった」  泣きながら笑うリツに、シンヤの目が見開く。リツはありがとう、と笑って目を閉じる。  ザリッ  足音がしてサキが振り向く頃には3人倒れていた。  「シンヤさん!なんで!!そんな事したら」  リツが怒鳴る。リツが渡した銃は煙を上げていた。倒れているのは、桜井テンカの部下。シンヤは仲間を殺したのだ。  「何で、は…こっちのセリフだよ…りっちゃん」  シンヤは銃を落としてリツを力一杯抱きしめた。  「酷い奴だって泣いてよ、罵ってよ。僕はりっちゃんみたいに綺麗じゃないんだよ。指示されれば誰だって殺す…人の気持ちも分からない、怖い奴だって…」  「そんなの…俺だって、綺麗じゃないよ。でも、シンヤさんが大事にしてくれたのは、嘘でも嬉しかった。」  リツが笑うと、またシンヤは目を見開いたあと、視線が落ち着かない。 「できない。父さんに試されてるの分かってるのに…やっぱり…僕は、りっちゃんを殺せない」  シンヤの目から涙が流れた。リツは嬉しそうに笑った後、シンヤの服から銃を取った。  「俺を守ってくれた、選んでくれた“ボス”に俺は一生ついていきます。」  そう言った瞬間、援護に来た桜井テンカの部下を次々に撃ち抜いた。シンヤと抱き合ったまま、リツの目は鋭く相手を見る。  「俺達を不要とするボスは、消えてもらう」  リツは人が変わったように神がかった集中で銃を鳴らす。突然の銃撃戦にサキは身を隠し、ミナトに指示を仰ぐ。  「ミナトさん」  『まさかの反乱か…。サキ、一旦2人から離れて、アサヒのところに向かって。2人には僕らと争う理由はないはず。なんなら目的は同じかもしれない』  「はい」  「サァァアアキィィィ!!」  「っ!」  リョウタの声に焦る。ここに来てはいけない。ここには、敵しかいない。  「リョウタ来るな!!」  「ふは!チビちゃんウザすぎ」  「…なるほど、あの特攻から逃げてきた奴ら」  シンヤはリツの腕を止血しながら暢気に笑う。リツは左腕をなんとか動かして銃を向ける。 ドアから見える隙間からリョウタと敵が接触するのが予想できた。その隙間、20cm。サキは静かに銃を構え引き金を引いた。  パァン!!  「おわっ!サキ!いた!」  「いた、じゃない!来るなって言っただろ!」  サキは怒鳴るが、頭から血を流したリョウタは笑顔でサキに抱きついた。  「良かった。会えた」  リョウタはそう言った瞬間意識を失った。 

ともだちにシェアしよう!