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第143話 劣勢

「リョウタ!リョウタ!」  サキがリョウタの頬を叩いて意識を戻そうとするも目を閉じたままだった。  「ミナトさん、どうしよう…」  『リョウタさんを置いて、先に進んでください』  ミナトの声じゃないことに驚く。  (ユウヒの友だち…シズクか)  「それはできない」  『いいえ。あなたはここで止まっている場合ではありません。僕が指示を変わった理由は想像つきませんか?』  「…へ?」  リョウタのことで精一杯で、他の音を聞いていなかった。目の前では仲間内での銃撃戦、腕の中には恋人でもある仲間が意識不明。  『ボスが致命傷に近い攻撃を受けました。』  「なん…だって?アサヒさんが?」  そう聞き返すと、シンヤとリツがこちらを見た。  『はい。桜井テンカとの攻撃の中、桜井テンカ一派、そして側近の慎一郎を殺害しましたが、テンカにより深いダメージを受けています。今、ミナトさんと、ハルさんが現場に向かっています。』  「そんな…っ!」  『もう一度言います。あなたは援護に徹するべきです。頭がなくなればユウヒやアイリちゃんは不安定になります。』  「分かった」  サキはリョウタを優しく床に置くと、頬にキスをしてその部屋を出た。  「あらら、置いてっちゃった」  「アサヒさん…に、何かあったのかも」  「どーするりっちゃん。行きたい?」  シンヤはリツの頭を撫でながら目線を合わせるために屈んだ。  「……。」  リツは下を向いた。今の頭じゃなにも考えられない。  「よし。行こっか。」  何かを察したのかシンヤは笑顔でリツの手を引く。  「あ、待って。この子…」  リツはリョウタに近づき、止血した時に余った布で、リョウタの手当てを始めた。  「ん?助けちゃうの?」  「うん。サキの大切な人だから。」  「ふぅーん?ほっとけばいいのに」  「ダメだよ。サキには幸せになってもらわないと。」  そしてシンヤを見て、誰がこんなにしたの、と怒り始めた。シンヤはクスクス笑ってリツの頭を撫でていた。  ーーーー  『そこ、右です』  バン!  勢いよくドアを開けると、アサヒが真っ赤な液体の中で倒れていた。そして、ウイスキーを煽る桜井テンカ。  「君はこの間の…。ボスがやられてしまった上での交渉だが、桜井アイリを渡してほしい」  「渡せません」  「そうか。なら、アジトにいけばいいだけのこと。もう部下が向かっている。ここでアサヒやお前たち武装部隊を殺してしまえばどうでもいいこと。」  桜井テンカはウイスキーの瓶を置いた、ところでサキはいつの間にか壁に飛ばされていた。砂埃が舞う中で銃を取り出して気配だけで銃を撃つ。  「ほう…お前は実に腕がいい」  砂埃が収まると、確かに左足と肩に命中しているのにまだ笑って立っている。  (バケモンかよ)  「アイリを渡せばお前と他の奴らの命を助けてやるぞ。居場所も用意しよう」  「……。」  「アイリもそれを望むはずだ。みんなが傷つくよりはってな」  「っ!?」  「アイリは頭のいい子だ。どうすればみんなが助かるかを知っている」  もう交渉が成立しているような言い方に冷や汗が流れる。  「シズク、アイリいるか?」  『アイリならさっき、ユウヒと…ユウヒ!ユウヒ!?』  シズクの声に頭を抱えた。  アイリは自分の意思で向かっていることを察した。  アサヒの怪我でパニックになったミナト。ミナトに付き添うハル。そして、ユウヒとカズキはアイリに眠らされていた。  「クッソォ!!」  「はははっ!全ては仕組まれていたことだ!」  サキは怒りに任せて銃を放つ。 「サキ兄ちゃん!!」  アイリの声に振り返る。桜井テンカの部下と手を繋ぎ、ボロボロ泣いている。  「お父さん!!お父さん!!嘘つき!お父さんに怪我させないって!!」  アイリが暴れるのを部下が押さえつける。アイリの悲鳴にゆっくりとアサヒが起き上がる。  「お父さん!お父さん!」  「何やってんだ…てめぇら…」  「アイリは自分で望んでここに来たんだ」  テンカはアイリを抱き上げるが、アイリは泣きながら嘘つき嘘つきとテンカを叩いた。  「みんなを傷つけないって!言ったくせに」  号泣するアイリを見てアサヒの瞳が紅くなる。物凄い出血量にも関わらず動きが今まで見た中で1番早かった。一瞬の隙をついてアイリを抱き上げたあと、サキに渡し、テンカと距離をとった。  「お前ら、あの女の子を確保しろ。アサヒは俺で対処する」  テンカの指示で部下たちがサキとアイリの所へ向かってくる。半分は撃ち殺したが間に合わない。アイリを強く抱きしめて蹲った。  ドカン グシャ バキバキ  鈍い音の後、静まり返った空間にサキは目を開けた。 「アイリ!!留守番って言っただろ!!!」  ハルの怒鳴り声。  アイリは安心したのか大声で泣き始めた。そしてドアの近くには動くアサヒを見て腰を抜かすミナト。 「何お前まで来てんだよ。めちゃくちゃだな」  アサヒは苦笑いして、口元の血を拭った。  「やっぱり中学生には荷が重かったか」  独り言のように呟いて、アサヒは目の前のテンカを見た。  「くそ、アイツら遅いな」  「桜井シンヤとリツ以外の部下は、俺と弘樹で全員潰した。桜井テンカ、あなたの組みはもうあなたしかいねえよ」 「シンヤがいるだろう。」  バカだなと大笑いしているテンカにハルは笑う。アサヒはそれを怪訝そうに見た。  「今から来るぜ。あなたを殺しにな」  「何を可笑しなことを」  「忠誠を誓った奴を、試すから部下が離れていくんだ。」  ハルはバキバキと骨を鳴らした。  「あんたの組は、今日なくなるんだよ」  ハルの言葉にアサヒも笑って、2人で向かっていく。初めて合わせたとは思えないほど連携が取れていた。しかし、テンカはそれにも動じないほど強かった。ハルとアサヒがそれぞれ別の場所に飛んで、ハルは起き上がったがアサヒが起き上がらない。 「お父さん!お父さん!」  「アサヒ!」  「ミナトさん、ここにいて!!」  駆け出そうとしたアイリとミナトをサキが引き止めた。 「ふっははははは!アサヒもここまでか!でもお前にしてはよくやった方だ。部下なんかいくらでも作れる。この力があればな。お前の言う断捨離をしたまでだ。」  アイリとミナトの叫びが部屋中に響いた。 

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