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第145話 反撃へ
リョウタは目を覚ますと、サキではなく、リツのドアップに呼吸を忘れた。まん丸な目が優しく笑った。
「良かったぁ」
笑ったらタレ目になる彼が眩しく見えた。そして後ろからボスに似た顔。
「やーっと起きた。寝坊助にも程があるよ」
「血が止まりにくいね。まだ貧血があるかも。立てる?」
「はい……。うっ…」
立ちくらみをしてリツに支えられると、その手をシンヤに払われてドシャっと地面に落ちた。
「こーら!シンヤさん大人気ないぞ!」
「ダメ。りっちゃんに触るのは怪我人でも許さない」
「嫉妬深い人、俺嫌いだな」
「やぁぁああだぁああありっちゃんんん」
リョウタは倒れたまま唖然とそれを見ていた。意地悪そうで飄々とした、何考えてるか分からなかったシンヤが、リツに抱きついてイヤイヤと駄々をこねている。
(うわぁ…何これ…)
「あ、引いてる」
「りっちゃん以外にどう思われてもどーでもいいーっ!りっちゃん嫌いって言わないで」
「んもー!分かったから!じゃあこの子を担いであげて?そしたら嫌いにならないから」
「えー…」
あからさまに嫌そうな顔でリョウタを見下した。虫ケラでも見るかのような目にリョウタは泣きそうになった。
(ひぃ!怖いぃ…自分で歩けるし!俺が頼んだわけじゃないのに…)
リョウタはガクガク震えるが、リツはニコリと笑った。
「敵だった怪我人を運ぶなんてカッコいいな」
それを聞いて目を輝かせたシンヤは物凄い勢いでリョウタを担いだ。
(こ、この人チョロい!!)
「あ、あの、すみません」
「本当にねー。りっちゃんに感謝しなよ。僕は君なんか本当に、心から、どーでもいいんだからね。」
「あ、はい、承知しました」
リツはクスクス笑って、ごめんねーと軽くリョウタに謝って少しストレッチをした後、顔が変わった。
「俺の、忠誠心を見せるよ。シンヤさん」
「うん、楽しみにしてる」
近くで見たシンヤの顔は、ミナトを見るアサヒのように優しい顔だった。
「アサヒさんにそっくりだ」
「君、前も言ってたよね〜。…同じ顔なのにさ、僕は兄さんと違って厄介者扱い。やってらんないよね〜」
口を尖らせるシンヤの雰囲気が前とは違っていてリョウタはじっと顔を見た。
「りっちゃん、僕、なんか付いてる?」
「いいえ?」
リツも首を傾げた。リョウタは慌てて雰囲気が違うと話した。するとリツとシンヤは目を合わせて、あはは、と笑い出した。
「俺の躾の賜物ですかね?」
「りっちゃんが教えてくれたんだ。人の気持ち、ってやつ?…初めてだったんだ。僕自身をちゃんと見て、ちゃんと根気よく向き合ってくれたのは。」
シンヤは嬉しそうに話した。子どもみたいに笑って、幸せだという感情が全面に出ていた。
「兄さんがミナトを離さない理由が今なら分かるよ。僕からりっちゃんをとったら、僕には何もない。前の僕にはもう戻れない」
シンヤの真剣な言葉に、リツは目を潤ませて笑った。
(リツさんは、人を大切にするから、人から好かれるんだ。愛情深い人なんだ。)
だから、サキも、と過った。
急速に落ち込んでいく。リツは落ち込んだリョウタに気付いて笑った。
「大丈夫。サキは君が大事だよ」
「っ!」
欲しい言葉をすぐにくれる。安心するリツの存在。
(あぁ…やっぱり勝てないや。悔しいな)
リョウタは苦笑いでその励ましに答えた。
「君、落ち込んでる暇はないよ。目的地に着いたら君を秒で下ろすから。僕らはやるべきことがあるんだからね」
「あ、はい!」
近づいていくと、先程の柔らかい雰囲気が殺気に変わる。優しい印象のだったリツの目は鋭く、リョウタは背筋が凍るようだった。
(これが…アサヒさんの選んだ特攻)
そして、廊下に見えたのは倒れるアサヒと、必死に声をかけ続けるミナト、止血や縫合をするアイリ。
(アイリが何故ここに!?)
足音を聞いてミナトが顔を上げた。リョウタには気付いてないのか、シンヤとリツを見た瞬間、アサヒの前に立って両手を広げた。
「アサヒに近づかないで!!」
張り上げた声は震えていた。泣き腫らした顔でも揺るがない強い意志が見える瞳。
(ミナトさんも、闘ってる)
「チビちゃん降りて。」
ドシャっと落とされて顔を上げると、ミナトはストンと腰を抜かした。
「リョウタ…っ」
「ミナトさん」
アイリは集中しているのか全く気付いていない。ミナトははらはらと涙を流した。
「もう…どうしたらいいか…分かんないよ」
こんなに心細そうなミナトを初めて見て駆け寄って抱きしめた。治療を受けるアサヒは真っ青な顔だった。
「兄さんがここまでになるなんて…。あのジジイいよいよ本気で潰しにきてるんだね」
「ミナトさん」
リツは抱きしめられているミナトに近づいた。
「アサヒさんは大丈夫です。大切なあなたを置いていくわけがない。…桜井テンカは、俺たちが潰します。」
「そろそろ世代交代してもらわなきゃねー」
戦況はハルと弘樹が2人がかりでなんとか持ち堪えている。シンヤがハルに気付いて目を輝かせ。
「わぁ!あの時の組長さん!?すっごいね!本当に強かったんだ!動きがしなやか!」
「ハルさん…」
「あの金髪の子も特攻かな?若いね」
「あの子…センスがすごいな…」
シンヤはリョウタを見てニヤリと笑った。
「君よりあの子の方が特攻っぽいね?」
「うるさいですよ」
「だぁーって君さぁ、スピードはあるけどそれだけだもん。あの子みたいに考えて動かなきゃ、一緒にいたら巻き添え喰らいそう」
最悪〜と首を振って舌を出した。
(煽り上等!見せてやるっ!!)
リョウタはポンポンとミナトの背中を叩き、体を離した。まだ心細そうなミナトにうしろ髪ひかれながらシンヤとリツの間に立った。
「俺をなめないでください」
「舐めないよ。キョーミない。りっちゃんなら…」
「シンヤさん」
「あ、はい。…まぁ敵は今や1人。揉め事はサクッと終わらせて、後で勝負しようね」
シンヤはニヤニヤした後、舌舐めずりしてテンカを見た。その瞳が紅くなっていく瞬間を見た。
(俺も負けない!!)
リョウタも一歩踏み出した。
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