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第146話 やり直し

体が、浮いたみたいに軽い。  なんの匂いもしない、寒くも暑くもない。  アサヒはそっと目を覚まして、周りを見渡した。そこは真っ白な世界。  (あぁ…死んじまったのか。)  ゆっくり立ち上がって、前に進む。どこに行けばいいか分からないはずなのに、足取りはしっかりしている。 (あいつら…置いてきてしまったな…)  そう考えた瞬間、足が張り付いたように動かなくなった。振り返りたいのに、体が動かない。  (もう戻れない…。分かってる。)  張り付いた足が未練だとして、このまま立ち止まるわけにもいかない。どうするべきかと天を仰ぐ。 「アサヒ!何してんのよ!!」  久しぶりの声に目を見開いた。目の前には怒っているアイラの姿があった。最期に見た、あの時のまま。 「みんなを頼んだのに!あんただけのこのこコッチに来たの!?信じられない!」  ずんずんと近づいてくるアイラに、アサヒはぽかんとそれを見ていた。  パシン!!  頬に熱が走る。  (感覚は…まだあるんだな…)  懐かしい、妻の手。 「しっかりしな!まだ終わってない!!」  「っ!」  「あんたが、笑顔でミナトやユウヒとアイリを連れてきたのなら迎えるつもりだった。…でも、泣いているあの子達を置いてくるのは許さない」  アサヒは目の前のアイラを凝視した。何度も視界が滲んで何度も瞬きをした。  そして、ふわりと抱きしめられる。  「アサヒが頑張ってるの、見てたよ。」  顔をびしょびしょにしたまま、アサヒは何も返せなかった。アイラの昔と変わらない包容力に素直に身を任せた。 「でも、今、苦しい中であんたを守ろうとみんなが動いてる。アサヒが私のところに行けないのは、みんながまだ逝かないでって引っ張ってるから。」  「っ…っ、」  「私はずっと待ってるから、今度は1人じゃなくて、ミナトと一緒に笑いながらおいでよ。ミナトを泣かせたままのアサヒなら、何度でも何度でもやり直しさせるから。」  アイラはアサヒの顔を見た。ふわりと笑ってアサヒの頭を撫でた。  「マヒルを探してるんだけど、まだ会えないんだ。たぶん、マヒルもまだ未練があって立ち止まっているの。マヒルの仇、とってきてよ。そしたらマヒルは安心してこちらに来てくれるから。」  「…あぁ。分かった」  よし!行ってこい!とアイラに背中を押され、一気に重力を感じた。  (アイラには敵わねーな…)  アサヒは微笑んでアイラに誓った。  「ジジイになったらまた来るから!」  「そうだよ。アイリやユウヒの孫を抱っこしてからおいで」  アイラは満面の笑みで手を振った。  「頑張れ、アサヒ。」  ーーーー  「っ!…ゴホッ、ゴホッ」  「お父さん!」  「アサヒ!」  ゆっくり目を開けると、アイリとミナトがこちらを覗き込んでいた。  「心配…かけたな…悪ぃ」  「そんなことないよ、お父…」  「本当だよ!アサヒのバカ!!」  ミナトは泣きながら怒っている。  (やっぱり泣かせてた。)  アサヒが笑うと、何笑ってんのさ!と激怒している。アイリはポカンとミナトを見た後、笑いながら涙を拭いた。  (ミナトがここまで激しく気持ちを表現するのは初めてだな)  それも嬉しくてミナトの手を握った。  「ミナト、戦況は?」  「ハル、ヒロがテンカを足止め。サキが何発か命中させてるけど動きは止められない。さっきリョウタ、シンヤ、リツが加勢に入った。サトルとユウヒが…」  「はっ?」  思わぬ登場人物にミナトを見た。ミナトは微笑んで頷いた。  「テンカさんの組織は分裂した。シンヤとリツの目的は僕らと同じ。今は共闘してる。」 「マジ…かよ」  「いやぁすごいね、リツは。シンヤが生き生きしてる。やっと“人”になった感じ」  アサヒは闘っているみんなを見て、ゆっくり立ち上がった。  「アサヒ?」  「お父さん…まだ、」  「俺も行かねーと。あいつらが頑張ってんのに、俺が寝てる訳にもいかねーよ。アイラにまた怒鳴られちまう」  「「?」」  アサヒはニヤリと笑ってストレッチを始めた。 

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